◆15 ふたつのお守り
「いつもならもうそろそろ目を覚ましてもいいころなんだけど、でも、神様を助けるためにがんばってるのかもしれないし……ジミーくん、どう思う?」
「なにか、あったの……かも?」
「な、なにかって?」
「なにか、は、なにか……?」
あさひに聞かれてジミーはこまったような顔をする。あさひももう一度
「でも、もし何かあったとしたらどうすればいいのかな……
「ムリヤリ起こしちゃう、よくないと、思う……」
そのとき、外がさわがしくなってきた。あさひは静かに
「ぼくたちで、なんとかみんなを守らなきゃ。二人で力を合わせて……」
あさひは自分をはげますように言うが、なにができるのかも、なにをしたらいいのかも全然わからなかった。
「ふたり、力、合わせる……ふたり……」
ジミーはあさひの言葉を聞いて、ぶつぶつとつぶやきながら部屋の中を歩き回る。それからぺたんと
「ジミーくん、
「ふたり、ふたり……。ふたりで……ふたりで……!」
あさひはびっくりして声をかけるが、ジミーは答えずにひとりでつぶやきながら、ぼりぼりと頭をかく。それからはっと顔を上げてあさひを見た。
「あさひ。おれ、思い出した……」
「思い出したって、なにを?」
ジミーは、すっと立ちあがる。
「おれが、ここにいるのも、【ふたり】だったから……【
そして、あさひに向かってにっこりと笑った。
「だから、みんなと会えて、こうやって、いっしょにいられた」
「ジミーくん、どうしちゃったんだよ?」
ジミーは大きく息を
「
どこかから風が
「ジミーくん……!」
「ここは、おれが守ってるから、だいじょうぶ。あさひは、ネルの国に行って、みんなを助けてあげてほしい」
言ってジミーは、首にかけていたお守りを外し、あさひへと差し出す。
「この【ふ】の守りはおれに力をわけてくれたから、どれだけ元どおりかはわからないけど、ネルの国に行けば、ちゃんとあさひを守ってくれるはず」
「でも、ジミーくんは? 力を使っちゃったら、どうなるんだ?」
ジミーは答えない。ただ、あさひを安心させるように笑顔を見せる。
「おれ、あさひたちと会えてよかった。話せてよかった。友だちに、なれてよかった。……ありがと」
「ジミーくん!」
ジミーの体から黒い
「ジミーくん――うわっ!」
そのとき、どんっ! と大きな音がして部屋がゆれた。
「カギがかかってる! あやしいぞ!」
「さっさとこわして! こわしてちょうだい!」
「
ドアをたたく音は、どんどんひどくなる。それが何度も何度もくり返されたあと、ついにカギがこわれて何人もの大人が部屋に入ってきた。あさひの足の力がぬける。声も出せず、
(……あれ?)
なぐられると思って両手で頭をかかえたが、
「
「クツがあるんだから、きっとどこかにいるはずよ!」
誰かのかけ声とともに、大人たちはあっという間にいなくなる。それと入れかわるようにして、スーツをよれよれにした久保田さんが現れた。久保田さんはおどろいた顔で部屋をしばらく見ていたが、ほっと大きく息をつくと、また急いで部屋を出ていった。
(ジミーくんが助けてくれたんだ)
ジミーの力は確かに、みんなを守ってくれているのだ。そのチャンスをムダにするわけにはいかなかった。
「【ふ】の守りさん、お願いします。ぼくをネルの国に、みんなのところに連れて行ってください!」
「ここが……ネルの国?」
『へい、ここはネルでまちがいございやせん』
「わっ――」
大きな声を上げそうになり、あわてて口をぎゅっと
『へぇ、おどろかせちまったみたいですんません。ぼっちゃんは、オキの国の人ですな?』
声は、にぎりしめた手の中から聞こえている。おそるおそる開くと、お守りにある目のような
「は、はい! そうです! あなたは、【ふ】の守りさん?」
『そうでさぁ! あっしが【ふ】の守りってもんで。ようやく【
【ふ】の守りはうれしそうに、緑色にぴかぴかと光りながら答えた。あさひがこれまでのことを思い出しながら、なんとか説明すると、【ふ】の守りはまたうれしそうに言った。
『あいつ、力をわけてやったらオキまで飛んでっちまったんですね。こりゃあ、びっくりだ! あっしも負けずにお役に立たないといけねぇや』
「【ふ】の守りさん、みんながどこに行ったか知りませんか?」
『知ってますぜ!』
「ほんとですか?」
『ええ。さっき、ここを通っていきましたからね!』
「ええっ!?」
『あっしはここから動けなかったから、見てるだけしかできやせんでしたが、まちがいございやせん! そりゃもう、びゅーんと風のようにかけぬけていきました』
「じゃあ、今なら追いつけるかもしれない!」
希望が
「
『ぼっちゃん、【
「ど、どうしよう」
『落ち着いて。まずはやつらが過ぎるのを待ちやしょうぜ』
あさひはうなずき、じっと機会を待つ。黒フードの列は目の前まで来ている。木の後ろにかくれていても、いつ見つかるかと思うと気持ちが休まらなかった。
「――うわっ!?」
その時、首のうしろに何かがさわり、あさひは思わず声をあげてしまう。おそるおそる手で確かめると、落ちてきた葉っぱが引っかかっただけだった。
「いま
ほっとできたのも少しだけ、目の前が真っ暗になる。木のうしろで体を小さくして音を立てないようにがんばるが、見つかるのは時間の問題だろう。
『ぼっちゃん、あっしにまかせてくだせぇ。これからはお話しすることは出来なくなりますが、あっしは、ぼっちゃんのおそばにいますからね!』
【ふ】の守りがささやくように言う。ジミーと別れてここへきたあさひには、お守りが何をしようとしているのか、すぐにわかった。
『
緑色の光が、ふわりとあさひを包みこむ。
『ぼっちゃん、ここは、ぼっちゃんにとって【夢の中】で、何でもアリの場所だ。それを
着物を着たおじさんが
「ここか!」
そのすぐあと、あさひは
「お前、何をさぼっている! こっちへ来い!」
「えっ――!?」
おどろいているあさひに、黒いフードにお面をつけた【悪夢の使徒】は言う。
「ほら、それを拾って列にもどれ!」
地面には黒い木の枝が落ちていた。とにかく言われるまま手をのばすと、そこであさひはいつの間にか自分も黒いフードを着ていることに気づく。【ふ】の守りの力で、見た目が変わっているのだ。そのことがわかり、少しほっとしたあさひは枝を拾った。思っていたよりも軽い。ただ、さわると少し気分が悪くなった。
「早くしろ!」
せかされて、あわてて人の列に加わる。【使徒】は「ちゃんと運べよ!」と言い残し、どこかへと行ってしまった。動く黒フードの列についていきながら、あさひは仲間たちのことを思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます