第34話 緊急会議
「まもなくクロウラーの大群が発生する。放置しておけば、森を喰いつくす恐ろしい災害だ」
エルフたちにクロウラーの大量発生を知らされてから、およそ五日。
夜を徹して移動した俺たちは、無事にイスヴァールへと帰りついていた。
そして新しくできた役所の一室に街の主要人物を集め、緊急で会議を行っていた。
「クロウラーというと、確か十五年ぐらいの間隔で発生しているあの?」
「そうです。正確には十三年と十七年ですね」
「ならば、別にそこまで大したことではないのでは? 前に発生した時も、オーク族が喜んで食い尽くしたと聞いていますが」
コボルトの一人が、何とも呑気な口調でそう言った。
この人は確か、岩山の麓の村とは別のところの長老さんだったか。
たちまち、年嵩のコボルトたちがうんうんと同調して頷く。
「そのオークたちが、小鬼王の侵攻を受けてクロウラーの発生地からいなくなってしまったようなんです」
「加えて、もともと今年は二百二十一年ぶりに十三年周期のクロウラーと十七年周期のクロウラーが同時に発生する年。エルフたちから得たクロウラーの情報を元に、私が計算しましたところ……。想定されるクロウラーの群れの数は最大で十億」
マキナの告げたあまりにも無慈悲な数字。
その場に集まった誰もが、呆けたように目を見開いた。
十億なんて、数が多すぎて想像もつかないのだろう。
俺も正直、あまりピンと来ていない。
エンバンス王国の人口がおよそ一千万人と言われているので、その百倍。
森を呑み込むというのに相応しい、とんでもない数だということだけは分かる。
「そ、そんな途方もない数……。逆にどうするのですか?」
「我々は千人もいない。いくらクロウラーと言えども、押しつぶされますぞ!」
「も、もうおしまいだ……!」
「せっかく街も豊かになってきたというのに、これでは……!!」
「狼狽えるな!」
動揺して騒ぎ出すコボルトたちに向かって、アリシアさんが一喝した。
途端にコボルトたちは、冷や水を浴びせられたかのように黙り込む。
「……差し出がましいことをしました」
「いや、構わないよ。それで、このクロウラーへの対策なんだけどエルフと連携して行うことになる」
「ほう、エルフと!」
「六王の一角ならば、なんとかなるかもしれないな」
コボルトたちの顔に希望が戻ってきた。
やはり、この森の生き物にとって六王の一角という看板は相当に大きいらしい。
「基本はエルフの術師が範囲殲滅魔法を使ってクロウラーの群れを殲滅します。ただ、その魔法はいろいろと発動条件があるうえに連発もできないので騎士団が守る必要があるそうです。その防衛戦力として、俺たちも参戦予定です」
「この私、アリシアがランスロット型五百体を率いて向かうことになっている」
ゴーレムの軍団と言えど、一軍を任されることが誇らしいのだろう。
アリシアさんはどこか自慢げな口調でそう言った。
さらに続いて、ミーシャさんが言う。
「あたしも、タロス型百体を連れて陣地の作成に行くし!」
「それは頼もしいですな! ちなみに、ガンズ殿は?」
「俺は居残りだよ。ヴィクトル様の警護を任されてる」
「ということは……」
皆の視線がマキナに集中した。
マキナが俺の護衛を他の人間に任せるときはほとんどが研究に没頭する時である。
今度は一体どんなゴーレムを生み出すのか。
皆、興味津々のようであった。
その期待に応えるように、マキナは軽く咳払いをして言う。
「……エルフの魔法だけではクロウラーの排除は困難と判断しています。そこで、より確実にクロウラーを排除するために、新しいゴーレムの開発を進めるつもりです」
「新しいゴーレムって言うと、どんな?」
「かねてから研究していた増殖型ゴーレムです」
これは、ダンジョンが見つかった時に研究すると言っていたものである。
制御不能になったら恐ろしいから、研究だけすることになったものだ。
しかしながら、コボルトたちにはピンとこなかったのだろう。
彼らは揃って首を傾げる。
「増殖型? 何ですかそれは?」
「文字通り、どんどん増える性質を持ったゴーレムです。試作型を用意しましたので、これをご覧ください」
そう言うと、マキナはパンパンと手を叩いた。
すると部屋の外で控えていたデメテル型が、大きな虫型のゴーレムを台車で運んでくる。
さらにその台車の上には、山盛りの土と魔石の埋め込まれた人形が置かれていた。
いつの間にこんなものを……帰りの道中にひっそり作業してたのかな。
「これは……」
「見ていてください」
再びマキナが手を叩くと、虫型のゴーレムが動き始めた。
ゴーレムはまず前脚で人形から魔石を取り出すと、今度は周囲の土を固め始めた。
みるみるうちに、ゴーレムそっくりの土人形が出来上がっていく。
そして最後に、土人形へ魔石をはめ込んで――。
「ゴーレムが二体になった!?」
元のゴーレムとほぼ同じ姿のゴーレムが出来上がった。
遠目で見れば、どちらが後に作られた個体なのか区別がつかないほどだ。
まさしく増殖したと言っていいだろう。
「このように、増殖型は魔石と土さえあればいくらでも数を増やして敵を押しつぶせます。しかしながら、今のところはまだ作業速度も遅い上に大きさも大きすぎますので改良が必要です」
「マキナは今からその研究をするという訳だね?」
「ええ、そのとおりです」
「しかし、間に合うのですか? クロウラーの発生まで、時間はどのぐらいあるのです?」
コボルトの一人が疑問を呈した。
するとマキナは、やや間を空けて答える。
「およそ一か月です。開発が間に合うかは、いささか際どいところですね。少しでも耐えられるように、並行して防壁の強化なども進めておくべきでしょう」
「方針はこれできまりかな。じゃあ、それぞれこのイスヴァールを守るために頑張ってくれ!」
「おおーー!!」
俺の言葉に合わせて、気勢を上げる一同。
こうして、クロウラーの襲来に備えて準備を進め始めるのだった。
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