第12話 スローライフ配信者。BBQで交流する
「さてと。俺も肉を食おうかな」
修二君が皿に肉を乗せて食べている。
「うーん。相変わらず良い肉を使っているっすねえ」
修二君もこの肉のうまさに笑顔になっていた。修二君だけではない。他のバーベキュー参加者も笑いながら食べている。
「なんかいいな……」
俺は自然とそんな言葉を口にしていた。修二君が俺と肩を組んできた。いきなりのことに俺は驚いた。
「うわっ……」
「へへ。こういう雰囲気もいいもんすよね。俺もみんなとバーベキューするの好きっす」
修二君が俺の体から離れた。都会にいたころには気の置けない友人としか飯に行く機会はなかったから、こうして見知らぬ人たちとバーベキューするのは新鮮な体験だった。
「そろそろこのソーセージが食えそうっすね」
「お、じゃあ。いただきます」
俺はもう遠慮することなくソーセージを取った。ソーセージを噛むとパリっと音がして中から肉汁がじゅわあと出てきて、口の中にうま味がぶわっと広がった。
「おお! このソーセージもうまい」
俺がソーセージを食べていると酒気を帯びた新村さんがビール缶を片手に持ちながらやってきた。
「よお。楽しんでいるか。若者たち。ほらほら。蓮君。ソーセージと言えば、このビールが非常にあう。飲んでいこうぜ」
新村さんは未開封のビール缶を俺に押し付けてきた。
「え、で、でも……」
俺は修二君の方をチラっと見た。彼はまだ19歳で酒を飲めるような年齢ではない。俺1人だけ飲むのも気が引けてしまう。
「あ、俺は気にしないんで、狩谷さんも飲んでいいっすよ」
「そ、そうか。では、お言葉に甘えて」
俺はビール缶を開ける。ぷしゅっと泡が出てきてビールの麦の香りが漂ってくる。
「はい。かんぱーい!」
新村さんは自分の分のビール缶で俺と乾杯をした。乾杯した後に新村さんはゴクゴクとビールを飲み始める。行動が早すぎる。
俺も釣られてビールを飲み始める。
「ん……ごく……ぷはぁあー! うめえ! 青空の下、みんなと飲むビールがこんなにうまいなんて」
俺はビールのうまさを全身の骨身に沁みさせながら、更にビールを飲んだ。
「いいなー。俺も早く酒を飲めるようになりたいですね」
修二君が羨ましそうな目で俺を見ている。修二君も20歳になれば酒を飲めるようになるし、結構飲めそうなタイプである。
「うん。修二君。20歳になったら一緒に飲もうか。1杯くらいならおごるよ」
「お、マジっすか。狩谷さん気前がいいっすね。さすが!」
俺はついつい気の良いことを言ってしまった。もう酔って気が大きくなってしまっているのだろうか。
まあ、自分より6個下の子に1杯もおごれないのは、さすがに経済的に余裕がなさすぎると思うので……来年の俺にはぜひともビール1杯が痛手ではないくらいには稼げて欲しい。
「そろそろこのエビも食えそうだな」
「そっすね」
俺は丸々一匹焼かれたエビを取る。殻を剥いてからそのエビを食べる。ぷりぷりとした食感がくせになる。海鮮のバーベキューもいいものであると俺に認識させてくれる。
「このエビうま」
「本当っすね」
次々に焼かれていく具材。肉も食べながら、他の野菜や海鮮系の食材とかも食べていく。
最初こそ肉を食べるのにも遠慮していた俺であるが、今はもう積極的に食っている。むしろ食わなきゃ損とまで思ってしまっている。
「お、食べてますかな」
真木さんがやってきて俺に話しかけてきた。
「ええ。真木さん。今日はこんな素敵なバーベキューを開いてくれてありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ。バーベキューは参加者あっての楽しい会ですから、参加してくれて嬉しいです」
真木さんはにっこりと微笑んだ。本当にここの人たちはみんな良い人たちばかりだ。人が良すぎるというか……温かい。
「真木さん。この肉ってどこで仕入れたんですか? こんな良い肉中々手に入らないでしょ」
「ああ。それはですね。まあ、地元で長いこと商売していると色々な職業の方と色々なコネというものができるというものですね。精肉店の卸売り業者の方とも仲良くさせていただくこともあるのですよ」
「なるほど……」
人間関係が濃密な田舎ならではの人脈ってやつか。俺もそういう人脈を持ってみたいし、逆に誰かの役に立つ存在にもなってみたい。
とはいえ、俺にできるのは営業トークとか配信とか……いや、これらも向いているとは言い難いかもしれない。営業はやめているし、配信もダンジョン配信はこけちゃったからな。
俺たちはその後も肉を食べ続けた。そろそろ腹がいっぱいになってきたタイミングで「ふっふっふ」と修二君が含み笑いをしてきた。
「狩谷さん。そろそろデザートの方にいきたいと思わないっすか?」
「え? デザートがあるの?」
バーベキューでデザート? あんまり想像できないな。
「ほら、これ!」
修二君が取り出したのは、でかいマシュマロが入った袋だった。修二君はマシュマロを手に取り、それを串に刺してあぶり始めた。
「そ、それは……噂に聞く焼きマシュマロ」
「はい。わざわざバーベキュー用の焼きマシュマロを買ってきたんです。狩谷さんもどうですか?」
焼きマシュマロはうまいと言われているが、実際にやったことがなかった。いつかやってみたいと思うけれど、その機会に恵まれないまま25歳になってしまった俺。
「ありがとう。修二君。ちょっと頂くよ」
俺もマシュマロに串を刺して修二君と一緒にマシュマロをあぶりだした。
少年のような笑顔でマシュマロをあぶっている修二君は鼻唄を謳い始めた。
「狩谷さん。焼きマシュマロ食ったことありますか?」
「いや、ないかな」
マシュマロと言えば、小さい一口サイズのものしか食ったことがない。当然、そんなものを火であぶるようなことはしたことない。
「この焼きマシュマロ。マジでうまいっすよ」
「そうなんだ。それは楽しみだな」
修二君の反応を見ているとそれが真実であるかのように思える。ここまで笑顔で期待に満ちた目をしているとこちらの期待感も高まるというもの。
「そろそろ焼けたかな。じゃあ、いただきます」
修二君がマシュマロを口に含む。
「う、うんめえ! これマジうまいっすよ」
「そんなにうまいのか」
俺はごくりと唾を飲んだ。修二君がそこまで言う焼きマシュマロ。それを味わってみようじゃないか。
俺はあぶったマシュマロを食べる。口の中にとろっとした食感と濃厚な甘さが広がる。
なんだこれ。なんだこれ。マシュマロってこんなにトロトロとして甘いものだったのか。もっとこう、ふわってした感じかと思ったけれど、ほどよく溶けていて……これはこれでうまい!
外側はとろっと、内側はふわっと。2つの食感が楽しめてこれはお得なうまさだ。
マシュマロを焼く。たったそれだけのことなのに、一気にうまくなった。こんなの食ったら、もう普通のマシュマロを食えるような気がしない。いや、気がしないだけで実際は食うけど。
「へへ。うまいでしょ」
「うん。こんなうまいマシュマロ食ったのは初めてだ」
いつもの食べ物も調理法を変えることによって全く違う味になる。食べ物とは実に奥深いものである。
デザートも食べたし、他のみんなも食べ終わった雰囲気を出していたのでバーベキューはお開きとなった。
俺と修二君は片付けを手伝うことにした。
「いやー。狩谷さん。有泉君。手伝ってもらって申し訳ないですね」
「いえいえ。こちらも楽しいバーベキューを開いてもらったので、これくらいしないとバチが当たりますよ」
「そっすよ。真木さんはゆっくりと休んでいてください」
こうして楽しい1日が終わった。真木さんのバーベキューは定期的に開催されるらしいし、また参加したいと思った。
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