ある国での出来事
「師匠、今日はなんでここに?」
師匠は、小さくこじんまりした店の前にある本棚をまじまじと見ていた。
店の中や、床、店の外まで古本が並べてある。
「旅の道中に読みたくてね」
「脇見運転ですか?」
「突き詰めれば、そういうことになるね」
師匠は本を一冊手にとってパラパラとページをめくる。
赤茶色に色褪せたページから次々とホコリが舞った。
「これは面白いね、買おう」
しばらく本を読んだ師匠は、懐から硬貨を取り出して、カウンターに進む。
「なにか見てみようかな」
陸も本を一冊手にとって見る。
「ん?」
ページに挟んであった紙が落ちる。
「なんだこれ?」
拾い上げる。
「陸、なにそれ」
師匠が戻ってきた。
「これは、地図だ」
「どこの地図です、師匠」
「これは、この国と近くの国までの地図だ」
「でも、師匠、この赤点なんですかね」
地図には、国と国を結んだ線と、国とのちょうど中央にある点が描いてあった。
「行ってみないとなんとも言えないけど、何かあるのかな」
「行ってみます?師匠」
「次に行く国も近いし、行ってみようか」
陸は、本を買って店を出る。
「さて、陸、荷物をまとめよう」
明日出発できるように荷物をまとめる。
「陸、明日は早いぞ」
その日は、普段より数時間早くベッドに入った。
「陸、起きて」
「んん、師匠?」
そこには、いつもの師匠が見えた。
フライトジャケットを羽織って、ゴーグルと飛行帽を被った師匠が見えた。
「陸、出発だよ?」
「師匠?」
いつも師匠より陸の方が早く起きるのに、なぜか今日は師匠の方が早く起きた。
「陸、出発だよ?」
「分かってますよ」
「陸、出発だよ?」
「だから、分かってますって」
「陸、出発だよ?」
いつもはこんなことしない師匠なのに、今日に限って何かがおかしい。
「どうしたんですか師匠」
陸が聞いた途端、師匠の顔がドロドロに溶けた。
「りくぅぅぅう、しゅっぱつぅだよぉぉぉぉ」
おぞましい声が陸を包む。
「ひっ」
「りぐぐぐぅぅぅ、じゅっぱずだよぉぉぉぉぉぉ」
師匠だったものはこっちに近づいてきた。
「くるなぁ!!」
陸は近くにある拳銃のホルスターから拳銃を抜き取った。
安全装置を下げ8連射。
.45ACPの発砲音が連なって部屋に響く。
「はあ、はあ、はあ」
さっきの師匠だったものは跡形もなく消えていた。
それどころか、部屋の家具や、持っていた拳銃などの全てが消えていた。
「なんで」
急に目の前が暗くなって陸はその場に倒れ込んだ。
「陸!!」
目を覚ましたら、そこはいつも見ている銃座からの景色が広がっていた。
「陸、起きた?」
師匠の穏やかな声が聞こえる。
「師匠、俺は一体」
「飛んでいたらいきなり反応がなくなってさ、きっと『空のカミ』にでも連れ去られたんだろうよ」
「でも、頻発する空域は飛んでないだろ?」
「陸、夢の中で本か地図を見なかったか?」
「見たよ?」
師匠の顔が引き攣った。
「逃げるぞ!」
「なんで!?」
「今すぐに逃げないと奴らが来る!!」
師匠は回転数を落としていたエンジンをフル回転にさせる。
「師匠!なぜ逃げるんです!?」
「空の幽霊船が来るんだよ!そいつは圧倒的な火力でどんなに攻撃しても傷一つ付かないんだ」
「そんな化け物、聞いたことないぞ!?」
「そりゃそうだ!生き残った人はほぼゼロだからな」
「なんでだ?」
「あいつが全部撃ち落としているからだ!」
「そりゃあ、たいへんだぁ」
そのまま師匠は一直線に機体を飛ばす。
「師匠、後ろからなにか来てる!」
「ああ、おしまいだぁぁ..」
それは、飛行船と言うには大きすぎるものだった。
全長は1kmはありそうな巨体が悠々と飛んでいた。
「なんでこんなに大きいのに速いんだよ!!」
陸は恨みを吐いた。
「師匠、なにか光った!」
次の瞬間、風が薙ぎ倒されるような音と共に、空気が揺れて大質量な物が飛んでいった。
「撃たれてる!!撃たれてる!」
それは、戦艦用の大きな砲弾だった。
「師匠!!」
陸は叫ぶも返事はない。
「師匠がいない!?さっきまであそこの操縦席に座ってたのに」
そこは誰もいなかった。
「うひ!」
また飛行船からの砲撃。
「がぁ!!」
砲弾は機体の胴体に当たり、機体を二つに叩き割って爆散した。
「陸、起きて」
師匠の声と共に陸は目を覚ました。
「陸、大丈夫か?ずっとうなされてたぞ」
「師匠?生きてる?」
そこには師匠がいた。
「生きてる?まあ良い、出発するぞ」
「師匠、どっちが現実ですか?」
「どっち?こっち」
師匠は、陸の頬をつねって教えた。
「良かった、良かった」
陸は安心したように荷物をまとめて宿を後にした。
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