◆11 近づく異変
それからしばらく、じめじめといやな天気が続いた。エアコンをつけていても
「向こうに行った方がぐっすりねむれるんだけどなー」
あのあと
「神様がピンチなんだから、宿題くらいナシにしてくれないかなー」
一階にあるトイレに行き、ぶつぶつとつぶやきながら二階へもどろうとしたとき、リビングから声が聞こえてきた。そっとのぞくと、暗い中でスマホが光っている。父か母が動画を見ているようだ。気づかれると何か言われそうだと思った大輝は、足音をできるだけ立てないようにしながら、そっと自分の部屋へもどった。
◇
「いってきまーす」
朝になり、大輝は家を出る。そのとたん、大きなあくびが出た。お守りを身に着けて寝ていたときは、あれだけの夢を見ているにしてはよく
「早くあさってになんねーかなぁ」
うっかり寝てしまわないため、お守りはしばらくランドセルの中の小さなポケットに入っている。今日は朝からとても暑くて、なるべく日かげになるところを歩いていると学校がだんだんと近づいてくる。そこでまた大輝は、おなじみの
「かっちゃん!」
この前のこともあり、大きな声で
「かっちゃん! 信号、赤だぞ!」
車がスピードを出しながら走っている大通りに向かって、かっちゃんはふらふらと歩いていく。何度大声で
「かっちゃんってば!」
大輝は走ってかっちゃんに近づき、
「――わぁっ!?」
大輝はびっくりし、思わず手を放してうしろに下がる。
「お守り、さがさなきゃ……」
かっちゃんはそう言って大輝の頭からつま先までをじろりと見たあと、またふらふらとどこかへ歩いていってしまった。大輝はしばらくぽかんとしていたが、やがて足が自然と動き、
「あれ? ヤマケン休み? キリも?」
そしてたどりついた学校。いつもよりもさみしい教室を見て、隣の席のハルさんに聞く。学級委員のハルさんは読んでいた本から顔を上げて首をかしげた。真面目なヤマケンが休むのもめずらしいし、キリは勉強はきらいだけど学校は大好きなので、こんなにぎりぎりまで来ないというのは変だった。
やがてチャイムが鳴り始める。でも、先生もなかなかやってこない。大輝の中に、不安が気持ちがどんどん広がっていった。
学校が終わり、家へと帰ってすぐに、大輝はいつもの公園へと向かう。遊んでいる子どもたちの中に、知っている顔がいないかさがす。
「だいき?」
とつぜん、うしろから声が聞こえ、大輝はふり返った。そのぼさぼさ頭を見てホッとする。
「ジミー! 良かった、会えて!」
「今日、あつまる日、だった……?」
「いや、ちがうけどさ、もしかしたら、だれかいないかなって」
「おれ、いた……」
「そうだな! ちょっとけいとの家、行ってみないか? ここから近いし」
「うん、いって、みる……」
そうして二人は歩き出す。いつもよりも長く感じる道を、
「ああ、こんにちは。もうしわけありません、ただいま取りこみ中でして」
「トリコミチュウ? ……いそがしいってこと?」
「はい。ぼっちゃんもまだ帰っておられませんし、お
「わかった、また来ます」
ぷつっと音がして通話がとぎれる。大輝はふり返り、ジミーに言った。
「今ダメだって。またあさってになったら来ようぜ!」
「うん、あさって……」
それからまた公園にもどり、ジミーと別れる。だんだんと日が落ちていく中、大輝は自転車をこぎながら考えていた。――啓斗の家には急に行っちゃったんだからしかたがない。久保田さんの声はいつものようにやさしかった。でも、教室におくれてきた先生はすごくイライラしていた。別にいつもにこにこしているタイプじゃないけれど、今まではあんなふうに、ちょっとうるさくした子をすごい目でにらみつけたり、大声でどなったりしたことはない。
「ただいま」
ドアを開けて、小さく言う。ドアを
「大輝、あんたしょっちゅうどこに出かけてるの? 勉強もしないで」
「だ、だからー、友だちの家で勉強してるって言ったじゃん! 家の人がこの前、電話に出てくれただろ!」
「考えてみたら、
「そんなことしてねーよ! なんだよ悪いことって!」
この前はネルの国から帰ってきたあと、みんなで少しだけ勉強もした。そのときに大輝のケータイに母から
「まさかあんた、【
「は? な……にそれ」
おどろきはさらにおそろしさへと変わり、
「そういうのがいるらしいのよ。変なお守りを持ってるらしいの。見つけて
「捕まえるって……なんで」
「捕まえなきゃいけないからよ!」
母はそう
「あんたがその所持者ってのじゃなくても、そういう
「なんで――!」
なにか言わなきゃと思っても、体がふるえてなにも言えなかった。母はリビングへと
『お守り、さがさなきゃ……』
かっちゃんもそう言っていた。急に休む友だち、イライラする大人たち――全部、つながっているのだ。ネルの国の神様が
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