第62話 交渉完了と課題
※ヴィーゼル側の工作を塩の買い占めではなく、サルマト商会が塩を購入できないように妨害するという方法へ変更しました。
「その頃の伯爵領5」の記述も修正してあります。
――――――――
「では、費用の支払いは鉱石にて。こちらの通貨が出来ましたら、新たにレートを定めましょう」
「わかりました。今後ともよろしくお願いいたします」
握手をするサルマトさんとリフォルスさん。
一時はどうなることかと思ったが、交渉はおおむね順調であった。
俺たちが対価を支払う代わりに、リフォルスさんには魔導王国やそのほかの種族の街で宣伝や移民の斡旋をしてもらうことになった。
これでしばらくすれば、うちの街にも多くの人たちが訪れるようになるだろう。
それに備えて、貨幣制度の整備などを進めておかないとな。
あと、連れてきてもらった移民の管理が出来るようにするのも大事だ。
コボルトたちとはかなり長い付き合いのようだけど、俺たちはまだリフォルスさんのことを信用したわけではないからね。
こちらでも、連れてきてもらった人の審査などはきちんとしたい。
「ではこれにて。私どもはさっそく帰らせていただきます」
「ええ。また来てくれるのを楽しみにしてます」
「はい。今度はワインをたっぷり持ってきますよ。移民も候補がいたら連れて来ましょう」
そう言うと、リフォルスさんは部屋を出て行った。
……ふぅ、ひとまずはうまく乗り切れたみたいだな。
途中から緊張して、変な汗を流してしまった。
「これをどうぞ」
「ありがと」
「……まあ、どうにか及第点と言ったところですな。しかし、宿の値付けの話は失敗だったと思いますぞ。こちらに相場感があまりないことがバレてしまいましたから」
サルマトさんにそう言われて、俺は身を小さくした。
あの場で何となく価格を伝えてしまったのは、やっぱり失敗だったなぁ。
サルマトさんが戻ってくるまで、その手の話は避けるべきだった。
「俺も商売についていろいろと勉強しないとなぁ……」
「それについてはおいおい、進めてまいりましょう。コボルトたちにも教えなければなりませんしな」
「であれば、簡単な学校を作るというのも良さそうです」
「おお、いいね!」
マキナの提案に、俺はポンと手を叩いた。
いずれはエリスさんなどにも教壇に立ってもらって、いろいろと幅広く学べる学校にしていくのもいいかもしれない。
教育施設の充実というのも、街の発展のためには必要不可欠だしね。
「……その、将来の話もいいのですが。実は、少し困ったことになっていましてな」
「どうかしたんですか?」
ここで、サルマトさんが何やら言いづらそうに切り出してきた。
俺とマキナはすぐさま彼の方へと向き直る。
「実は、物資の調達をグレイス商会に邪魔されているようでしてな。うちには売れないと断ってくる者がいるのです。特に、伯爵領内で塩を扱う卸売にはほとんど手が入っているようでして……」
「塩の卸売って言ったら大店ぞろいじゃないか。そこに圧力をかけるなんて、思い切ったことしてきたな」
「ええ。向こうも相当の身銭を切っているでしょう。バックにヴィーゼル様がいるのは間違いありますまい」
うーむ、いよいよ本気で俺の邪魔をし始めたか……。
するとここで、マキナが急に冷え切った目をして言う。
「始末しますか」
「いやいや、それはまずいよ! 兄さんだし!」
「邪魔者は肉親であろうとも排除するのが、覇道というものかと」
「覇道!? 別に俺は、覇王とかそう言うのになるつもりはないからね?」
「……さようでございますか」
マキナはどこか残念そうな顔をしてそう言った。
ひょっとして、主人を覇者にしたい願望でもあるのだろうか?
俺はそんな大層な地位はいらないんだけどな。
むしろ、メイドさんに囲まれたのんびり生活を送るうえで必要以上の地位や責任は重しにしかならないし。
「今のところ、他の領地へ足を延ばしてどうにか物資を調達しております。ただ、やはり輸送コストがかかるので採算性は悪化しておりますね」
「伯爵領も結構広いからね。他領地まで出ようとすると、二週間ぐらいは余計にかかる感じ?」
「ええ。足の早い食料品などはかなり厳しいです」
「となると、例の空飛ぶ船を早く完成させないとなぁ」
そう言うと、俺とサルマトさんはマキナの方を見た。
すると彼女は、やや困ったように言う。
「以前に取ったデータをもとに研究を進めているのですが、いくつか難しい点がございまして。いましばらく時間がかかりそうです」
「どこが難しいの?」
「一部に、他と異なる未知の魔法体系の技術が利用されています。ですが、使われている箇所が少なく解析が難航中です」
それはまた面倒な……。
古代のゴーレムとかにもたまにある奴だな。
様々な地域の技術を取り入れた結果、作った本人以外はよくわからなくなっちゃってるってパターンだ。
俺も初期のゴーレムはそんな感じになりがちだったので、よくわかる。
技術を自分の中で上手く消化しきれていないと、雑にそのまま使ってしまうんだよね。
「どこ由来の技術かとかは見当がつく?」
「使われている魔法文字が古代竜言語に近いと推測されています。この大樹海の地理的条件などからして、恐らくはリザード族の技術ではないかと」
「それなら、リザード族の人が来てくれることに期待するしかないか。俺も技術の解析とか手伝うよ」
「ありがとうございます」
こうして俺たちは、さらなる来客増加に向けて動き出すのだった。
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