第2話

 セミダブルのベッドに、枕が二つ。先に目が覚めた祥司は、葵を起こさないように近くに置いてあるスマホを掴む。

 膝を抱え、丸まった寝相の葵。三十分ほどスマホを見ていたのち、葵は目が覚めうつ伏せの体勢になっていた。


「葵、おはよう。え……寝た? 二度寝?」

「ん〜……おはよ」


 目をこすり、だんだんはっきりしてくる頭。葵はキョロキョロと、視線を動かした。


「昨日はいつもの私じゃなかったよぉ……」

「俺は嬉しかったよ。だからそんな事言わないで」


 枕に顔をうずめた葵。泣いているのかよく分からない唸る声は、枕に吸収されていく。

 シングルとセミダブルが置ける広さの部屋は、パーテーションで区切られている。

 葵の性格からして、誰にも見られず過ごせる空間があるほうがいいと祥司は考えた。それを解決するのがパーテーションとなった。


 眠気がくるまでスマホを見ていようとした祥司のところへ、枕を抱えた葵がパーテーションから覗く。


「どうした?」


 祥司の声に葵はちょこちょこと近づき、ベッドに腰掛ける。


「葵?」


 大人しい性格、全く予想もしてない行動に、祥司は顔を覗き込んだ。

 シャンプーがふわりと香り、ほんの一瞬触れる唇。


 そこまで思い出したところで、葵の様子を窺う。スマホで何か調べていた。


「お腹いたい。生理だからおかしかったんだ」


 いつの間にか一人で解決に至っていた。


「朝ごはんにしよっか」

「おかゆが食べたい。作る」


 腹痛はどこいった? そう呆気にとられる祥司。

 洗面所、鏡に映る二人。寝癖の酷さに笑う。


「お粥にするなら鍋が必要だね。ご飯はぴったりにしか炊かないから無いし、パックのやつにするね」

「祥ちゃんは卵溶いてて、あと鶏がらスープの素も出しておいて」

「はいはい」


 沸騰した鍋、ほぐれてきたパックご飯に、卵と調味料が入る。器に盛り付け、ネギがぱらりとかけられた。


「丁寧な朝ごはんだ〜」


 はしゃぐ祥司は、レンゲでぱくりといった。葵はレンゲで少し掬い、小さく口を動かした。


「ん〜、おいひぃ」


 お粥のやさしい温かさが、身体を起こしていく。心地良い、一日の始まり。


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