◆14 お面と黒フード

「おやおや、どこへ向かわれるおつもりですか? 【所持者しょじしゃ】のみなさま」

 自分がしりもちをついていることに気づき、大輝だいきはあわてて立ち上がる。啓斗けいととあおばも、同じように体をさすりながら起き上がるところだった。目の前には黒いカベ。――見上げると、の高い黒フードの人物だった。やっぱり模様もようえがかれたお面をつけている。

「もしかして、もうゴールだと思いましたか? でも残念でしたね。ボスキャラというのは、ゴールの近くにいるものでしょう?」

 背の高い【悪夢あくむ使徒しと】のうしろから、小さな黒フードの人物があらわれる。小さいといっても大輝たちよりはずっと背が高いのだが、大輝がぶつかった方の【使徒】がアスリートのように体が大きいため、小さく見えるのだ。小さな【使徒】のつけているお面には、今まで見た中で一番こまかくてカラフルな模様もようえがかれていた。

「さすが急ごしらえとはいえ、ネルの神を名乗る者が作ったお守りの力ですね。あちらに居た者たちはしばらくまともに動けそうもありません」

 高い男の声にも、低い女の声にも聞こえる声だ。やわらかくて丁寧ていねいなしゃべりかたが、かえって不気味ぶきみだった。体の大きな【使徒】は、なにもしゃべらず、家来けらいのように小さな【使徒】のそばにいる。自分で言ったように、この人物が【悪夢の使徒】のボスなのだろう。

「こ、これでもくらえ!」

 こわい気持ちをぐっとガマンし、大きな声を出しながら大輝が手のひらをかざす。するとバチバチバチバチッ! という音があちこちでして、あたりにもくもくとけむりが広がり始めた。

「これは……ハナビ、ですぞ?」

「ああ、少し前にやったからイメージしやすかったんだ」

「それならボクもきっとできますぞ!」

「よし、ぼくもだ!」

 あおばと啓斗も加わると、花火の数はどんどん増え、真っ白なけむりで何も見えなくなる。

「あおば、この中でも道はわかるか?」

 大輝が小声で聞くと、あおばは力強くうなずく。煙の中にうかび上がっているみたいに、道しるべの草はかがやいて見えた。あおばは手をのばし、大輝と啓斗の手をぎゅっとにぎる。

「いち、に、さん、で走りますぞ。いち、に――さん!」

 三人とも足に力をこめ、地面をった。ぐん、と体が前に進み、けむりがうしろへと流れていく。――でも。

 どんっと体が強くゆれ、はじき飛ばされる。強く背中せなかを打って、少しのあいだ息ができなくなった。けむりをかき分けながら現れたのは、また黒い色。カベのように大きな体だった。

「生ぬるい……じつに生ぬるいですね」

 そのとなりに立った【使徒】は笑いながら、大輝たちを見下みおろしている。花火のけむりはだんだんと晴れていく。

「せっかく作るなら、爆弾ばくだんにしたらどうですか? ああ、見たことも作ったこともないから、あなたがたには無理でしょうか。じゃあ大きなナイフならわたしたち悪いボスキャラをたおせるかもしれませんね。できるなら、ですが」

 その間に、大きな体の【使徒】につかまってしまう。その力はとても強く、大輝たちがいくら暴れてもびくともしなかった。

かれの力をふりほどけますか? 無理だと思うでしょう? あなたがたオキの住人の創造そうぞうする能力が脅威きょういとなるのは確かです。でもお守りの力により、こうやってネルの国でも意識いしきたもてるということは、あなたがたにとってここが現実なのと同じです。上手く行くかわからない、だれかをきずつけてしまったらどうしよう……そういう心が邪魔じゃまをします。なぜお守りたちが強い意志も持てない、か弱いお子様たちを選んだのか理解に苦しみますね」

 それから【使徒】のボスはポケットから小さなすずを出し、ちりんちりんと鳴らした。

「あのロープを持ってきなさい」

 するとどこからか、黒いフードの集団が現れた。みんな映画えいがに出てくるゾンビみたいに、ふらふらと大輝たちに近づいてくる。前の方にいる何人かは手に黒い色をしたロープを持っていた。

「やめろ! こっちくんな!」

「あっちへ行け!」

「行って、ほしいですぞ……」

 強い風をかせたり、地面に大きなあなをあけたり、たくさんの動物たちを走らせたり……三人とも思いつく限りのことをした。でも実際に起こったのはテレビのどっきり番組みたいな出来事で、めげずに向かってくる黒フードの集団を止めることは出来なかった。

「あの人たち……この前、うちに来てた人たちだ」

 大きなぬいぐるみみたいなゾウをしのけながら歩いてくる二人を見て、啓斗がぽつりと言う。かぶっていた黒フードがぬげて、顔がはっきりと見えるようになったのだ。

「か――」

 別の人を見て、大輝の口も開いたまま止まる。

「母ちゃん……?」

「えっ!?」

「ダイキくん、ほんとですぞ?」

 そのつぶやきを聞いて、啓斗とあおばがおどろきの声をあげた。でも、まちがいない。ロープを持ち、ぼんやりとした目でやってくるのは、大輝の母だった。大輝はショックで動けなくなる。もしかしたらネルのどこかには、かっちゃんや、長岡ながおか先生や――大輝の知っているひとたちがもっといて、これからもっともっと増えていくのかもしれない。

「ダイキくん!」

 あおばに呼ばれ、ぼんやりしていた大輝ははっと顔を上げる。大輝の知っている母とは別人みたいな女の人の顔が、すぐ近くにあった。

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