第63話 初めてのお店と魔石経済
「おお、もうほとんど出来てますね!」
リフォルスさんが街を立ち去ってから数日後。
俺はサルマト商会の支店へとやってきていた。
二階建ての大きな店舗の軒先には、既にたくさんの商品が並べられている。
今のところ、街で唯一の商店ということもあってラインナップは幅広い。
香辛料から武具に至るまで、さまざまな物が並べられていた。
「ヴィクトル様、よくぞ来てくれました!」
「アリシアさんたちから連絡を受けたから」
店の中を見ると、コボルトたちと一緒にアリシアさんたちが商品を陳列していた。
彼女たちが担当しているのは、主に冒険者たちをターゲットとしたコーナー。
現役冒険者としての感覚を生かして、ということらしい。
「これをご覧ください! 冒険者も納得の仕上がりです!」
俺が視線を向けると、どうだと言わんばかりに胸を張るアリシアさん。
自慢するだけのことはあり、その一角には防具や武器が整然と並べられていた。
その品揃えは、前にアルファドで見た武器屋よりはかなり高級志向だろうか。
鋼鉄製の武具が多く、中にはミスリル製のものまである。
「へえ、けっこういいの揃えてるね!」
「この森のモンスターは強力ですから。私からサルマト殿に言って、いい物を揃えて頂きました」
「もっとも、高いものだけじゃ売れねえから初心者用のも揃えてるんだけどな」
そう言うと、ガンズさんがナイフを取り出して見せてくれた。
なるほど、ナイフならば質が良くてもある程度安いという訳か。
他にも、冒険者用の便利用品など安価のものもいろいろと置かれている。
「あとは、通貨が定まればいつでも販売できますよ。そちらの方の進展はいかがなのですか?」
「それについてですが、ひとつ興味深い発見がございまして」
「ほほう?」
「人間国家で流通している金貨と大樹海の亜人種族間で使われている金貨の双方を調査したところ、使われている金の含有量がほぼ同じだと発覚しました」
マキナがそう告げると、サルマトさんは驚いたように目を大きくした。
無理もない、人間国家と大樹海の亜人種族とでは交流などまったくなかったのだ。
それがほぼ同じ価値の通貨を使っているなんて、そうそうある偶然ではない。
「ひょっとすると、大樹海で流通している金貨は人間国家の金貨を元にして作られたものかもしれません。よく見ると、意匠も少し似ています」
「これは、古代超文明の影響かもしれませんなぁ」
ラバーニャ帝国よりもさらに古い時代。
この大樹海やその先の魔大陸をも勢力下に収めた文明があった……という。
もはや名前すら残っていない幻の文明だが、ひょっとすると通貨はその数少ない名残かもしれない。
「これで我が街としても、独自通貨の発行が大幅に行いやすくなりました。基本的にこの二つの通貨に価値を合せていけば良いのです」
「とはいえ、この国だと金が取れる量は少ないのでは? 材料はどうするのです」
「それについては、これを使おうかと」
マキナは懐から黒く濁った石英のような材質で出来たコインを取り出した。
それを手渡されたサルマトさんは、ほうほうと興味深そうな顔をする。
「これは……もしかして、魔石で出来ているのですか?」
「その通りです。質の悪い魔石を細かく粉砕し、圧力をかけて成形したものです」
「なるほど。ですが、そのようなことをしては魔石の価値が失われるのでは?」
「いえ、演算装置としては使えませんが魔力を蓄える機能はそれなりに残っています。無論、それも大きな魔石には劣りますが」
それを聞いて、ふむと唸るサルマトさん。
どうやら、こちらの狙いについておおよそ察してくれたらしい。
「魔力はどのような社会においても普遍的な価値がありますからな。魔力本位制度というわけですか」
「ええ。そのままだと魔石は大きさにばらつきがあって通貨として使いづらかったんですけど、こうやって大きさを揃えてやれば使いやすいはずです」
「高額通貨については、ある程度の大きさの魔石を切り出したものとする予定です」
「なかなかいい案ですな」
マキナの説明を聞いて、サルマトさんはふむふむと満足げに頷いた。
するとこれを聞いていたアリシアさんが、サッと会話に入ってくる。
「そうなると大量の魔石が必要になりますね。ダンジョンから調達するつもりですか?」
「ええ。ダンジョンに潜った冒険者から魔石を買い取るつもりですので」
「んん? ちょっと待てよ? それだと、魔石を魔石から作った通貨で買うのか?」
ガンズさんが混乱したような顔をして、話に入ってきた。
言われてみると、確かに少し変な感じもする。
だが、すぐにマキナが笑いながら説明をする。
「それで問題ありません。むしろ、ダンジョンの魔石を買い取ることのために魔石で通貨を作るのです」
「どういうことなんだ?」
「ダンジョンからの魔石は無尽蔵に産出されます。一方で、金属を利用した通貨の量にはどうしても制限があります。人間国家ほどの規模ならばそのうち循環するので問題ないはずですが、この国の規模では早々に通貨の枯渇が問題になるはずです」
「だから通貨も魔石にしてしまえば、大量に用意できて枯渇しないってわけか」
「その通りです」
「だがそうなりますと、今度は通貨の価値が下がりませんか?」
今度はサルマトさんが質問を投げてきた。
俺がマキナに変わって答える。
「そこは独自通貨なので、発行量をコントロールすればいいんですよ。それと同時に、国の中でお金を使ってもらう政策も必要になりますが」
「ふむ、我々の店も責任重大というわけですな」
「ええ」
「…………話が難しくて良く分からないが、我々はとにかくダンジョン攻略を頑張ればいいということですね?」
ここで、理解を辞めたらしいアリシアさんがそう言った。
ガンズさんもそれに同意するように、うんうんと頷いて同調する。
「そうです! アリシアさんたちはダンジョン攻略を頑張ってください!」
「お任せを! マキナ殿がダンジョンに入れなくなった分、我々が頑張りますので!」
ドンッと胸を張るアリシアさん。
それからおよそ二週間後、とうとう街に来客がやってくるのだった――!
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