40ミリの出所

白銀の雲の上、一機の機体が飛ぶ。

「師匠、さっきの国で燃料や弾薬の補給をしたのはいいですけど、あの重いものはなんですか?」

陸がコックピットにいる師匠に聞く。

「アレかい?さっきの国のとある組織から頼まれてね、次の国まで輸送してるんだよ」

コックピットの師匠が答える。

「ふーん」

陸は前方に視線を戻す。

「しかし暇だなぁ」

遊び半分に銃身を右往左往させる。

「ふあ」

あくびを一つ。

「陸、しっかり見てなよ?」

まるで背中に目があるように師匠からの説教が飛ぶ。

「わかってるって、師匠」

また、右往左往する。

「暇だな」

その時、キラッと光るものが空に見えた。

「ん?」

目をよく凝らしてみる。

「んー?」

しかし何も見えない。

「陸?」

師匠が言う。

「師匠?」

陸が言う。

陸はまだ目を凝らしている。

「は!!敵機発見!5時の方向!」

雲の切れ目から、明らかにこっちに向かっている一機の航空機が見えた。

「陸、このまま加速して振り切るから後方は頼むよ」

「ガッテン承知の助!!」

エンジンの回転数を上げて爆発的に加速する。

操縦桿を押し、一気に高度を下げ雲海に突入した。

速度を上げてアクロバティックな軌道を描き飛ぶ。

「師匠!師匠!持ちません!機体が持ちません!あああ!ミシミシいってる!」

後方では、前方から流れてきた雲が視界を埋め尽くして、機体が歪んでミシミシと鳴る。

「陸!!黙れ!」

師匠が怒鳴る。

「でも、でも!」

「うるさい!」

どちらも黙る。

幸いというべきか、まだ雲は続いている。

視界が悪いのか、後ろからの銃撃はありませんが、敵機はついてきているはずだ。

「陸!!さっき積んだ『荷物』を使うぞ!準備しろ!」

「なに?『荷物』だって?それをどうしろと!?」

「撃つんだよ!!バカ!ちゃっちゃやれ!働け!」

「やるよ!!アホ!バカ!」

お互い罵倒しつつもやるべきことはやる。

そして、銃座から離れると、貨物の布を留めている紐と布を外す。

「こりゃ......40ミリ機関砲の試作じゃねえか、どこからこんなもん...」

「陸!早くやれ!」

陸は無視して黙々と、着々と機関砲の点検と準備を進める。

「よく整備されてるな、すぐに撃てる」

ボルトや撃針などの可動部には、多過ぎず、少な過ぎず、きっちりと潤滑油が塗られている。

「陸!早く!!」

最後に、機関砲の銃身を後部銃座の銃架に紐で固定する。

「よし!できた!!」

師匠に一言告げて、引き金に指をかける。

陸は蜂の巣状の照準器でよく狙い引き金を引く。

エンジン音に負けない轟音と共にどデカい薬莢が飛び出る。

「外れた!」

初弾は外れた。

もう一発。

今度も外れたが、掠りはした。

「最後だよっと!!」

これが3発目、今ある最後の弾。

機体が傾き、少し左にズレて見事、左翼の真ん中に着弾、そのまま根元ごとを引きちぎり左の翼が完全になった。

「やったぞ!!」

そのまま敵機は黒煙を吐いて、錐揉み回転し落ちていく。

「陸、よくやった」

「師匠、早く目的の国に行きましょう」

「うん、あの一機とは限らないからね」

やや早く機体を飛ばして、次の国まで舵を取る。

しばしの沈黙が機内に流れる。

「師匠、さっき手抜いてましたよね」

「陸、君は元パイロットだよね、なら分かるか」

「ですね、師匠」

「うん、本当はあの敵、自分が本気を出せば数秒で落とせたんだよ」

「ならなんで......」

「その40ミリ、たぶん未使用品を改良した試作品だよ、それを担保に借金を返してたんじゃないかな」

「なら、なんで」

「うーん、気分?それに40ミリ重かったから少しでも重さ減らしたくてね」

「これは相当怒られるぞ......」

「陸、さっさと次の国に行こう」

それからは、敵襲もなく順調に航路を消化していく。

そして、数時間ほど飛ぶと次の国の滑走路が見えてきた。

「陸、弾をありったけ後ろに運んで、すぐに射撃できるようにしておいて」

「師匠、なんで」

「直ぐに分かるはずだよ」

「............?」

陸は、怪訝な顔をしながらも銃座近くに弾を運ぶ。

師匠の神技で、あれよあれよというまに、滑走路に降り立つ。

エンジンはそのままにして、師匠はコックピットから降りて、近くにいた男に近寄る。

「師匠、何話してるのかな」

師匠がしばらく話していると、男を連れてこっちに近づいてきた。

師匠の指が男達の死角に動いた。

『自分、下、3秒、撃て』

指でそれを素早く陸に向けて伝えた。

一瞬、陸は意味がわからなかったものの、師匠の言いたいことがわかり、銃架にある機関銃に初弾を送り込む。

師匠の指が動いて、3の指をさした。

2。

1。

師匠が下にしゃがむと同時に、陸は男たちのほうへ銃口を向けながら、横に薙ぐように撃つ。

数十人いた男達の内、数名が弾に当たり弾けた。

そのまま陸は撃ち続けると同時に、師匠がコックピットに走り、暖機運転だったエンジンをフル回転させて離陸の用意をする。

タイヤ止めはあったものの、低かったのでそのまま乗り越える。

誰かが見ていたのか、サイレンが鳴り響き格納庫の扉が空いて敵の航空機が続々と出てくる。

「陸、しっかりやってくれよ」

「当たり前よ!!」

機体を横に180°反転させて、頭が地面になるように機体を傾けた。

陸が銃口を地面に向けて、地面を薙ぐように連射する。

そして、滑走路にいた離陸前の敵機を次々と撃ち、飛べなくする。

それもすり抜けてきた敵機は師匠の神業で屠り追撃をかわす。

「陸、これで全部か?」

「そうみたいですね師匠」

見ると、滑走路からは煙が上がって、敵機の残骸が大量に転がる。

「よし、陸このまま次の国で弾と燃料を補給しよう!」

そうして、師匠と陸は次の国まで真っ直ぐに飛んでいく。

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