第16話 勝利、そして――
「馬鹿……な……!!」
「ロードが……!!」
マキナの拳によって、軽々と吹き飛ばされたゴブリンロード。
放物線を描いた巨体はそのままなすすべもなく地面へと叩きつけられ、それっきり動かなくなった。
――たった一撃でロードが倒された。
その事実に打ちのめされたゴブリンたちは一目散にその場から逃げ出そうとする。
敵に背を向け、武器すら放り投げたその姿はまさに烏合の衆だ。
「逃がすな!!」
「任せて! ファイアーウォール!!」
ゴブリンたちの進行方向に、いきなり炎の壁が出現した。
突然のことに急停止したゴブリンたちは、そのままバランスを崩して雪崩を打つように倒れてしまう。
「おのれ、おのれおのれおのれ!!」
「しねえええっ!!」
ここで、ゴブリンジェネラルを筆頭に数体のゴブリンが反転した。
逃亡することを諦め、俺たちに一矢報いることを選択したようだ。
完全に自棄になっているのだろう。
その勢いはなかなか大したもので、近くにいたランスロット型が倒された。
だがしかし――。
「切り捨ててくれる!」
「おらあああっ!!」
ゴブリンジェネラルたちの前に、アリシアさんとガンズさんが立ちはだかった。
二人はそれぞれ武器を抜くと、即座に切りかかっていく。
――速い!
アリシアさんの剣が閃き、ガンズさんの斧が唸った。
ゴブリンジェネラルたちはどうにか応戦しようとするが、追いつけない。
血飛沫が舞い、ゴブリンたちの首が飛ぶ。
流石は元一流の冒険者、二人ともすさまじい戦いぶりだ。
「……全部片付いたか?」
「ああ、そうみたいだ」
「生命反応はありません」
数分後。
村に押し寄せたゴブリンロードとその手勢は全滅した。
戦いを見守っていたコボルトたちが、たちまち歓声を上げる。
「やった俺たちの勝利だ!!」
「頑張った甲斐があったなぁ……!」
「良かった、本当に良かった!!」
お互いに肩を組み、飛び跳ねるコボルトたち。
その喜びようと言ったら、見ているだけでこちらも幸せな気分になるほどだった。
この村にとって最大の危機が回避されたのだから、これだけ喜ぶのも当然か。
「よく頑張ってくれた、みんなのおかげだ! アリシアさんたちもありがとう!」
「おう! ま、一番デカいやつはマキナに任せちまったけどな!」
「ランスロット型もヤバかったっしょ! ゴブリンエリートって、あれで結構強いからね!」
「ああ、通常種と違ってEランクぐらいでは負けることがあるからな」
へえ、よく知らなかったけどエリートと付くだけでそんなに強くなるのか。
それを一方的に倒したランスロット型百体は、かなりの戦力のようだ。
あれ、ひょっとして作り過ぎたか……?
五十体ぐらいで良かったかもしれない。
でもまあ、今後の戦いもあるので結果オーライなのかな。
そんなことを考えていると、やがて村長さんが歩み出てくる。
「ああ、これで村は救われました……! 何とお礼を申したらよいのやら」
「いやいや、こっちも魔石とか鉱石とかいろいろ貰ってるしね。それに、ランスロット型を百体も生産してくれたみんなのおかげだよ」
「とんでもない! すべてはヴィクトル様のおかげです!」
俺たちに向かって、コボルトたちが深々と平伏した。
その眼からは、もはや信仰心のようなものすら感じられる。
ここまでされると、こちらとしても何だか照れ臭いな……。
俺たちとしても、ゴブリンたちを放置できないから戦っただけなのに。
「……ありがとう。でも、まだ小鬼王を倒したわけじゃないからね。これからも油断はできないよ」
「それについては、しばらくは大丈夫だと思います。小鬼王は用心深い性格なので、ロードの軍勢を全滅させた相手をいきなり攻めるようなことはしないかと」
ポポルの言葉に、俺はなるほどと頷いた。
そう言うことならば、しばらくは戦力増強に専念できそうだな。
ついでに、確保した鉱石などを使って村の基盤整備も行いたい。
まだまだやるべきことは山ほどあるのだ。
「あの、ヴィクトル様」
「なに?」
「我々から一つ提案があるのですが、いいでしょうか?」
俺があれこれと思案していると、村長さんが急に改まった顔で切り出してきた。
これはもしかして……。
何となく彼のいおうとしていることを察した俺は、背筋を伸ばして向き直る。
「我々の村はヴィクトル様のおかげで危機を脱することが出来ました。しかしながら、この大樹海を我らだけの力で生き延びるのは難しく……。ぜひとも、ヴィクトル様の傘下として迎え入れてはいただけないでしょうか」
「……わかりました」
俺は静かに頷くと、村長さんの手を握った。
コボルト村、総勢五十名超が領民となった瞬間であった。
すぐにアリシアさんたちが、ぱちぱちと手を叩く。
「ありがとうございます! コボルト一同、領民として誠心誠意尽くさせていただきます!」
「ああ、よろしく頼むよ」
「ではさっそく、祝いの準備をしましょう!」
宴会の準備をするべく、あわただしく動き出した村長。
こうして、一転して和やかな雰囲気となったところでだった。
村の裏の岩山から、とんでもない叫びが聞こえてくる。
「ギシャアアアアッ!!」
「な、なんだ!?」
「耳が、痛い……!」
金属を激しくこすり合わせたような、酷く不快な大音響。
俺たちはたまらず耳を抑え、顔をしかめる。
こりゃ、一体なんだ……?
ドラゴンだって、こんな大声は出さないぞ……!
「だ、大蛇様の声だ……!!」
「これが? でも、大蛇様って岩山に引きこもってるんだろ?」
「血の臭いです! ゴブリンどもの血の臭いで、興奮されておられるのです!」
そう言えば、さっきから岩山の方に向かって風が吹いていた。
そよ風だったため気にもしていなかったが、これが血の臭いを山に届けたらしい。
「こりゃ、まずいことになったな……!!」
「最後の最後のどんでん返しってわけか?」
たまらず顔をしかめる俺たち。
それと同時に、恐ろしく巨大な何かがゆっくりゆっくりと姿を現す。
おいおいおい……こりゃ思ったよりデカいぞ……!!
山肌を這いずってくる黒い巨体は、見ていて距離感が狂うほどだ。
「すっげえな……! 三十メートルはあるか?」
「こいつ、ほんとに蛇?」
「こんなのがいたのでは、ゴブリンどもが手を出せなかったはずだ」
「シャアアアアッ!!!!!!」
口を全開にして、再び雄叫びを上げる大蛇様。
こうして、戦いの幕が上がったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます