第69話 急報

「はぁっ! そりゃっ!!」


 あれからさらに一週間。

 ゴーレムの改良はさらに進み、今日は街の外で運用試験を行っていた。

 着用するのはもちろん、アリシアさんである。

 彼女は小型化して一回り小さくなったゴーレムを着こなして、訓練用の木人を次々となぎ倒していく。

 その動きに以前のような乱れはなく、力を正確にコントロールできているようだった。


「ヴィクトル様、剣をいただけますか?」

「ああ、わかった」


 剣を握り、演武のような動きを始めるアリシアさん。

 ――ビョウッ!!

 刃が閃き、風が唸る。

 やがて彼女は、流れるような動きで近くの岩に斬りかかった。

 人の背丈ほどもある岩が、音もなく上下に割れる。

 切り口がよほど滑らかだったのだろう。

 岩の上部は、ザラザラと摩擦音を立てながらゆっくりと滑り落ちた。


「おおぉ……こりゃすごい!!」

「だいぶ操作にも慣れました。それにこの新型、非常に動かしやすいです」

「よりアリシアさんの体形に合わせて改良したし、あと、ゴーレムの方でアリシアさんの動きを学習して補正できるようにしたからね。制御術式を運動方向に応じて変化させていくことで――」


 俺が詳しく説明をすると、アリシアさんはよく分からないといった顔をした。

 しまった、彼女にはちょっと難しすぎたか。

 そんなことを考えていると、ガンズさんとミーシャさんがやってくる。


「む、お前たちも来たのか。ダンジョンの監視はどうした?」

「コボルトたちに任せてきた。なーに、ここ何日かは同じ連中が潜ってるだけだから平気だろ。魔導王国からの来客もいったん落ち着いて来たしな」

「それならば、コボルトとゴーレムだけでも大丈夫か……」

「そういうことだ。俺たちも、このゴーレムについてはいろいろ気になっててな」


 そう言うと、ガンズさんはアリシアさんの着用しているゴーレムを見た。

 最初はもっともレベルの高いアリシアさん用に特化して作る予定だが、暁の剣のメンバーについてはいずれ全員分を作成する予定である。

 自分たちにも直接かかわることなだけに、流石に気になって見に来たらしい。


「開発は順調そのものだよ。もう、アリシアさんの分についてはほとんど完成したと言ってもいいんじゃないかな」

「そりゃすげえ! じゃあ、次は俺のをぜひ頼む!!」

「いや、あたしのだし! 超お願いするし!」


 二人とも俺の方を見て、キラキラと目を輝かせた。

 ううーん、参ったな……!

 このゴーレムについては、マキナたちの手を借りずに俺が手作業で作っている。

 だから作成には結構時間がかかるのだけど……。

 この分だと、二人ともそこまで待ってくれなさそうだ。


「待った、そんなに急かしたらヴィクトル様が困るでしょ?」


 ここで現れたエリスさんが、書類でミーシャさんの頭をパシッと叩いた。

 師匠に一撃貰ったミーシャさんは、不満げな顔をしつつも押し黙る。

 それを見ていたガンズさんもまた、仕方ないとばかりに引き下がった。


「はい、頼まれてたものを持って来たわよ」

「ありがとう! アリシアさん、ちょっとこっちに来てくれる?」


 アリシアさんにこちらへ来て貰うと、すぐに腕の部分のパーツを取り外した。

 そしてそこへ、エリスさんが持ってきてくれた魔導具を装着する。

 

「それはいったい?」

「エリスさんに作ってもらった魔導具だよ。ここから雷撃を出せるんだ」

「おお、それは凄い!」

「ふふふ、私お手製の魔導具だからね。ちなみに名前はライトニングゼット!」

「え~~、ちょっとダサくない?」


 ミーシャさんが不満を漏らすと、無言でエリスさんの拳骨が炸裂した。

 バコンッと人を叩いたときにしちゃいけない音がした。

 う、うん……こいつの名前はライトニングゼットだ!

 その名前以外では絶対に呼ばないぞ!


「……馬鹿な弟子は置いておくとして。そういえば、このゴーレム本体の名前は決まってるわけ? せっかくだし、私が付けてあげるわよ?」

「あ、決まってないですけど……自分でつけるので!」

「そう? 遠慮しなくていいのよ?」

「いや、遠慮とかじゃなくて! 大丈夫ですから!」


 ぶんぶんと首を横に振って、拒絶の意志を示す。

 ゴーレム本体まであのダサ……個性的なセンスで名づけられたら大変だからね!

 すると渋々といった様子ながらも、エリスさんは引き下がる。


「ならいいけど」

「よし、そうと決まったらさっそく名前を決めよう! うーん……」


 そうは言ったものの、いい名前など急には浮かばない。

 俺は軽く腕組みをすると、うんうんと悩み始めた。

 久しぶりに作ったゴーレムなのだ、どうせならばいい名前を付けてやりたい。

 そう思っていると、不意に声が聞こえてくる。


「皆さま、こんなところにいたんですか!」

「ポポルじゃないか、どうしたの?」

「それが、ダンジョンの中でイレギュラーが出たみたいで!」

「なんだと! くっ、成長中のダンジョンの不安定さを見誤ったか!」


 たちまち渋い顔をするアリシアさん。

 彼女はすぐさま俺の方を見ると、騎士のように跪いて言う。


「ヴィクトル様! さっそくこのゴーレムにて出陣する許可を!」

「わかった! すぐ行ってくれ!」

「はい! お前たちはここで待っていろ、危険すぎるからな!」

「……わかった、ここで待機だな」

「いざってときは、すぐに逃げるし!」

「ああっ!」


 アリシアさんは自信ありげな顔で頷くと、ゴーレムの脚力を活かして猛然と駆け出していった。

 その後ろ姿を、俺たちは少し心配になりながらも見送るのだった。

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