第17話 大激戦!

「フェイルノートは頭を狙え!! 最大威力だ!」


 俺の指示を受けて、すぐにゴーレムたちが動き出した。

 フェイルノート型が次々と矢を番え、狙いを定める。

 ――ビョウッ!!

 矢が風を斬り、そのまま一直線に大蛇様の身体に当たった。

 しかし、硬質な金属音が響くだけで貫けない。

 

「クソ、やっぱり弾かれるな!」

「シャアアアアッ!!」

「まずい! ランスロット、みんなを庇うんだ!!」


 大蛇様の口から、何か黒い液体が飛び出した。

 嫌な予感がした俺は、とっさにランスロット型に盾になることを命じる。

 ――ジュッ!!

 黒い液体がランスロット型の身体に当たった瞬間、ジュッと肉が焼けるような音がした。

 それと同時に、白い煙のようなものが上がり始める。

 酸だ、それもとびっきり強力な!

 薄い鉄板で覆われているはずのランスロット型がみるみるうちに溶けていく。


「マキナ!!」

「問題ありません」


 降り注ぐ酸の雨を回避しながら、マキナは大蛇様へと接近した。

 そして拳を低く構えると、そのまま一気に解き放つ。

 ――ズゥンッ!!

 レッドドラゴンをも叩きのめした一撃が炸裂した。

 大蛇様の巨体が、衝撃によってズズッと滑る。

 しかし、そう簡単には倒れてくれない。

 大蛇様は体勢を崩しながらもマキナを睨みつけると、口を大きく開く。


「シャアアアアッ!!」

「くっ!」


 吹き付ける酸の塊。

 マキナはとっさに腕で自身の身体を庇った。

 たちまち酸が腕に付着し、白い煙を上げ始める。


「やむをえません」


 腐食が広がる前に、マキナは自ら腕を切り離した。

 そしてどうにか着地をすると、いったん大蛇様から距離を取る。


「マキナ、大丈夫!?」

「腕を外したことで、運動性能が二割ほど低下しています。現在の攻撃力ですと、奴を倒すには口の中から攻撃するしかないかと」

「口か……」


 鱗に守られていない口の中からなら、ダメージが通るという訳か。

 だがそれだと、別に大蛇様の攻撃を誘う役がいるな……。


「……私たちが隙を作りましょう」

「ダメだ、危険すぎる!」

「問題ありません。私たちの鎧ならあの酸にも多少は耐えられます!」


 そう言うと、アリシアさんは自らの鎧をパンッと叩いた。

 確かに、ドラゴンの鱗ならばそうそう簡単には溶けないかもしれない。

 だが、鎧は彼女たちの身体を隙間なく覆っているわけではないのだ。

 もし露出している顔などにかかれば、命に関わる。

 しかし、アリシアさんたちは笑いながら言う。


「このぐらいの危険、冒険者をしていれば覚悟の上です。ガンズ、ミーシャ! 援護を頼む!」

「オッケー!」

「いくぞおおおおっ!!」


 ミーシャさんとガンズさんが先陣を切った。

 こうなってしまっては、もう作戦を始めるよりほかはない。

 俺は改めてマキナとアイコンタクトを取る。


「行ってきます」

「ああ!」


 俺がそう言うと、マキナが不意に顔を近づけてきた。

 そしてその唇をスッと頬に押し当ててくる。

 ――こ、こんな動きするように教えた覚えはないぞ!?

 予想外の出来事に戸惑っていると、マキナは一気に大蛇様に向かって飛び出していく。


「ファイアーボール!!」

「おっらああ! グランドスマッシュッ!!」


 このタイミングで、ミーシャさんとガンズさんが仕掛けた。

 炎の塊が大蛇様の視界を潰し、そこへさらにガンズさんが渾身の一撃を打ち込む。

 ――ギラリ。

 大蛇様の金色の眼が、カッと大きく見開かれた。

 たちまち酸が二人に降り注ぐが、彼らはステップを踏んでどうにか難を逃れる。

 わずかに当たってしまった飛沫も、ドラゴンの鱗がどうにか防ぎきった。

 こうしているうちに、アリシアさんが追撃を放った。


「剣よ、閃け! ホーリースラッシュ!!」


 ミスリルの剣が魔力を帯びた。

 魔を滅ぼす白銀のオーラが、靄のように剣から立ち上る。

 まさか、アリシアさんがこんな技を持っていたなんて。

 洗練された魔力の練り上げ方は、聖騎士にも匹敵しそうだ。

 そして――。


「キシャアッ!」


 交錯する刃と鱗。

 激しく火花が散り、大蛇様が巨大な鎌首をもたげた。

 その眼には強烈な憎悪が迸り、生意気な襲撃者を睨みつける。

 ――ゾクリ。

 凄まじい殺気が俺にまで伝わり、背筋が冷えた。

 やがて大蛇様は口を限界まで広げると、一気にこちらを丸呑みにしようとする。

 だがこれこそ、こちらが待ち望んだ展開だった。


「シャアアアアアッ!!!!」


 牙から酸を滴らせ、こちらに向かって突っ込んできた大蛇様。

 その瞬間、マキナがその口の中へと突っ込む。

 そして姿が見えなくなったところで、大蛇様の上顎がいきなり跳ね上がった。

 ――ズゴォンッ!!

 およそ肉を殴ったとは思えない音が響き渡る。

 

「グオギャアアアアアアッ!!??」


 轟く断末魔。

 それにやや遅れて、大蛇様の額が割れた。

 血が噴き上がり、それと同時にマキナの身体が飛び出してくる。

 宙に舞い上がった彼女の身体は、そのまま宙返りを決めて着地した。

 だがしかし――。


「まずいですね」


 マキナの身体から、白い煙が上がった。

 そんなバカな、酸には当たってないはずなのに!

 予想外の事態に動揺していると、マキナが言う。


「……迂闊でした。どうやら、血液にも腐食成分が含まれていたようです」

「待ってろ、すぐに拭いてやるから!」


 俺は上着を脱ぐと、とりあえずの処置でマキナに付着している血を拭きとった。

 酸によって腐食され、黒く変色した装甲が痛々しい。

 ……これで完全にマキナの身体は作り直しだな。

 あの大蛇様がマキナの強化に足りるだけの魔石を持っているといいのだけど……。

 俺がそんなことを思っていると、アリシアさんたちの声が聞こえてくる。


「す、すごい! こんなにデカいの初めて見るじゃん!」

「注意して取り出せ! 傷つけたら大変だぞ!」

「おう、わかってるって!」


 いつの間にか、大蛇様の頭の上へと移動していたアリシアさんたち。

 どうやら額の傷口から何かが見えているらしく、彼女たちはそこをそれぞれの武器で掘り返そうとしていた。

 するとやがて、赤い輝きが目に飛び込んでくる。

 あれは、もしや……!!


「魔石!?」


 アリシアさんの手に抱えられた、赤ん坊の頭ほどもある赤い石。

 怪しげな光を放つそれは、間違いなく魔石であった。

 

「やった……やったぞ……!!!!」


 これでマキナの新しい身体が作れる!!

 俺はいよいよ勝利を噛みしめ、喜びを爆発させるのだった。



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