5.
放課後。
図書室を利用する生徒はほぼ皆無であるが、史紀は図書室にいる。
放課後に各務が来ることは今のところ無く、史紀は黙々と目の前に積みあがった仕事を片付けていた。
しかし。
史紀は激しく胸騒ぎがしていた。
どうして、こんなに落ち着かないのかしら。
最悪なことに、史紀の胸騒ぎは当たっていたことをとんでもない形で知らしめられた。
バタン!とまるで図書室の扉を壊すかのような勢いで入ってきたのは、血まみれで瀕死となった各務であった。
「か、各務さん!」
「……史紀、せんせ。……あたしは、命を狙われて……ナイフ持ったメガネのOLみたいな女に……。でも、大丈夫です。アイツが……ここには気付かないはず……。」
なんのことだかさっぱりわからない。
……でも。
見た感じ、各務の命はもうわずかだ。
史紀は自らに血が付くのも厭わずに各務を抱き寄せ、耳元に囁く。
「貴女を失いたくないわ。どうして今まで素直になれなかったのかしら。……愛してる。……
史紀の告白に、瑞葵は力を振り絞って微笑み、応える。
「あたしは、ずっと、貴女が好きでしたよ……。
水葵からの答えで、真珠の瞳には涙が溢れていた。
「……そうだわ。その手があったじゃない。」
真珠は懐から本を取り出し詠唱する。
「貴女を、各務瑞葵の全てをここに。永遠にとどめて。……
本が開き、無数の泡が真珠と瑞葵を包み込む。
「……これが……真珠せんせの異能力……ですね……。それなら……。」
消え入りそうな声、でもはっきりと水葵は詠唱する。
「
瑞葵の詠唱が済むと、瑞葵の瞳に、まるで波のない水面に映っているかのように真珠の姿が映し出される。
「……これで準備はできました。……『
真珠は訳が分からなかった。
どうして、瑞葵が私の異能力の詠唱を。
だが、瑞葵の詠唱にも本は答え、またも無数の泡が真珠と瑞葵の二人を包み込む。
「……あたしの異能力は、相手の異能力をコピーすること……名前は、『水面に映る写し身』。……今、あたしは真珠せんせを……永遠にこの本に……。」
真珠はもはや意識が朦朧としていた。
ただの頭痛ではない。
……自分丸ごと消えてしまいそう。
ただの記憶ではなく、人間一人を本に封印し保存しようとしているのだ。
その代償は、自分の寿命すべて、ということなのだろう。
私自身の全てが、持っていかれる。
……でも。
朦朧としながらも真珠はあることに気が付いていた。
目の前の瑞葵は、私の愛する瑞葵は、私の異能力をコピーした上で、私を本に保存しようとしている。
……つまり。
「……ふふ。貴女、頭がいいのね。……これで永遠に、二人一緒だわ。」
「……どうやら、うまくいきそう、ですね。あたしも真珠せんせも、ずっとこの本の中で、二人で……。」
「……嬉しい。……愛してるわ。瑞葵。」
「私もです……真珠。」
真珠と瑞葵は、溶けあうかのように抱き合い、甘い口づけを交わしながら、泡となって本の中へ吸い込まれていった。
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