第6話 あっという間に……!

「えっと、地図だとここが前の開拓団の拠点らしい」


 道なき道を進むこと三時間ほど。

 ようやく俺たちは、前の開拓団の拠点があったとされる場所へとたどり着いた。

 ここが今回の旅の最終目的地である。

 鬱蒼と生い茂る木々がここだけ途切れていて、近くには小さな泉がある。

 流石に百年以上も経っているので建物は土台しか残っていないが、なかなか開拓しやすそうな場所だ。

 王国の開拓団が拠点を構えていただけのことはある。

 事前にあちこち調べて、少しでもいい場所を選んだのだろう。


「ゴーレムたちにさっそく家を建てさせましょう。どのような形状が良いですか?」

「そうだな、今は仮だし適当でいいよ」

「分かりました。では、昨日お泊りになった小屋より一回りほど大きいものを建てましょう」


 そう言うと、マキナは近くにいた大きな人型ゴーレムに指示を出した。

 こいつの名前はタロス、土木作業などを得意とするゴーレムである。

 人型とすることによって、人間が扱うさまざまな道具を使えるのが特徴だ。

 タロスはさっそく斧を手にすると、近くの木を伐採し始める。

 そしてあっという間に材木を用意すると、それを積み木のように手際よく組み立てていった。


「……いつもながら圧巻です」

「ほんと、ヤバいよね。この調子ならあっという間に村が出来そう」


 みんなが感心しているうちに、大きなログハウスが出来上がった。

 この分ならば、今日の夕方までに全員分の家は用意できそうだな。

 

「えっと次は、トイレかな? できれば俺の工房とかも……」

「お風呂が欲しい! もう臭いがヤバいって!」

「物資を置いとくための倉庫は大事なんじゃないか?」

「畑も絶対に必要ですよ」


 こうなると、いろいろ作りたいものはたくさんある。

 皆が意見を次々と出す中、マキナがゆっくりと手を挙げた。


「皆さまが必要だと思う施設をいったんすべて私に預けて頂いてもよろしいでしょうか? 私の方で取りまとめて、すぐに作り始めましょう」

「え、そんなことできるの?」

「今の我々の労働力を考えれば可能でしょう。ただし、建築物のデータが必要ですので資料を読む許可をいただきたいです」

「資料って、俺が持ち込んでる本のことか?」

「はい」


 なるほど、そういうことなら拒否する理由はないな。

 俺はすぐさま本を運んでいたゴーレム車に近づくと、懐から鍵を取り出す。

 そして荷台に設置されていた大きな箱を開けた。

 箱の中には俺がこれまで集めてきた本がぎっしりと詰め込まれている。

 貴重な資料の数々に、ミーシャが目を輝かせた。


「うわ、すご! 上級魔導書もあるじゃん!」

「俺の十年間の結晶だからな。ぜんぶ売れば、小さな村ぐらい買えるぞ」

「あとで私も読んでいい?」

「もちろん」


 俺は箱に入っている本のうち、建築関連のものを何冊かマキナに手渡した。

 彼女はそれを受け取ると、パラパラと猛烈な勢いで頁を繰る。

 そしてたった数分ほどで分厚い本をすべて読み切ってしまった。


「これで作業の指示が出来ます。ありがとうございます、マスター」

「じゃあ、さっそくいいかな?」

「はい」


 準備の完了したマキナに、次々と要望を述べていく一同。

 マキナはそれらを取りまとめると、微笑みを浮かべる。


「では作業に入りますので、しばらくお待ちください」


 キビキビとゴーレムに指示を出すマキナ。

 俺たちは建設作業をマキナに任せ、食事の支度を始めるのだった。


――〇●〇――


「んんーー! 気持ちいい朝だ!」


 翌日の朝。

 昨日、食事を終えてすぐに寝た俺はちょうど日が昇った頃に起き出した。

 そして小屋の外に出ると、たちまち爽やかな朝の陽ざしが目に飛び込む。

 さてと、今日は何をしよう……んん!?


「おー、こりゃすごい」


 俺たちの小屋の前にあった広場とも言えないような小さな平地。

 そこがいつの間にか大拡張され、小屋がいくつも建てられていた。

 ざっと百メートル四方ぐらいは切り開かれている感じだ。

 建物だけでなく、小さな畑などもあり完全に小さな村となっている。

 流石は我が自慢のゴーレムたち、一晩でこれだけのものを作り上げるとは。

 うんうん、よく頑張ってくれたなぁ


「おはようございます、マスター」

「これ全部、夜のうちに作ったのか?」

「はい。トイレにお風呂に倉庫に畑です。あと、住民が増えた時に備えて小屋を何軒か追加で建てておきました」


 こともなげに言うマキナ。

 彼女たちゴーレムに任せて置いたら、あっという間に小さな町ができそうだ。

 これなら、俺はのんびりぐーたらできるかも。


「流石はマキナだ、ありがとう」

「一応、これで最低限の住居は確保されました。しかしながら、まだまだ不足している点は数多くあります。ヴィクトル様や皆様方の力は必要です」


 怠けようとした俺に釘を刺すように、マキナはそう言った。

 ……こいつ、ひょっとして心が読めるんじゃないか?

 そんな機能は与えていないはずなんだけど、まさかな。

 俺がこうしてくだらないことを考えていると、隣の小屋の扉が開く。

 そこは暁の剣の女性陣が暮らしている小屋だ。


「……は?」

「え、やばっ……!」


 外に出てきた途端に、引き攣った顔をするアリシアさんとミーシャさん。

 やがて再起動を果たした彼女たちは、俺とマキナの方を見て言う。


「ヴィクトル様、これは?」

「夜のうちにマキナがゴーレムを使ってやってくれたみたいだよ。ほら、みんなであれこれ作ってほしいって頼んだじゃない」

「そういう問題ではありませんから!!」


 溜まらず声を大にするアリシアさん。

 こうして静かな朝の森に悲鳴じみた叫びが響くのだった。


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