第3話登山隊2
3日間、救助隊を待ったが来なかった。無線のやり取りは出来ない。GPSも作動しない。外はまだ荒れ模様。夏だと言うのに、吹雪が凄い。
寺山を隊長とする、伊藤、田嶋、中川、園田、怪我をした香川は山小屋で救助隊を待った。
飲み物は暖炉近くで雪を溶かして飲水に代用したが、食料が底をついた。
「隊長、何か食料はありませんか?」
「伊藤、だから、言っただろう。食料は考えて消費するようにと。自分の分で精一杯だ。お前に渡す食料はない」
伊藤は、怪我した香川に言った。
「ミカ、お前の食料を少しもらうぞ」
と、言ってミカのリュックサックを物色しはじめると、園田と中川が、
「伊藤さん。辞めてっ!これは、ミカちゃんの!ミカちゃんを殺す気?」
伊藤は、ペットボトルの雪を溶かした水で我慢した。
「ミカちゃん、凄い熱」
と、園田は言った。
香川は足の傷口からばい菌が侵入し、右足が壊死し始めていた。
寺山は、
「いかん。このままでは、香川は敗血症で死ぬ。傷口を焼こう」
「辞めて下さい!隊長。間もなく、救助隊は来るはずです」
と、田嶋が言った。
翌朝、香川以外の人間は空腹感を感じて眠れない様子。
隊長以外の人間は食料が底をつき、隊長が最後の飴をみんなに分けた。
伊藤は、飴をガリガリ噛み砕いた。
「ねぇ、ミカちゃん起きて!起きて!」
と、園田が呼びかける。反応が無い。
寺山が、確認すると、
「死後硬直が始まっている。香川は恐らく夜中に亡くなったんだろう。暖炉から遠ざけよう。腐敗が進んでしまう」
伊藤は急いで、香川のリュックサックを漁る。
ビスケットを見つけ、1人で食べ始めた。
「伊藤、何しているっ!」
と、寺山が言うと、
「持ち主は、死んだんだ。文句ねぇだろっ!」
「周りにも、分けて下さい」
田嶋が言った。伊藤は、お菓子類をみんなに分けた。
それから2日経った。
山小屋の中の遭難者達は、空腹感に耐えきれない様子。
「残念だが、香川は外に置こう。ここに遺体を置いておくと腐敗が始まる」
男3人で、遺体を山小屋の外に移した。
隊長の寺山が、
「よし!田嶋、私と食料を探しに行こう」
「こんな、吹雪の中、嫌です」
と、田嶋は断った。
それを聴いていた、伊藤が、
「オレがお供するよ」
2人は、山小屋にあった斧と、包丁を持ち外に出た。
3時間後。2人は戻ってきた。寺山が手にした袋には、生肉の塊が入っていた。
「寺山さん何の肉ですか?」
「野ウサギだよ」
「ウサギ?」
と、田嶋は首を傾げた。
伊藤は包丁で、肉の塊を細かくして、山小屋に置いてあった鍋に肉を入れて、たまたま備蓄されていた塩でその肉を煮た。
匂いはきついモノがあった。獣の匂いだ。
伊藤が味見をする。
「どれどれ……ん、美味い。みんな、食べよう」
中川が言った。
「隊長、これって、ミカの肉じゃ無いですよね?」
「……」
「……違う。野ウサギだ」
「絶対、ミカの肉よ!」
と、園田も言った。
「ならば、2人でその香川の遺体を確認に行きなさい。遺体は、外に置いてある」
と、寺山が言うと、2人の女性は外の吹雪を見て、辞めた。
「うんめぇ〜」
と、田嶋がウサギ汁のスープを飲みながら言った。
「ほらっ、お前らも食え」
と、中川と園田の前に皿に取り分けた肉とスープを出したが2人は口を付けなかった。
しかし、暫くすると2人も空腹に耐えかねて、肉にしゃぶりついた。
翌日も、寺山と伊藤は肉を持ってきた。そうして、3日間が過ぎようとしていた。
夜、伊藤がタバコに火をつけようとすると、
「な、何だ?お前は。……オレじゃない。やったのは隊長じゃ無いか!ち、近付くな!……や、やめろっ!」
伊藤は、そう言うと山小屋の隅で寝てしまった。
翌日、食料を獲りに行こうと伊藤を起こそうとしたが、伊藤は既に死んでいた。
寺山が、確認した。
死斑から、死後4時間以上は経っていると推察した。
伊藤の遺体は、香川の隣に置かれた。
次は、寺山と田嶋が食料を獲りに出かけた。
また、獲物を寺山は持ち帰った。
4人で、その肉を食べた。田嶋はかすかに震えていた。
「どうした?田嶋」
「い、いえ。寒いだけです」
田嶋も肉を食べ始めた。野ウサギの肉は焼いて食べるよりも、煮込んだ方が柔らかく美味かった。
救助隊を4人は、ひたすら待った。
寺山は、伊藤のタバコを拾い、火をつけて吸っていた。
不思議なほど、吹雪は続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます