第68話 パワー!!

「ふぅ……!!」


 イスヴァールの街の中心部。

 そこに聳える大きな研究所の一角で、俺はせっせとゴーレムの製作を進めていた。

 久々なだけあって、街の命運がかかった大仕事であるにもかかわらずどこか楽しい。

 何だかんだ、物作り自体は好きなんだよな。

 おまけに、この研究所には以前の工房にもなかったような機材や資料がある。

 いずれもマキナたちが研究開発をして得たものだ。

 それらを活用することで、俺のゴーレム製作のスキルがさらなる高みへと至ろうとしているのを感じる。


「だいぶ出来てきたな」


 研究室の中央に佇む、身長二メートルほどのゴーレム。

 人が中に入ることを想定したそれは、ランスロットⅡ型などと比べると肩幅が広くがっしりとしたデザインである。

 合金そのままの鈍い銀色も相まって、どこか獰猛な獣のような印象だ。

 

「マスター、夕食をお持ちしました」


 ここで、マキナが夕食を持ってやってきた。

 お、今夜はシチューか!

 俺は部屋の端にある椅子に腰を下ろすと、それを食べながら報告を聞く。

 うーん、ほくほくの野菜が最高だな!


「今のところ、来客数は安定しています。恐らくはリフォルス様の宣伝の効果かと」

「それは良かった。岩山の村の方はどう?」

「ダンジョンの立ち入り禁止区域に入ろうとする冒険者が一組いました。ですが、巡回させていたランスロットⅡ型が事前に発見して阻止しております」

「ランスロット型に阻止される程度の実力じゃ、ただの冷やかしかな」

「はい。確保された後、そのように証言したと」


 悪い兆候だなぁ……。

 実力者がこっそり行くとかならまだしも、冷やかしが一番怪我をする可能性が高いからね。

 こういうのが増えないうちに、調査を済ませて解放してしまいたいところだ。

 人間、禁止と言われると行きたくなるものだからね。


「それから、サルマト様が物品の減りが早いのでそろそろまた買い付けに行きたいと申されています。いかがいたしますか?」

「空飛ぶ船の開発は?」

「いましばらく時間が必要です」

「そうなると、流石にサルマトさんの出発に合わせるのは無理だね。わかった、許可するよ」

「続いて、この街に移住したいと申し出ているエルフがいます」


 おぉ、早くも移住希望者が出て来たか!

 この街を気に入ってくれて、本当に嬉しい限りだ。


「いったいどんな人!?」

「木工を生業とする職人のようです。魔導王国で店を構えられるだけの資金がなく、この街で一旗揚げたいと」

「さっそく、明日会ってみよう。面談するって伝えておいて」

「承知しました」


 俺が返事をすると、マキナは深々と頭を下げた。

 彼女は食べ終わった器を片付けると、そのまま退出しようとする。

 するとここで、研究室の扉がどんッと勢いよく開け放たれた。


「ヴィクトル様、ゴーレムの進捗はいかがですか?」


 元気よく部屋に入ってくるアリシアさん。

 実質、彼女のためにゴーレムを作っているからであろうか。

 こうやって毎日やって来ては、ゴーレム製作の進捗を聞いてくるんだよね。


「結構進んだよ。そろそろ、実際にアリシアさんに着てもらおうかな」

「素晴らしいです! ぜひ!」


 よし、それならさっそく実験しようか。

 俺はゴーレムに近づくと、その胸と腹に当たる部分の装甲を持ち上げた。

 すると中には、人がすっぽり入れるほどのスペースと身体を固定するためのベルトがある。


「まずは中に入って、ベルトを締めて」

「わかりました」

「それができたら、まずは腕から入れて行ってね」

「はい」


 テキパキとゴーレムを着込んでいくアリシアさん。

 そして最後に蓋を閉じると、装着完了だ。


「む、これはなかなか……動きにくい?」

「まだ補助機能が効いてないからね。腰のところにあるスイッチを二回押して」

「こうですか? ……おっ!」


 スイッチを操作すると、すぐにアリシアさんは興奮したように声を上げた。

 それと同時に、ゴーレムの関節部から駆動音が響く。

 さらに両手両足に組み込まれた魔石が、ぼんやりと赤い光を放ち始めた。

 光はゴーレムの表面をパッと駆け抜けた後、再び魔石へと収束する。


「これはなかなか! 力が大幅に増したのが実感できます!」

「もちろん! まだ未完成だけど、それでもレベル二百相当のパワーはあるはずだよ!」

「なんと、それは素晴らしい!」


 さっそく、その力を試そうと動き出すアリシアさん。

 彼女はそのまま扉を開けると、研究室の外へと出た。

 外は大きな倉庫となっていて、様々な資材が山積みになっている。


「よいしょ! おお、軽い!」


 大きな鉱石を片手で持ち上げるアリシアさん。

 人の胴体ほどもある石が、まるで風船のように軽々と動く。

 これがレベル二百五十相当のパワーか、流石だなぁ!

 

「次は、そこにおいてある盾を殴ってみて良いですか?」

「うん、いいよ」


 資材に混じっておかれていた武具。

 その中でも、人がすっぽり隠れられるほど大きな盾をアリシアさんが指差した。

 彼女はそれを壁に立てかけると、えいやっと殴りつける。

 すると――。


「おっと!?」


 盾を破壊するはずが、勢い余って壁を殴ってしまったアリシアさん。

 ――ドゴンッ!!

 重々しい打撃音が響き、たちまち分厚い石の壁が大きく凹んだ。

 すっごぉ……!!

 予想を大きく上回る威力に、俺は半ば呆然としながらつぶやく。


「申し訳ありません。これは慣れるまでに訓練が必要そうです」

「うん。しかし……」


 俺はふと、脇に控えているマキナの方を見た。

 ……レベル二百が暴走しただけでこうなるのに、レベル千を超えるマキナだとどうなるんだ?

 俺はちょっぴり怯えた表情をするが、マキナは柔らかく微笑むばかりだった――。

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