第57話 農地と魔法科学
「おぉー!! 広いな!」
ツヴァイの誕生からおよそ三週間。
人口増加計画に備えて、イスヴァールの開発は着々と進められていた。
どれだけ移民を連れてきたとしても、それを支える街の基盤がなければ意味がないためである。
ここで特に重点的に行われたのが、農地と牧場の拡大だ。
多くの人口を支えていくためには、やはり食糧の確保が最重要。
こうして街の北側の森が切り開かれ、広大な農業用地が確保された。
どこまでも耕された土が広がるその様子は、とても大樹海の中とは思えない。
「計算では、この規模の農地で二千人を養うことができます」
「そりゃすごい。かなり街が大きくなるまで余裕だね」
「ええ。家畜につきましても、魔導王国から輸入したリャマが順調に繁殖しております」
そう言うと、マキナは開拓された土地の端にある柵で区切られた一角を指差した。
そこには、ヤギとシカを組み合わせたような大型の動物が歩いている。
あれが魔導王国から輸入してきたリャマだ。
大きくて肉がたくさん取れるうえに、乳も美味しい優れた家畜だ。
肉食のコボルトが多く住むイスヴァールではお肉が不足気味だが、リャマが上手く育って繁殖してくれればそれも解消されるだろう。
「これなら人が増えても大丈夫そうだ」
「それが一つ、問題がございまして」
眉間に皺を寄せて、深刻そうな顔をするマキナ。
彼女はそのまま、開拓した土地の端にある小さな池を見る。
それは森にあった泉を拡張し、農業用水として利用するために作ったものだ。
「泉の水量が想定よりも少なかったため、このままですと水不足に陥ります」
「それ、かなりヤバくない?」
「はい。ですが、調査をしましたところこの辺りの地下には巨大な帯水層があるようです。そこから水を汲み上げれば問題ありません」
……ふぅ、そりゃよかった。
都市開発において、水はもっとも重要な資源である。
古今東西、あらゆる文明は水のある土地に発展してきた。
逆に水が無ければ、発展はないのだ。
「現在、空飛ぶ船の開発と並行して水を汲み上げる大型ポンプの建設を進めています」
「ポンプ? ただの井戸じゃないのか?」
「はい。その方がより効率的に水を確保できますので」
へえ、一体どんなものなんだろう?
俺が興味深いなと思っていると、それを察したマキナが言う。
「まだ建設途中ですが、見ていかれますか?」
「うん、ちょっと気になる」
こうして俺はマキナに連れられて、開拓地の中央に設置された櫓へと移動した。
これが、マキナの言うポンプであろうか?
櫓の中には大きな振り子とこれまた大きな釜らしきものが据え付けられている。
振り子の片側には深い穴が掘られていて、何らかの動力によって振り子が動いて水を汲みだす仕組みとなっているらしい。
「これはマスター! よく来たのであります!」
ここで、謎の装置の傍で作業をしていたツヴァイが挨拶をしてきた。
俺はすぐさま、彼女にこの装置が何なのか尋ねる。
「これが例のポンプってやつ?」
「そうであります! 正式には、魔石式蒸気ポンプでありますな!」
「へえ、蒸気ポンプ……。ってことは、蒸気の力で動くの?」
「そうであります! まずそこの釜で水を熱して……」
そのまま、ツヴァイは蒸気ポンプの作動原理を説明してくれた。
まずは釜で水を熱し、発生させた蒸気で振り子の片側を押し上げる。
すると弁が開き、冷たい水が流れ込んで今度は蒸気が一気に収縮。
押し上げられていた振り子に対して、押し下げる力が働く。
これを繰り返すことで、地下から水を汲みだすらしい。
「なかなか面白い仕組みだけど、これなら振り子をゴーレム化して直接動かした方が手っ取り早いんじゃないか?」
「効率が全然違うのでありますよ。この魔石式蒸気ポンプでは釜を熱するのに魔石を使っているのでありますが、こーんな小さな魔石で賄えるのであります!」
そう言ってツヴァイが取り出したのは、手のひらにすっぽり収まるほどの大きさの割合小粒の魔石だった。
デメテル型やタロス型に使われているものとほぼ同じ大きさだ。
それでこれだけ大きな装置が動くというのは、確かに大したものである。
振り子をゴーレムにして動かそうとしたら、もう二回りは大きいものでないと無理だな。
「ツヴァイが増えたことで、我々の能力をより研究開発に振り分けることが出来るようになりました。これからは魔法と並行して科学の開発も推し進めていけたらと」
「そりゃ頼もしい、どんどん頼むよ。俺も協力するから」
「はい、マスターにも加わっていただけると頼もしいです」
深々とお辞儀をするマキナ。
これからの研究開発がますます楽しみである。
この分で行けば、魔法と科学を融合した新しい分野が誕生しそうだ。
「農地の方はこれで大丈夫そうだとして、あとは商業とかかなぁ」
「ええ。鉱物資源も貯まってまいりましたし、そろそろ本格的に通貨を流通させる時期でしょう。都市化が進めば更なる需要も出てくるはずです」
「おーーい!!」
ここで、街の方から声がした。
振り向いてみると、そこにはアリシアさんが立っている。
「どうしたんですか?」
「大変だ、とうとう来たぞ!」
「え? もしかして、サルマトさんが帰ってきたんですか?」
「違う、エルフだ! エルフの商人と冒険者が来た!」
おぉ、とうとう来たか!
来客を出迎えるべく、俺は急いでアリシアさんについていくのだった。
――――――――
ここまでお読みくださってありがとうございます!
本作もとうとう、フォロー数が1万を突破いたしました!
引き続きランキング上位を目指して頑張りますので、フォローと評価をしていただけるととても嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます