◆10 深層への道
空はどこまでも広く、真っ平な地面がどこまでも続くだけの、何もない場所。
「なんだ、ここは――」
『【
『ここからは、わらわの力をつかうべきところなのよ。どうか、ネルの神のこと、お願いね』
「ほんと? すげー!」
「どんな力なんですぞ……?」
「まるで、お別れみたいな言い方をするんだな」
『お別れではないのよ。今までみたいにお話はできなくなるけど、ちゃんとわらわはおそばで守っているからね。指示はほかのお守りにまかせるから、ちゃんとけいとくんも言うことを聞いてほしいのよ』
そして、啓斗のTシャツのすきまから黄色い光がもれ始めた。お守りが光っているのだ。あわてて取り出して見てみると、お守りの【い】の文字が
『
お守りの光はうすく広がり、啓斗、大輝、あおばを包みこんでいく。
『これで、これからけいとくんたちが【
『短い間だったけど、楽しかったのよ。けいとくん、じゃあね』
黄色の光はさらにうすくなり、見えなくなる。啓斗はなにも言えないまま、しばらくぼんやりと立っていた。大輝もあおばも、さっきまでお守りの力でもり上がっていたのがウソのようにだまっている。自分たちも今となっては
『あまり時間がありません。あなたがたがオキへと帰る前に、ある
【み】の守りが静かに言う。その声に引っぱられるように、三人ともゆっくりと歩き出した。絵のように変わらない景色が続き、前に進んでいるのかどうかすらわからない。ふり返ると、遠くにもやもやとゆれる街が見えた。だからオキから迷いこんだ人は、街が見える方へと引き返すのだろう。
しばらくがんばって歩き、不安になってお守りにたずねる。そんなことを何度かくりかえしたあと――急に目の前が明るくなった。
「うわ――」
大輝が思わず大きな声を上げかけ、【み】の守りに言われていたことを思い出して、あわてて手で口をふさぐ。啓斗もあおばも口をあけたまま、同じ方向を見ていた。
さっきまで何もなかったはずの自分たちのいる場所は、いつのまにか
「すごいですぞ……」
「すごいな!」
あおばが小声で言うと、大輝もひそひそと返し、啓斗はだまって小さくうなずく。
『さぁ、あの坂を下りて。それから、
三人は言われたとおり、大きな坂をくだり始めた。だんだんと不思議な
坂道が終わって町に入ったとき、近くを歩いていた女の人が、こっちを見た。三人ともびっくりして動けなくなる。そのまま何も言わずにいると、女の人は不思議そうに首をかしげてから、またどこかへと歩いて行った。
「どっかに、かくれられる場所はありますぞ?」
あおばが言うが、どこも道はまっすぐで、家のまわりもすっきりとしている。
「やべっ! 目が覚めちゃうよ!」
大輝はあわてて二人の手をつかみ、少し先にある草むらを目指して走った。
今度は急に体が重く感じた。
「おかえり!」
「おか、えり……」
あさひとジミーの声が聞こえた。体を起こした三人の顔を見て、少し心配そうな顔をする。
「あおば、
「あ――兄上、だいじょうぶ、ですぞ」
「ちゃんとあの草の中に入れたかな?」
大輝が聞くと、あさひに飲み物をわたされ、ひと息ついたあおばは不安そうに首をかしげた。
「大丈夫だ」
かわりに答えたのは、啓斗だった。
「
「おおっ! すげーな、けいと!」
「ケイトくん、ナイスですぞ!」
「【い】の守りがせっかく力を使ってくれたんだ。僕もできるだけがんばらないと」
そう言ってから啓斗は、首からさげたお守りを手に持ってながめる。
「【い】の守りは、ほったらかしにされてて、さみしかったと言っていた。僕がもっと早くネルの国に行ってあげてれば、もう少し長く話せたのに」
「だけどさ、それは……」
大輝が何か言おうとするが、うまく言葉が見つからない。
「それは、しょうがないと思う!」
するとあさひがそう言って続けた。くわしいことはわからなかったが、とにかく、はげまそうと考える。
「啓斗くんも
「そうだぞ、けいと! おかしもジュースもウマいし!」
「クッションもふかふかですぞ!」
「うん、おいしくて、ふかふか……」
啓斗はそれを聞いて思わず笑った。
「そうだな。とにかくがんばってネルの神様を助けないと。お守りたちが一番に願ってるのも、それだから」
「そうですぞ! ボクもがんばりますぞ!」
「ぼくも、ネルの国にはいけないけど、手伝えることはなんでもするよ。ジミーくんもいっしょにがんばろう!」
「うん、がんばる……」
「そうだ! みんなでがんばろうぜ! おー!」
大輝がにぎった手を上げると、みんなも同じようにする。部屋の空気がふわっとやわらかく、明るくなった気がした。
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