第40話 緊急避難!
「走れ、もっと早く!!」
イスヴァールから岩山の麓へと繋がる道。
森をまっすぐに抜けるそこを、俺は馬型のゴーレムに乗って走っていた。
新たに開発した移動用ゴーレムのスレイプニル型だ。
俺たちも活動範囲が広くなってきたため、魔導王国から戻ってきた際に作ったものである。
黒く染め上げられた馬体は通常の馬の倍ほどもあり、さらに足は八本。
徒歩で十日は掛かるエルフの王国まで、わずか一晩で走り切るほどの走力がある。
さらに最大の特徴として――。
「そろそろ使えるな。ウィンドアクセル!!」
スレイプニルの首の付け根に設置されたスイッチ。
それを押し込むと、たちまち巨大な馬体が風を纏う。
これこそがスレイプニル最大の特徴、風魔法による加速能力だ。
魔力の消耗が激しいため連続使用はできないが、ここから山の麓までは十分だ。
「いっけええっ!!!!」
みるみるうちに速度を上げていくスレイプニル。
周囲の景色が後ろへすっ飛んでいき、風が轟々と唸り出す。
俺は姿勢を低くすると、全力でスレイプニルの身体にしがみついた。
こうして耐え続けること数分。
やがて岩山の麓の村が見えてくる。
「とまれっ!!」
やがて村の入り口に差し掛かったところで、そう叫んだ。
するとスレイプニルは急停止し、俺は反動で前に吹っ飛ばされてしまう。
そしてそのまま、地面の上をゴロゴロと転がった。
「……あたた、やっぱりまだ未完成品だなぁ」
強打してしまった腰を擦りながら、ゆっくりと立ち上がる。
まだまだ、スレイプニル型を運用するにはいろいろと調整が必要そうだ。
とはいえ、途中で止まってしまうようなことはなかった。
おかげで予定よりも大分早く着くことが出来たぞ。
「領主さま……? 来て下さったのですか?」
ここで、俺が来たことに気付いたコボルトたちが駆け寄ってきた。
どうやら、クロウラーの群れに対してどうするのか皆で話し合っていたらしい。
幸いなことに、この場にほとんどの村人が集まっているようだった。
「みんなを助けに来た! 俺の言うことをよく聞いて、指示に従ってほしい!」
たちまち、コボルトたちの視線がこちらに集中した。
俺はやや緊張しつつも、遥か岩山を見上げて言う。
「これから全員で村を離れ、安全な場所まで避難する。避難先はダンジョンだ」
「ダ、ダンジョンですか!?」
「そうだ。ダンジョンの門は破壊不可能な材質で出来ているし、ダンジョンの中は異空間になっているから入り口さえ塞いでしまえば安全なんだ」
俺の説明を聞いて、コボルトたちは少し驚いたような顔をした。
彼らには散々、ダンジョンは危険なものだと話しているのでそこへ逃げ込むとは思いもよらなかったのだろう。
しかし、俺の説明を聞いてすぐに納得したように頷きだす。
「なるほど……それは盲点でした」
「言われてみれば、確かに」
「もう時間がない。急いでみんな避難するぞ、早く!!」
こうして俺たちは、急いで山の中腹にあるダンジョンへと向かうのだった。
――〇●〇――
「押さないで! 転ばないように!」
ダンジョンのある洞窟の入り口に立ち、コボルトたちを誘導する。
そうしていると、やがて遥か彼方から地鳴りのような音が響いて来た。
まずい、クロウラーだ!!
慌てて音がする方を見れば、黒い波がいよいよ迫ってきていた。
「ヤバい、登ってくるぞ!! 急いで!!」
クロウラーの一部が、山を登り始めたのが見えた。
平地に比べて多少速度が落ちてはいるが、いよいよもう時間がない。
俺はまだ洞窟の中へと入ってなかったコボルトたちの背中を押して、そのまま奥へと押し込んでいく。
いささか手荒いが、こうなってしまってはもう無理やりにでも詰め込むしかない。
「……ランスロット!!」
ここでとうとう、群れの先を走っていた一部のクロウラーが接近してきた。
急いで村から連れてきていたランスロットⅡ型を対応に当たらせる。
剣が閃き、瞬く間にクロウラーは両断された。
やはり、一体一体はまったく大したことないな。
俺がそんなことを思っていると、ランスロットⅡ型に今度はおびただしい数の黒い塊が襲い掛かる。
「げっ!!!!」
猛烈な勢いで剣を振るうランスロットⅡ型。
しかし、あまりの数にあっという間に呑み込まれて行ってしまった。
おいおい嘘だろ、あのランスロット型が一瞬で!?
想像を超えた光景に俺は立ち尽くしそうになるが、すぐに走り出す。
「早く、早く早く!!」
足をもつれさせながらも、洞窟を奥へ奥へと進んでいく。
するとにわかに通路が広くなり、大空間が現れた。
おぉ、こんなところが山の洞窟にあるなんて……!!
天井から無数の鍾乳石が垂れ下がるその姿は、何とも神秘的だ。
そしてその中心部に、この世のものとは思えないほど白い門が聳えている。
まるで、純粋な光を固めて作ったかのようだ。
「あれだ……!!」
門の向こうには、何やら黒い渦のようなものがあった。
その異様な雰囲気に抵抗感を覚えたのだろう。
門の前には未だダンジョンに飛び込めないコボルトたちが、数名残っていた。
俺は彼らのもとに駆け寄ると、文字通りその背中を押してやる。
「急いで! クロウラーが押し寄せてくる!」
「で、でも……!」
「勇気をもって、さあ!!」
「は、はい!」
俺に促され、コボルトたちはどうにかダンジョンの中へと入っていった。
あとは俺さえ入れば、避難は完了だ。
不気味に渦巻く黒い渦に、わずかながらのためらいを覚えつつも門の中へと足を踏み入れる。
すると――。
「あ、あれ!?」
ダンジョンの中に入ったはずが、何故か素通りして門の反対側へと突き抜けてしまうのだった――。
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