◆12 みんなで
それから
「【ひ】の守り……たのむよ」
大輝は
『ダイキ、どうした?』
【ひ】の守りがおどろいたように声をあげる。大輝はなんとか気持ちを落ち着かせながら言った。
「母ちゃんから学校以外、外出禁止って言われて……友だちも、大人も、全員じゃないけど、変なんだ。お守りや、【
『なんだって? 【
「わかんないんだ……けいととあおばは来なかった?」
『いや、来てねぇな。だが、もし来たら
「あるにはあるんだけど、子どもだと使うのがむずかしかったりするんだ」
『そうか……とにかく気をつけろよ。お前が【所持者】だってことは知られねぇようにしねーと』
「うん、わかってる」
大輝がそう言ったとたん、あたりがざわざわとし始めた。草のすきまからのぞいてみる。近くを歩いていた人たちが何かをささやき合い、足早に通りすぎて行く。遊んでいた子どもたちは大人たちに連れられ、みんなあわてて家の中へと入っていった。それからしばらくして、ざっ、ざっと、何かが近づいてくる音が聞こえ始める。
『ダイキ、一度オキに帰れ。次こっちに来るときは、なんとかして向こうで話をつけて、みんなで来るんだ。いいな?』
【ひ】の守りは急にそう言って、やわらかく光った。すると目の前の景色が一瞬ずれ、それから体がうかび上がるような感じが生まれる。目がさめようとしているのだ。
「ちょ、ちょっと待って――」
のばした手はなにもつかめない。大輝が次に見たのは、自分の部屋の
「はぁ……はぁ……」
『……みんな……してたかな……!
きっと母がまた動画を見ているのだ。いつもより大きな音にしているのか、なにを言っているのかも聞こえてくる。
『……アムちゃんねる……お守りをさがそうゲーム……!』
トイレにちょうど入ろうとしたとき、その言葉が聞こえた。ドアを閉め、大輝はハッとする。そういえば大輝が初めて【ひ】の守りとネルの国で出会ったあの日、かっちゃんは
「アムちゃんねる……」
気持ちが少し落ち着くまでトイレの中にいて、それから出来るだけ静かに外へと出る。もうリビングには
◇
「ねぇ、大輝」
朝食のとき、母がやけにやさしい声で話しかけてくる。
「な……なに?」
「アムちゃんねるって知ってる?」
「なんだい、それ?」
大輝は父の顔をおそるおそる見た。父は母を見て笑顔をうかべている。ここのところよく二人はケンカしていたから、
「今話題のムーチューバーなの。ほら、とってもかわいいでしょ? 大輝も最近勉強がんばってるみたいだし、たまには息ぬきに楽しむのもいいんじゃないかと思って」
母のスマホの画面には、黒いフードに白いお面をつけたキャラクターが
「そうなんだ、えらいぞ大輝。良かったな」
「お父さんも見てみたら? ほら、仕事の合間にでも」
「
母ににらまれ、父はそう言って笑う。たぶん、父はまだ
「うん、ありがと。帰ってきたら見てみるよ。オレ、学校行くしたくしなきゃ」
そう言って部屋に
「行ってきます!」
自然に、あやしまれないように……大輝は自分にそう言い聞かせながら、家を出た。そして、走り出す。
誰かが追いかけてきているかもしれないと思うとこわくて、
「なんだろ……?」
遠くに学校が見えてきたころ、いつもとはちがう
校門の前に生徒たちが集まっていた。そのそばには先生が二人立っている。ひとりは大輝の
もう迷ってはいられなかった。大輝は学校に
「なんで、急にこんな――」
そうつぶやいてから、大輝は首をふった。きっと急にじゃない。大輝が【ひ】の守りを見つけたときにも、【
「絶対に、負けるもんか!」
大輝は走る足に力をこめる。それなら、こっちが先に神様を助け出せばいいだけだ。
でも、仲間たちは啓斗の家に集まれるだろうか。もし
自転車がないし、ランドセルが重くて通いなれた公園がすごく遠くに感じる。それでもあきらめずに進むうちに、だんだんこんもりとした緑が見えてきた。いつもの待ち合わせ場所には、ぼさぼさ頭の男子が立っていた。
「ジミー!」
「あ、だいき……」
立ち止まり、ぜえぜえと息をする大輝を、ジミーは心配そうに見る。
「だいき、水……」
ジミーはそう言って大輝を水飲み場まで連れて行った。
「また、けいとの家、いく?」
大輝は水を飲んで少し落ち着いてからうなずいた。
「うん。会えるかわかんないけど、行かなきゃ」
言ってまた走り出す。ジミーもそのあとについていった。来たときと反対側の出入り口から出て、
「大輝! ジミー!」
そちらを見ると、走ってきているのは啓斗だった。
「けいと!」
「あ……あさひと、あおば、も、いる……」
まずは啓斗が、少ししてからあさひとあおばが大輝たちの前までやってくる。
「みんなも、なにかあったのか?」
「とにかくまず入って。久保田さんは今日出かけてるんだ」
啓斗はそう言って門を開け、まわりを少し見てからみんなへ手まねきをする。庭をぬけ、全員がドアを通ると、ドアを静かに
「みんな
そして自分も
「
「なるほどですぞ……!」
「でも、大した時間かせぎにはならないかもしれない」
「けいとも、なにかあったのか?」
大輝がもう一度聞くと、啓斗はうなずいた。
「昨日、父さんの知り合いって人たちが来たんだよ。父さんは仕事で海外に行っているし、久保田さんもそう言ったんだけど、アムちゃんねるとかいうムーチューバーをもっと世の中に広めたいってしつこくて」
「アムちゃんねるだって!?」
「それで早めに
「オレの友だちも、母ちゃんも、アムちゃんねるを見ておかしくなっちゃったみたいなんだ……」
啓斗はうなずく。
「【ひ】の守りから大輝の話も聞いたよ。僕がネルに行ったら、あおばもちょうどいたから、学校に行くふりをして、まずは僕たちだけでも会おうと決めたんだ」
「ボクもお守りさんとか、ショジシャの話をしてる人を見ましたぞ。だからヘンだと思ったですぞ!」
みんなのまわりでも、おかしなことが次々と起きている。大輝は、かっちゃんや母のことを思い出して
「とにかく、会えてよかったよ。神様や、みんなを助けられるのはオレたちだけだから、がんばろうぜ!」
大輝は言って、手を前に出した。
「そうだ、きっと今ならまだ間に合う」
啓斗がその上に手を置くと、あさひ、あおば、最後にジミーが手を重ねていく。
「ボクも、がんばりますぞ!」
「ぼくはジミーくんといっしょに、みんなを守るから」
「おれも、がんばる……!」
そしてみんなで大きくうなずき合い、ネルへの旅がまた始まる。
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