第3話 ワイバーン

「群れは何体だ?」

「全部で三体、かなり殺気立ってる」

「まずいな……」


 唇を噛み、渋い顔をするアリシアさん。

 彼女たち『暁の剣』は総勢四名の上位パーティ。

 装備の質などからして、ワイバーンの一体ぐらいなら倒せる実力があるだろう。

 しかし流石に三体となると、いささか荷が重いらしい。


「ミーシャとヘンリーは翼を狙って敵を撃ち落とせ! ガンズはヴィクトル様を守っるんだ!」

「リーダーはどうする?」

「私はワイバーンが降りてきたところで迎え撃つ!」


 そういうと、アリシアさんは腰の剣を抜き放った。

 それと同時にどこからか甲高い鳴き声が聞こえてくる。

 ……ワイバーンの声だ!

 やがて月明かりに照らされながら、大きな影が姿を現す。


「うちのゴーレムたちも戦わせてください!」

「戦えるゴーレムがあるんですか?」

「はい! フェイルノート、来い!」


 俺がそう呼びかけると、すぐさま亀のような姿をしたゴーレムが出てきた。

 その背中の上には大きなバリスタが備えられている。

 こいつの名前はフェイルノート。

 街を防衛するために開発した戦闘用のゴーレムだ。

 その性能は移動式の全自動バリスタとでもいうべきもので、その矢の威力はワイバーンにも有効なはずだ。


「こんなものまで……! 助かります!」

「来たぞ!! 撃て!!」


 話しているうちに、ワイバーンがこちらを攻撃するべく急降下してきた。

 すぐさまミーシャさんがファイアーボールを放ち、ヘンリーさんも次々と矢を放っていく。

 流石は一流の冒険者、その攻撃は流れるように見事だ。


「フェイルノート、撃て!」


 俺もすぐさまフェイルノートに指示を飛ばした。

 たちまち大きな弓が引き絞られ、自動で矢が番えられる。

 ――ビョウッ!!

 巨大な矢がうなりを上げて宙を切る。

 そして三頭のワイバーンのうち、一頭の翼を穿った。

 バランスを崩したワイバーンはそのままなすすべもなく地上へと落ちてくる。

 そこで――。


「はああああっ!!」


 気迫の一閃。

 剣が美しい軌跡を描き、ワイバーンの鱗を袈裟に切り裂く。

 たちまち赤い血が噴きだし、巨体がのたうった。

 そこへすかさず、フェイルノートが追撃を入れる。


「グアアアアアッ!!」


 矢がワイバーンの眉間に刺さり、巨体が崩れた。

 よし、まずは一体!

 こうして三体のうち一体が倒されたことで、残りの二体も動揺して動きが鈍る。


「ヘンリー、ミーシャ! 左側に集中! 何とか落として!」

「ああ!」

「オッケー!」


 ミーシャさんの魔法とヘンリーさんの弓が同時に放たれた。

 炎の球がワイバーンの頭に直撃し、視界を塞ぐ。

 そしてその間に、ワイバーンの翼を矢が貫いた。

 大きくバランスを崩したところで、続けてもう一本の矢が放たれる。


「シャアアアアッ!!」


 仲間の危機を察して、もう一頭のワイバーンが動いた。

 攻撃を辞めさせるべく、こちらに向かって一気に急降下を仕掛けてくる。


「フェイルノート!」


 すかさず、突進してくるワイバーンに向かってバリスタが放たれた。

 巨大な矢はワイバーンの翼の付け根を貫き、その勢いを殺す。


「助かった!!」


 すかさず、アリシアさんがワイバーンの胴を刺した。

 そして返す刃で、落ちて来た二頭目に切りかかる。

 ――ズバッ!!

 アリシアさんを食い殺そうと迫ったワイバーンの顎。

 それを彼女は下から一気に貫いた。

 刃が脳天を抜けて、たちまちワイバーンの眼から光が失われる。


「すごい……!」

「アリシアは超一流の剣士だからな。俺たちの自慢だよ」


 俺の護衛をしていたガンズさんが、腕組みをしながら得意げに頷いた。

 そりゃ、これだけ強かったら自慢の一つや二つはしたくなるだろう。

 加えてパーティ全体の連携も見事なものだ。

 フェイルノートの存在についても、上手く組み入れてくれていたし。

 この暁の剣というパーティは、思った以上にレベルが高いようだ。


「助かった! みんなのおかげで生き残ることが出来たよ!」

「こっちもそのゴーレムには助けられました。素晴らしいものです」

「いやいや、こいつは時代遅れの旧型機だよ」

「そうなのですか? 既に十分な性能だと思いますが……」


 何だか呆れたような眼をするアリシアさん。

 別に、フェイルノートってそんなに凄いゴーレムではないんだけどな。

 少なくともサリエル大樹海で運用していくには力不足だろう。

 あの大魔境じゃ、ワイバーンは中堅ぐらいに過ぎないはずだし。


「ううむ、伯爵閣下はひょっとして本当に開拓を成功させるつもりでヴィクトル様を送り込もうとしているのか……。だが、いくらゴーレムがいるからとはいえ単身で向かわせるというのはあまりにも不自然……」


 アリシアさんは何やらぶつぶつと言って、考え込み始めてしまった。

 まあいいや、とにかく今日のところは休もう。

 あいにくまだ大樹海への道のりはかなり残っているし。

 こうして研究中のメイドゴーレムを抱えて小屋の方へと向かったところで、とんでもない叫びが耳を貫く。


「な、なんだ!?」

「この声は、まさか……!!」


 すぐさま武器を抜き、臨戦態勢に突入する冒険者さんたち。

 緊迫感と不気味な静寂が場に満ちる。

 そして――。


「ドラゴン!!!!」


 空を覆うような影がその姿を現すのだった。

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