第61話 エルフの提案
「……まったく、信じられない」
夜の街並みを見ながら、半ば呆然としたような顔で呟くリフォルス。
イスヴァールについてからおよそ半日。
見るものすべてが驚きの連続であった。
特にあのマキナとか言うゴーレムは、完全に想像を超える存在だ。
人間にあれほどの技術があるとは思えなかった。
「さて、問題はここと何を取引するかだな」
この街との取引は、間違いなく大きな利益をもたらす。
問題は、魔導王国からここへ何を持ってくるかだ。
酒が不足しているらしいことには気づいたが、それだけだと少し商品として弱い。
酒樽は重いので、いくら道が整備されたとはいえ輸送コストが高いのだ。
かと言って、あまり値段を上げるとすぐにこの国でも酒造りを始めるだろう。
「お前たちも、何かアイデアはないか?」
そう言うと、リフォルスは部屋の端に控えていた冒険者たちに呼びかけた。
たちまち、彼らはそんなこと聞かないでくれとばかりに困り顔をする。
「そう言われても、俺たちはただの冒険者ですから。じきに戻ってくるって言う、この街の商人に必要なものを聞いたらどうです?」
「いや、それだと商売の主導権を握られてしまう。ただでさえこちらが圧倒されているんだ、完全に向こうの言いなりにはなりたくない」
「うーん……」
リフォルスの言わんとすることを理解した冒険者たちは、揃って考え込み始めた。
それに合わせるように、リフォルス本人もまた腕組みをして逡巡する。
これだけ技術に優れた町が、一体何を必要としているのか。
それを見つけ出すのは、まさに商人として腕の見せ所であった。
「あ、そうだ!」
「む? 何か思いついたのか?」
「この街に何よりも足りないものがあるではありませんか」
そう言うと、冒険者は自身のアイデアをリフォルスに披露した。
それを聞いたリフォルスは、満足げに頷くのであった――。
――〇●〇――
「いずれ来るとは思っていましたが、思ったより早かったですなぁ」
リフォルスさんの来訪からおよそ一週間。
サルマトさんがキャラバンを率いてイスヴァールまで戻ってきた。
俺たちからリフォルスさんの来訪を告げられた彼は、支店の開店準備などもそこそこにさっそく商談に臨む。
こうして設けられた場には、俺とマキナも責任者として同席した。
「初めまして、イスヴァールの交渉担当をしているサルマトです」
「これはご丁寧に。私はリフォルス、エーテリアス魔導王国にて商人をしております」
まずはお互いに丁寧な自己紹介から入った。
二人はそのまま握手をすると、まずはリフォルスさんがにこやかに告げる。
「一週間ほどこの街に滞在させていただきましたが、まったく素晴らしいところです。魔導王国でもここまで整備された場所は少ないでしょう」
「この街に関わるものとして、お褒め頂いて大変嬉しく思います」
「いえいえ。当然の感想を述べただけですよ。しかし、同時に我々は少し困ってしまいまして」
「ほう?」
あまりにも正直な告白に、サルマトさんは肩透かしを食らったようだった。
そして、一体何を言うつもりなのかと軽く眉を寄せる。
「この街にいったい何を売り込めばよいのかと。酒はご好評いただいているようですが、それ一本足というのは少し弱いですからね」
「なるほど。それで、一体何を商うつもりなのですかな? そう言われるということは、何か心当たりがあるのでしょう?」
「人を売りましょう」
「え、人!?」
思わず声が出てしまった。
ひょっとして、エルフたちの国ではまだ奴隷制が残っているのだろうか。
しまったな、可能性としては十分あり得たのにそこは考慮してなかった。
「すいません、うちの街では奴隷はちょっと……」
「あっ、そうではありません。ここに来る住民の斡旋業はどうかという提案です。ついでに、この街の評判も可能な限り広めましょう」
「人材の斡旋と宣伝というわけですか」
なるほど、そう来たか。
なかなか上手くうちの街の需要を捉えた提案だ。
それを聞いたサルマトさんも、ふむふむと満足げな顔をする。
「それはいいですな。ただ、魔導王国からの人口流入はほどほどに抑えないといろいろ厄介ですぞ」
「それについては問題ありません。我々は行商人、エルフ以外の種族ともつながりがございます。それらの国で、少しずつ評判を広げて行けばよいのです」
「エルフ以外? ゴブリン族などですか?」
醜悪なゴブリンたちのことを思い出したのだろう。
マキナが何とも言い難い表情でリフォルスさんに尋ねた。
すると彼は「まさか」と首を横に振る。
「ゴブリンとオークの二種族とは、今のところ取引はございませんよ。我々がエルフ以外で取引対象とするのは、リザード族・死霊族・魔人族の三種族です」
「そうでしたか」
「ふむ……。それら三つの種族は、それぞれどのぐらい人口がいるのです?」
「そうですね……。リザードは比較的数が少ないですが、死霊族や魔人族は恐らくエルフよりも数は多いですな。もっとも、我々も他国へは滅多に出かけるわけではないのでそれらの国へ声をかけるのはかなり後の話になるでしょうが……」
そりゃすごい!!
予想以上の情報に、俺たちは目を輝かせるのだった――。
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