◆6 大きな家のおもてなし

 その次の日の放課後も、仲間たちはいつもの公園に集合した。今日も暑かったが、日陰ひかげに入れば少しはすずしいし、水遊びができる場所もあるから人は結構いる。

「あおばとジミー、昨日ぜんぜん会えなかったけど、湖のとこ、わかったか?」

 大輝だいきが言うと、あおばは不思議そうに首をかしげた。

「ぼくもしばらく待ってましたぞ! 湖の遠くのまんなかに、大きな木が見えるとこですぞ?」

「おかしいな、オレも待ってたんだけど。ネルの国は勝手にビルが生えたり、時々道がめちゃくちゃになったりするからかな?」

「でもお守りさんが、反対側には行きにくいから、待ち合わせるならここだと思うって言ってたですぞ!」

 二人の話を聞きながら少し考えていたあさひが、そこで口を開く。

「大輝くん、昨日は何時にた?」

「昨日は宿題わすれててさ、あわててやってから寝たから十時くらいかなぁ」

「ぼくは昨日、八時に寝ましたぞ! 健康的ですぞ!」

「おれ、ネルの国、いけなかった、かも……?」

 みんなで顔を見合わせる。それから長い息をはいた。

「そっかー、そうだよなー、ネルの国でもこっちの待ち合わせといっしょかー」

「お守りがあればすぐ寝られるみたいだけど、タイミング合わせないといけないね」

「いっしょに、寝られるとこ、あればいい……かも」

 ジミーがぽつりと言うと、あおばが手をたたく。

「ジミーくんの言うとおりですぞ! それができれば、起きたあとのジョウホウコウカンもしやすいですぞ!」

「だけど、そんないい場所ってある? オレんち来てもらっても絶対ジャマが入るし」

「ぼくたちの家もむずかしいなぁ」

「おれも、ダメ……」

「そうだ! この公園なら木陰こかげもあるし、たまに昼寝ひるねしてる人もいるじゃん? どうかな?」

 大輝の提案に、あさひは首をひねった。

「みんなが寝てるときはぼくが見張るけど、あやしいことはあやしいし、天気にもよるよね」

「あの屋根があるベンチのとこなんかいいじゃん!」

「あそこはだいたい人がいるですぞ。この前は、ねころんでたおじさんにボールが当たったのを見ましたぞ……」

「うぬぬ……!」

「あ……」

 みんなが考えこんでいると、ジミーがとつぜん顔を上げる。

「ジミー、何か思い出したのか?」

「ぼっちゃん……」

「ぼっちゃんがどうしたって?」

 すると近くの木がガサガサと動き、そこから見たことのある男子が葉っぱをかみの毛に引っかけたままで出てくる。

「だからきみがぼっちゃんとぶな! ぼくには、茄子川啓斗なすがわけいとって名前があるんだ!」

 それを聞き、ジミーはこくんと首をかしげた。

「ごめん、なすがわけいとくん……」

 啓斗はしばらく迷ったあと、少しくやしそうに言う。

「……け、啓斗だけでもいい」

「そっちこそ、こそこそして何なんだよ! 仲間になりたいなら言えよ!」

「そんなわけないだろ! ただ、なんというか――」

 それから言葉をさがしてなやみ始める。しびれを切らした大輝が口をひらくよりも早く、あさひがたずねた。

「アドバイス、みたいな感じ?」

「まぁ、それに近いというか……つまり、こまっているようだから」

「こまってるって、なにが?」

 大輝が聞くと、啓斗は気まずそうに答える。

「さっき話してただろ。その、別にずっと聞いてたわけじゃなく、たまたま聞こえてしまって、話しかけるタイミングを見失ってただけなんだけど……みんなでいっしょにねむれる場所がほしいとか」

「あー、そうだけど――それが?」

「けいとくんの家、広いから、みんなで、ねれそう……」

 話をさえぎってぽつりと言うジミー。

「ジミーくん、さすがにそれは迷惑めいわくじゃないかな?」

「……それだよ」

 あさひのフォローと、啓斗の声がかぶった。

「めいわく、ごめん……」

「そっちじゃない! その――僕の部屋もそれなりに広いし、久保田さんはたのめばジャマしないでおいてくれるから、少しきみたちに貸してやってもいいかなって」

「ほ、本当にいいのか?」

「だからいいって言ってるだろ。お守りのことに関わる気なんかないけど、ちょっとくらい手伝ってやらないとかわいそうだと思ってね」

「やった! ありがとう! 助かったー! けいと、お前いいやつだな!」

「けいとくん、いい子……」

「啓斗くん、ありがとう!」

「ケイトくん、ありがとうございます、ですぞ!」

 口々にお礼を言われて啓斗は少し赤くなるが、そっぽを向いてごまかした。

「じゃあ、早速みんなで行ってみようぜ!」

「えっ、今から?」

「ごめん、やっぱり急にだと迷惑めいわくかな?」

「ま、まあ……そんなに来たいっていうなら別に僕はかまわないけど」

 啓斗があさひに返事をしたときにはすでに、大輝たちは歩き出している。

「けいと、何やってんだ? 早くいこうぜ!」

「なんでもうそんなに先にいるんだ、僕の家だぞ!」

「このまえ、いったから、ばしょ、知ってる……」

「おっきな家だったですぞ! 中も気になるんですぞ!」

「啓斗くん、ごめん……」

 そうやってわいわいとやりながら、ついには啓斗の家までたどりつく。啓斗自身から招待されたのだから、この前とは気持ちが全くちがっていた。リラックスした気分で見た庭は広く、い緑の中にうかぶ白い家がとてもきれいだ。

「すごいなぁ」

 あさひが思わずつぶやくと、大輝もうなずく。

「すげーよな! 公園にも近いから助かるしさ」

「ケイトくんさまさま、ですぞ!」

「けいとくん、さままま……」

「まぁ、別にそんなに大したことじゃないというか」

「ぼっちゃん、楽しそうですなぁ」

 突然とつぜんかかった声。そこにはいつの間に家から出てきたのか、久保田くぼたさんが立っていた。今日も背筋せすじをぴんとのばし、この暑い中でも高そうなスーツをきっちり着ている。その周りをTシャツの子どもたちが囲んでいるというのは、なかなかおかしな光景だった。

「く、久保田さん。これは別に楽しいとかじゃなく……そう、単なるボランティアであって」

「そうですか、それは素晴らしい! とにかくみなさん、中へとお入りください。冷たいジュースを用意しましょう」

 啓斗の言葉が本当かどうかはどうでもいいようで、久保田さんはにこにこしながらみんなを家の中へと招いた。みんな冷たいジュースという言葉に大喜びし、「おじゃましまーす!」と声をそろえる。それから、ぶつぶつ言っている啓斗の背中せなかしながら急いで家の中へと入った。

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