第8話 自動化への道
「ゴーレムにゴーレム生産を手伝わせる?」
マキナの言葉を俺はゆっくりと反芻した。
するとマキナは軽く頷きを返して言う。
「はい。今までのゴーレムはすべて、ヴィクトル様が作成しておりましたよね?」
「ああ」
「ですから、製作数にも限度がありました。ですが、私たちゴーレムがそれを手伝えば制作数は増やせます。ゆくゆくはすべての工程をゴーレムに任せることもできるでしょう」
なるほど、そう言うことか。
俺の時間的な制約を超えてゴーレムを生産できるメリットは大きいだろう。
それに、上手くいけばそのうち何もしなくて良くなるのは素晴らしいな。
ふはは、理想のニート生活も近いぞ……!!
これが実現された暁には、俺は一日中マキナとイチャイチャして過ごすのだ。
……まあ、そうなるころには別の仕事が湧いてるかもだけど。
「メリットはそれだけではありません。私のような自律型ゴーレムを何体か開発していただければ、技術開発も加速できるかと」
「あー、ゴーレムなら不眠不休で研究できるからか」
「それもありますが、我々の演算回路は改良が可能です。改良された演算回路を持つゴーレムがさらに高性能なゴーレムを開発する。これを繰り返していけば、短期間で飛躍的な能力向上が見込めるかと」
それは要するに、性能が向上して賢くなったゴーレムがより賢いゴーレムを作って行くことを繰り返せばどんどん能力が上がっていくということか。
流石はゴーレムというべきか、これまでにはなかった発想だな。
……これ、上手いことやれればとんでもなく賢いゴーレムが生まれて、すごい勢いで技術開発ができるんじゃないか?
このループが行きつく先って、割とすさまじい気がする。
「それ、マジヤバくない? 伝説の賢者みたいなゴーレムできるかも」
「……すまん、俺にはよくわからん」
「私もなんとなくだが、凄いことになりそうだというぐらいしか」
頭を使う魔法使いだからであろうか?
ある程度正確にマキナの言うことを理解したミーシャさんに対して、ガンズさんとアリシアさんはどうもよく分かっていないようだった。
するとミーシャさんは、二人に対して少しかみ砕いた説明をする。
「マキナちゃんを使って、ちょっと賢い超マキナちゃんを作る。で、その超マキナちゃんを使ってさらに賢い超々マキナちゃんを作るってのを繰り返していけばすごいの出来るよって話」
「なるほど、それはなかなかとんでもないな」
「お、それなら俺にも理解できるぜ!」
どうやら、ミーシャさんの説明でガンズさんとアリシアさんもおおよそマキナの言っていた意味を理解したらしい。
明るい将来を予感したのか、二人ともすっかり興奮した様子だ。
とはいえこの戦略、穴がないわけではない。
「……まぁ、自律型ゴーレムの制作には上質な魔石がいるから。レッドドラゴンの魔石は他に使いたいし、一朝一夕ってわけにはいかないよ」
ゴーレムの演算回路を作るには魔石が必要だ。
これはモンスターから採取することのできる素材で、強力なモンスターであればあるほど大きくて質の良い魔石を取ることが出来る。
仮にマキナ並の性能を持つ自律型ゴーレムを作成する場合、最低でもドラゴン種の魔石が必要になるだろう。
「ひとまずは自律型以外のゴーレムから増やしてまいりましょう。ゴーレムが揃えば、何かと作業は捗るはずです」
「そうだね。んじゃ、村の整備と並行してゴーレムをどんどん生産して防衛態勢を整えていこうか。いずれはゴーレムの生産はゴーレムを使って自動化する方向で」
ひとまず、今後の行動のおおよその方向性は決まったな。
村を整備しつつゴーレムを生産し、亜人族の襲撃に備える。
そして住民を集めて規模を拡大し、村をどんどんデカくするのだ。
その先にはきっと、快適な領主生活が待ってるぞ!
「それでは、最後にお風呂を案内いたします」
「あ、そう言えば! お風呂も頼んでたね!」
「大事なことなのにすっかり忘れてた! お風呂あったじゃん!」
マキナの言葉を聞いて、俺たちはやっとお風呂のことを思い出した。
一番重要と言っても過言ではない施設なのに、まったくなんてことだろう!
そんなうっかり物の俺たちに、マキナは微笑みを浮かべながら手招きをする。
「こちらです。多くの水を使う都合上、泉の近い位置にありますので」
こうして、マキナの案内に従って歩くこと数十秒。
周囲の小屋よりも一回り大きな小屋が目に飛び込んできた。
小屋には入り口が二つあり、どうやら男女で分かれているらしい。
「さ、中に入りましょう」
案内されて中に入ると、まずは脱衣所のような空間があった。
下にスノコのようなものが置かれていて、水はけがよくなっている。
そしてその先には木製の大きな浴槽が置かれていた。
そこに向かって流れ込むように、衝立を突き抜けて木の樋が設置されている。
「外にかまどが設置してありまして、そこでお湯を沸かして流し込む形となります」
「へえ、なかなか良くできているな」
「ただし、お湯を沸かす部分が小さいので少し不便をおかけするかと。持ち込んだ材料が限られていましたので」
しょんぼりとした様子のマキナ。
けど、この未開の地においてこれだけの設備を用意できれば上出来である。
なんなら、お湯についてはある程度ミーシャさんの魔法で補うこともできるし。
「いや、マキナはよくやってくれたよ。そうだ、せっかくだしみんなで朝風呂にでも入ろうか」
「賛成!!」
皆の声が揃った。
こうして俺たちは、この村で初めてお風呂に入るのだった。
今日のマキナの提案が、今後の大きな飛躍へと繋がるとも知らずに――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます