第4話登山隊3

吹雪は1週間を超えようとしていた。

香川と伊藤は亡くなった。

山小屋の外に安置してある。山小屋は火を焚いているので、腐敗が進むからだ。

1日に3時間、寺山と田嶋は外に出て、食料を確保していく。

生き残る、寺山、田嶋、園田、中川は得た食料で生き延びた。


ある朝、3人が目覚めると田嶋の様子が変だ。

元看護士の寺山は確認した。

持っていた包丁で、頸動脈を切っていた。自殺と見られた。だから、彼の周りは生臭い血液にまみれていた。

寺山と園田は2人で田嶋の遺体を外に運んだ。

その時、園田は3つ並んだ遺体を確認した。

3体とも、普段通りである。寺山が遺体の肉をみんなに食べさせた訳では無かった事に安心した。


山小屋に残る3人は、暖炉を囲み、寺山が言った。

「君たちは、武田泰淳の『ひかりごけ』を知っているか?」

園田は知らないと言う。

中川は、

「船長が、死んだ乗組員の肉を食べた話しですよね?」 

「あぁ、そうだ。これから、野ウサギの確保も難しい。山小屋の外の人間の肉を食べるしか、俺たちの生きる道はない!」

と、雪を溶かした水を飲む。

「誰から?」

と、中川が言うと、寺山は

「新鮮な、田嶋を食べよう」

「私は、反対です。人肉なんて食べれません。それなら、死んだ方がましです」

と、園田は言った。

「良し、中川、田嶋の肉を取りに行こう」

「はい」

2人は、死後硬直した田嶋の大腿部を包丁とナタで切り裂き、山小屋で調理した。

寺山と中川はその肉を食べた。園田は、食べなかった。

「隊長、野ウサギと味が変わりませんね?」

「……そうだな」


その晩。

「わ、私は食べて無いわ。……いやっ、こっち来ないで!」

「……」

「ギャァァァ」


寺山が朝起きた。中川も起きた。 

しかし、園田は動かない。

「た、隊長!こ、これは……」

「誰の仕業だ!オレは絶対に殺ってない。中川、お前だな?」

「瞳ちゃんは、同期です。親友です。私は殺していない!」

なぜなら、脳天にオノがくい込んでいたからだ。

誰が?一体なぜに?

死体は、山小屋の外に運んだ。

その日の晩は、園田の大腿部を調理した。

残された、寺山と中川は人肉を食べながら救助を待った。


暖炉の木材が底をついた。仕方なく、寺山と中川は同じ寝袋に入り抱きついて寝た。

中川は寺山のイビキに辟易したが、睡魔が襲い、2人して一晩過ごした。


翌朝、中川が目を覚ますと寺山が冷たくなっていた。

何度も声を掛けて、起こそうとしたが、寺山は死んでいた。


その日の昼に、救助隊が到着した。

中川の周りに、5体の死体があった。寺山以外の死体は一部刃物で削がれた部分があった。

園田は右腕を失くしていた。

その時中川は、切り取られた園田の腕にしゃぶりついていた。

そう、野ウサギでは無く、死体の肉を食べていたのだ。

香川は敗血症、伊藤は絞殺、田嶋は刺殺、園田は撲殺、そして寺山は窒息死であった。


山小屋など、元々無かった。

彼らは低体温症で精神状態おかしくなっていたのだ。


後々の調査で、中川が香川以外の人間を殺していた事が判明した。


中川は現在、精神科の閉鎖病棟で生活してると言う。

そして、担当看護師に言うらしい。

「あなたは、人間の肉の味を知ってますか?それはそれは、最高級の肉ですよ」

と。

看護師は、

「はいはい、中川さん、オムツ替えますね」

「あなた、美味しそうね」

「中川さん、また、始まったね。当分、閉鎖病棟から出られませんよ」

「……ふふっ」

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