第54話 マキナとツヴァイ
「なんで、二人いるんだ?」
部屋の中央に置かれた大きな台。
そこには確かに、マキナによく似たゴーレムが二体寝せられていた。
しかしよく見ると、髪の色がきれいに二色に分かれている。
片方は黒髪、片方は白に近い銀髪だ。
「演算能力の向上に伴い、サポート用の身体を増やすことにしました。最近は仕事量も増えて、マスターのお世話にも支障が出ていましたので」
そう言うと、マキナは銀髪の方の上半身を起こした。
どうやらこちらが、新たに作ったサポート用の身体ということらしい。
よく見ると、区別をつけるために「02」と記された腕章をつけている。
「言われてみれば、マキナが仕事で不在のことも増えてたけど……。それでも身体を増やすって……大丈夫なの?」
手足を増やすなどというちゃちな話ではない。
身体そのものの数を増やそうと言っているのである。
前々からそれらしい構想については聞いていたが、いざ目の当たりにするとインパクトはあまりにも大きかった。
「問題ありません。私の頭脳の演算出力をもってすれば、最大で五体程度は難なく動かせるはずです。むしろ、二体というのは最初ということで控えめにしています」
「理論上はそうかもしれないけど……。感覚的にちょっとな」
「一応、サポート用のゴーレムのツヴァイと私本体では記憶や知識は共有しますが、管理しやすいように意識や自我は分けます。単に人員が増えたものとして考えて頂ければ」
なるほど、マキナの妹分が出来たとでも考えればいいのか。
しかしそれなら、なおのこと分割した方がよかったのではなかろうか。
俺がそんなことを考えると、それを察したらしいマキナが疑問に答える。
「意識を共有することで、情報伝達なども瞬時に出来ます。何かと便利なことも多いと思われます。それに、マスターに私以外の従者が侍ることは許せませんので」
「…………もしかして、最後のが主な理由だったりする?」
俺がそう言うと、マキナはふふっと笑みを浮かべた。
その表情は一見して穏やかだが、目の奥底に得体のしれない黒さが見える。
マキナのやつ、だんだんと感情が重くなってきてないか……?
前々から感じていたことではあるけど、度合いが増してきている気がする!
「それよりマスター、ゴーレムのチェックをお願いできますか? これほど精密なゴーレムを作成したのは初めてですので、不具合があるかもしれません」
「わかった。工具はある?」
「ここにあるし!」
隣の部屋からやってきたミーシャさんが、すかさず工具箱を手渡してきた。
すぐさま中身を取り出すと、俺は二体のゴーレムを徹底的に調査する。
流石、既に人間の頭脳を超えつつあるマキナが作っただけあって見事な構造だ。
どこもかしこも計算されつくしていて、芸術的ですらある。
「マキナ、自分でここまでの設計が出来るようになったんだ。大したもんだよ」
「当然です。それが出来るように、マスターに製作していただきましたので」
「流石だ。でも、ちょっと素直すぎるな」
「はい?」
「ミーシャさん、やすりを持ってきてくれない? 一番目が細かいやつ」
「オッケー!」
急いでやすりを持ってくるミーシャさん。
彼女からそれを受け取ると、俺はすぐにゴーレムの関節を取り外して部品をわずかに削り始める。
「マスター、その部品のサイズはほぼ完璧に作成されているはずですが」
「だからこのままだといけないんだ。純度の高いミスリルは他の金属以上に熱膨張しやすいから、もっと遊びを持たせた設計にしないと。今だと余裕が少し足りないかな。あと、この歯車は小さすぎて静電気で引っ付いちゃうことがあるから……」
こうして最終調整を加えること数時間。
お腹もすいてきたところで、やっと問題点をすべて潰すことが出来た。
地下室にいるので時間がよくわからないが、もう夜ではなかろうか?
「すごい集中力ね。私も人のこと言えないけど、もう深夜よ」
「え、ほんとですか?」
「ほら、これ」
そう言うと、エリスさんは懐から円くて小さな機械を取り出した。
これはもしかして、懐中時計ってやつだろうか?
帝国で最近開発された、機械式の小さな時計である。
その文字盤を見ると、ちょうど日付が変わった頃であることを示していた。
「あちゃー、すいません!」
「別にいいのよ。ミーシャはもう寝ちゃったけど」
「マスターの集中力は誇るべき才能です。むしろ、修正点があれほど残った状態でお渡ししてしまい、申し訳ありませんでした」
深々とお辞儀をして、俺に謝るマキナ。
その顔はどこか悔しそうで、不甲斐なさを感じているようだった。
……まあ、俺もゴーレムを作り始めた頃はこういう失敗は一杯したからね。
悔しい気持ちもわかるけど、そこは乗り越えていかなきゃ。
「マキナは知識はたくさんあるし、知能も極めて高いけど経験が無いからね。こういう失敗をしちゃうのはやっぱり仕方ないよ」
「ですが……」
「そこはこうやって俺やエリスさんたちで補っていくからさ。気にしなくていい。むしろ、マキナが完全に俺たちを必要としなくなる方が悲しいよ」
俺がそう言うと、マキナの表情が次第に晴れていった。
やがて彼女はこちらをまっすぐに見据えて言う。
「わかりました、ありがとうございます」
「うん。じゃあ、確認もできたし意識の移し替えをしようか」
「はい」
ゆっくりと頷くマキナ。
こうして再び演算装置のある部屋へと戻ると、俺はマキナを寝かせて胸元の魔石に手を伸ばすのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます