第7話 できたてほやほやの村

「まさか一晩でこれほどの物を作るとは……!」

「そうかな? 俺も確かに、二日か三日はかかると思ってたけどさ」


 色を失っているアリシアに、俺は首を傾げながらそう言った。

 確かにゴーレムたちの作業は予想より早かった。

 だが、そこまで驚くほどのことだろうか?

 俺がぽかんとしていると、ミーシャさんが呆れたように言う。


「あたしたち、前に別の開拓団の護衛もしたことあるんだけどさ。森を切り開いて小屋を作るだけで十日はかかってたよ。しかもその時の開拓団って三十人はいたし」

「そんなもんなのか。なら、うちのゴーレムたちは優秀なんだな」

「優秀というか、もっと量産したらとんでもないことになるのでは……」


 アリシアさんが何だか引き気味になりながらそう言った。

 うーん、ゴーレムの量産か。

 あれは俺しか作れないし時間がかかるからなぁ。

 職人を雇えば話は違ってくるだろうが、この魔境に来てくれる人がいるかどうかだな。


「……うわ、なんだこりゃ!?」


 ここで、少し離れたところにある小屋の扉が開いた。

 そして中から顔を出したガンズさんが、素っ頓狂な声を上げる。

 さっきのアリシアさんたちとまったく同じ反応だな。


「ガンズ、遅いぞ! いくらゴーレムたちが見張っているからと言って、ぐっすり寝すぎだ」

「すまねえ、リーダー。旅の疲れが出ちまって。いやしかし、たった一晩でこんな村が出来ちまうなんて……」

「私たちもそれに驚いていたところだ。マキナ殿、とりあえず村を案内してもらえないか?」

「かしこまりました。では皆さま、私について来て下さい」


 こうして俺たちは、まだ出来たばかりの村の中を歩き始めた。

 村と言っても、土地が切り開かれ小屋がいくつか集まっただけの場所なのだけど。

 そうしていると、マキナはまず開かれた土地の端にある掘立小屋の前で止まる。


「こちらがトイレです。中には穴が掘ってありまして、蓄積された汚物は汲み出す仕組みとなっております」

「いずれは各戸に設置したいね」

「はい。付近に河川が見つかりましたら、水洗化もしたいところです」


 続いて、マキナはトイレから少し離れたところにある小屋へと向かった。

 なかなかしっかりした造りで、基礎の部分が少し高くなっている。


「こちらが倉庫です。穀物などの保管に使う予定です」

「なら、あとであたしが氷魔法を掛けておこっか」

「それは助かります」


 へえ、ミーシャさんはそういう魔法も使えるのか。

 冒険者だけど、戦闘一辺倒ってわけではないんだな。


「続いてこちらが、昨日のうちに耕しておいた畑です。ヴィクトル様の持ち込まれた小麦や野菜類の種が植えてあります」

「おー、けっこう広いな!」


 ざっと、五十メートル四方ぐらいはあるだろうか。

 鬱蒼と生い茂る森の一角が綺麗に切り開かれた姿は、少し感動するものがある。

 太陽が燦燦と降り注いでいて、眼にもまぶしい。


「畑についてはまだまだ拡張予定です。この人数を養うには少々心もとないので」

「そうだな。うちの村だとみんなこの三倍ぐらいは耕してたなぁ」


 実家が農家らしいガンズさんが意見を言う。

 なるほど、俺は広いと感じたけれど畑としてはまだまだ小さいのか。

 街を一歩出れば広々とした畑が広がってるなんてところも、言われてみれば多いもんな。


「デメテル型の能力を考えれば、この十倍程度までは余裕があります」

「それぐらいあれば、多少人数が増えても養えるな」

「住民の増加に備えて、既にいくつか小屋も建ててあります」

「流石はマキナ、準備がいいや」

「はい。ですが現状、足りないものはあまりにも多いです」


 今の俺たちはありとあらゆるものを自給自足しなければならない状態だ。

 必要最低限のサバイバル生活ならともかく、文化的な生活を目指すならまだまだ何もかもが足りていない。

 家だってもっとしっかりしたものを建てたいし、服や食事なんかもこだわり出したらキリがないしなぁ。


「とりあえずは住民集めでしょう。人が集まればできることも増えていきます」

「そうだね。領地としてやっていくためにも人は絶対に必要だ」


 マキナも含めて、今の住民は五名。

 もはや村というか、家族がぽつんと住んでるのと変わらないぐらいの感じだな。

 共同体として成り立たせていくためには、あと五十人ぐらいはいるだろうか。

 ……いや、他の街からの供給に頼れないこの場所なのだ。

 今後の継続性を考えると最低でも数百人ぐらいは必要な気がする。


「とはいえ、この魔境にどうやって人を集めるかだな。ある程度村が整ったら、近くの街から移民を連れてくるしかねーか」

「そうなると厄介なのは亜人族だな。やつら、人間がこの森に村を築いていると知ったら即座に攻撃を仕掛けてくるぞ。この規模ならまだしも、範囲を広げれば必ず現れるはずだ」

「……そんなに亜人って好戦的なの?」


 恐る恐る俺が尋ねると、アリシアさんは深々と頷いた。

 そして、自身の経験を語り始める。


「そりゃ、大樹海が開拓できない最大の要因だからな」

「ええ。前にオーガと戦ったことがありますが、連中の凶暴さときたら……。あまり思い出したくもありません」

「一応、エルフとかドワーフとか落ち着いた種族もいるけどね。基本はヤバいよ」

「うーん、それなら村を守るために今以上の戦力がいるなぁ」


 マキナや暁の剣の皆がいるとはいえ、村を守る戦力としては少数すぎる。

 もっとまとまった軍隊のようなものが必要だろう。

 とはいえ、魔境の小さな街でそれを養っていけるかどうか……。


「ヴィクトル様、ひとつご提案が」


 俺が考えていると、ここでマキナがスッと手を挙げた。

 皆の視線が自然と彼女に集まる。


「ゴーレムを量産されてはいかがでしょうか?」

「それが出来ればいいんだけど、俺の時間も限られてるからなぁ」

「ですので、ゴーレムにゴーレム生産を手伝わせるのです」

「んんん?」


 思いもよらない提案に、俺は思わず首をかしげるのだった。

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