第65話 千客万来!
「おー、賑わってる賑わってる!」
領主の館を中心として、円形に広がるイスヴァールの街。
その外周を守る城壁は日々拡張と補強が続けられ、今では高さ五メートルほどの立派なものとなっていた。
この一角に設けられた、これまた大きな城門。
魔導王国へと通じる街道に面したその前に、多くの馬車と人が並んでいた。
とうとう、エルフたちがこの国へとやってきたのだ。
「まずはこちらへ! 街へ入る前に、検査を受けてもらうのであります!」
コボルトの衛兵とともに、エルフたちを誘導するツヴァイ。
来客に舐められないためであろうか?
彼女はいつものメイド服ではなく、黒の軍服のようなものを着ていた。
そしてその手には、レベルを判別するための虫メガネ型の魔道具が握られている。
どうやら、いったんはレベルを基準に不審者を洗い出すつもりらしい。
「なるほど。レベルを参考にすれば……お?」
さらに、ツヴァイの陰に隠れるようにしてひっそりとチリが立っていた。
気配を薄くしていたのか、今まで気づかなかったな。
もともと一流の工作員である彼女なら不審人物の捜索にはピッタリってわけか。
流石はツヴァイ、的確な人選だ。
「いい仕事見つけたじゃないか、チリ」
「……ん、私には最適。拾われた分はしっかり働く」
「ああ、任せたよ」
俺はそう言ってチリに近づくと、ポンポンとその肩を叩いた。
そうしたところで、マキナが岩山のある方角を見て言う。
「イスヴァールの街へ来る者は、すべてこの門を通るようになっています。ですが、何割かの冒険者が街を経由せずに直接村へ向かったようです」
「村には今誰がいるんだ?」
「アリシア様たちがいます」
「よし、そっちも様子を見に行ってみよう」
こうして俺とマキナは、すぐに馬車に乗って岩山の村へと向かった。
馬車を引っ張るのは、俺がこのほど改良を加えたスレイプニルⅡ型である。
初期型に加えるとパワフルで、重い荷馬車でも楽々動かせる優れモノだ。
「なかなかいいゴーレムですね、マスター」
「ああ、俺の愛馬みたいなもんだからな」
「それで、ご自分で手を入れていたわけですか」
ほうほうと頷くマキナ。
最近はマキナたちにゴーレム開発を任せがちになっているからなぁ。
そろそろ、威厳を見せるために俺自身でもゴーレムを作らないと。
でも、マキナたちに真正面からぶつかることは難しいから何か考えないとな。
やはり、人間ならではの自由な発想で――。
「見えてきましたね」
こうして考えているうちに、岩山の村が見えてきた。
おっ、冒険者らしき人たちの姿も見えるな!
村の通りを行き交うエルフたちの姿が、柵の向こうにはっきりと見えた。
流石はこの場所にある物も含めて、世界に十三個しかないダンジョン。
相手がエルフと言えども、凄い集客力だ。
「こりゃ思った以上だね。みんなダンジョンに向かってるのかな?」
「恐らくそうではないでしょうか」
「おぉ、ヴィクトル様! よく来てくれました!」
俺たちが周囲の様子を見ていると、村長のムムルさんが話しかけてきた。
彼は通りを歩く冒険者たちの姿を見ながら、少しくたびれたように言う。
「冒険者の方が大勢こられましてな。どこもかしこも忙しいですよ」
「イスヴァールじゃなくて、こっちへ直接来てる人も多いみたいだね」
「ええ。このままの調子が続くなら、村を拡張していただかないと持ちません」
「街の方が落ち着いたら、人員をよこすよ」
「あと、コインの追加も頼みます。かなり両替する人が多くて」
「わかった」
ムムルさんの話を聞きながら、手早くメモを取る。
急にお客さんがいっぱい来ただけあって、困っている点も多いようだ。
これは後でサルマトさんにも来てもらわないとな。
よく見ると、お金のやり取りに四苦八苦しているコボルトの姿も見える。
一応、通貨を発行してからはそれを利用するように促していたんだけど……。
案の定、まだほとんど物々交換でやり取りしていたらしい。
「ダンジョンの方にも行ってあげてください。アリシア殿たちが少し心配です」
「そうだね。これだけ人がいたらトラブルも多そうだ」
こうして、村の通りを抜けてそのままダンジョンへと移動する俺とマキナ。
元はダンジョンへと通じる道などなかったが、今ではしっかりと登山道のようなものが設けられていた。
冒険者たちに混じって、道を歩くこと三十分ほど。
岩山の中腹に差し掛かったところで、前方に大きな洞窟の入り口が見える。
「む? ヴィクトル様?」
洞窟の入り口に立っていたアリシアさんが、俺たちの姿を発見して手を振った。
彼女はそのままこちらに向かって、タタタッと走ってくる。
「ヴィクトル様、よくお越しくださいました」
「ああ。ダンジョンの方はどうだ?」
「順調です。とは言っても、私のしていることと言えば冒険者同士で揉めていないかここで見ているぐらいですが」
「そうか。ガンズさんとミーシャさんは?」
「洞窟の中です」
なるほど、二手に分かれたという訳か。
そっちの方も様子を見に行かないとな。
俺がそんなことを考えていると、洞窟の奥の方から声が聞こえてくる。
「なんだ?」
「もしかすると、誰か怪我でもしたのかもしれません」
「急ぎましょう! 幸い、傷の治療ならば心得があります」
こうして俺たちは、急いで洞窟の奥へと走ったのだった――。
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