第3話
長い同棲を経て籍を入れた二人。第一子が生まれ、顔を見合わせながらモグモグする。
その様子を、祥司は撮影していた。
「パパ、食事中にスマホ見ないの〜」
「思い出に残してるんだよ〜」
「仕方ないなぁ、許す」
「ママのお許しが出た」
撮影したばかりのものを再生する。祥司は娘の髪型について突っ込んだ。
「柚希、寝癖すごいことになってるんだけど」
「どこにも出掛けないし、かわいいから」
柚希、女の子なのになぁ。そう思いながら祥司は跳ね上がっている髪を撫でた。
「祥ちゃん、赤ちゃんの髪って柔らかい気がしない?」
「そうなの?」
「そんな気がする」
そう言った葵の髪を、見つめた。以前は長く伸びたあと、ばっさりカットしていた葵。
柚希が生まれてからは、何かとお金が必要になるという理由から特にこだわってないからと自宅でセルフカットするようになっていた。
「柚希の美容院と兼ねて、葵も久しぶりにカットしたらどう?」
「自分でするの慣れちゃったし。元々美容院、苦手だったんだよね」
髪を伸ばしたいんだな、ただそれだけだと思っていた祥司。
パーテーションで区切っている、それぞれが過ごしていた空間は、出産と同時にまとめることにした。
大人しい性格の葵。できるだけ一人の時間が必要だろうと考えてきた祥司は、肩の力を抜けるのか頬杖をして難しい顔になる。
「祥ちゃん?」
「葵の性格からしてさ、何でも聞くと意識させて疲れるかと思って言わないでいたけどさ」
「うん」
「それは逆に言っちゃえばさ、葵に全部背負わせてることになるのかなって……少し考えた」
柚希にひとくち、スプーンを運ぶ。
「祥ちゃんの気遣いに、いつも助けられてるね。気づいたら私の居心地の良い場所が出来上がってるんだから、反対に疲れさせてないか不安になるくらい」
「俺が一方的に好きになって、遠慮もあっただろうし警戒心が強いんだから。いろいろ気にかけるのは当然だよ」
「それを聞いたら、改めて好きが強いなぁ」
突っ込むように、柚希も声をあげる。
「パパね、ママのこと大好きなんだよ?」
「葵、棒読みになってる」
柚希が生まれることで、母と父になる二人。パパ、ママと呼びあったほうがいいとは思っていたけれど、慣れない。
会話に意識して混ぜることで、悩みがひとつ減った。
「わぁ、完食。柚希、お腹いっぱいになった?」
口をめいいっぱい開けて、ニコニコする柚希。
「ほんと重力無視して飛んでるね、髪。リボンでもつける?」
「ママに遊ばれたね」
「パパの髪も長さは問題ないから、柚希とお揃いにする? スマホで撮ってあげるよ」
柚希が生まれてから、こんなやり取りも増えた。そう思った祥司は笑い、食器を洗うと言いキッチンへ逃げた。
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