◆5 追いかけっこと大きな家

 次の日、公園にみんなが集まると、大輝はさっそくネルの国で起こったことを話し始めた。

「そういえばさ、仲間、やっぱいるみたいだぜ? 昨日……今朝かな? 夢の中で会ったんだ!」

「本当ですぞ? ダイキくん、すごいですぞ!」

「って言っても、声かけたらびっくりしたみたいで、ぜんぜん話せなかったんだけどな」

「あんまりすごくなくなったですぞ」

「なんだよ、いるってことが分かっただけでもいいだろー」

「確かにそうだよね。やっぱり、ぼくたちみたいな子どもだった?」

 あさひに聞かれ、大輝は少し考える。

「うん、たぶん小学生だと思う。オレは知らない男子だったけど……イヤだ! とか言ってたな。お守りとか神様とかくだらないって」

「どんどんすごくなくなっていきますぞ」

「そんなこと言われてもオレのせいじゃないじゃんかー!」

「そうだよ、あおば。ほかにも【所持者しょじしゃ】がいるってわかっただけじゃなく、もうネルの国で会えてるんだし」

「これはシツゲン、もうしわけないですぞ」

「でも、そんなにいやがってるなら、ぼくたちの仲間になってくれるかな……?」

「確かになぁ。でも、ネルの国の一大事だし、がんばって説得せっとくするしかないな!」

「ほかに何か覚えてることは?」

「えっと、はたぶんオレと同じくらいで、オレたちよりはかみが長かったな。あと、なんかおしゃれなパジャマだった」

「うーん、それだけじゃ知ってる子かどうかわからないなぁ」

「とにかく、まずはさがして、それからジジョウを話してみるしかないですぞ!」

「あの……」

 三人が話に夢中むちゅうになっているところに、ジミーがもじもじとしながら声をかけてくる。

「どうした? ジミー。おしっこもれそうなのか?」

「ちがう……。えっと、さっきから、こっち見てる人、いる……」

「マジで? どこ?」

「あそこ……」

 ジミーが一本の大きな木を指さす。そのとたん、木のかげからだれかが飛び出し、こちらとは反対側に走っていった。

「あっ! あいつだ!」

 言ってすぐに走り出した大輝を、みんなあわてて追いかける。

「ネルの国で会ったっていう?」

 少しうしろを走るあさひに聞かれて大輝はうなずく。ちょっと見えただけだったが、まちがいないと思った。

「まって、ほしいですぞ……」

「ふたりとも、はや、い……」

 足の速い大輝にあさひはなんとかついてきていたが、あおばとジミーはずっとうしろの方にいる。ふたりが追いつくのを待っているうちに、さっきの子を見失ってしまった。

「どこ行ったんだ……?」

 通ったことのない細い道に入ったから、自分たちのいる場所もよくわからなくなる。すると、ジミーが首をかしげて、ぽつりと言った。

「あそこの道、まがった、かも……?」

 とにかくジミーが指をさした道を進んでみる。すると、前に来たことのある住宅街じゅうたくがいへと出た。ジミーは、きょろきょろとあたりを見回してから声をあげる。

「あ、あの、家……」

 白いへいに囲まれた、大きな家だった。黒い門の中でだれかが動いている。あの男子だ。

「あっ、ちょっと待って! オレたちの話を――」

 大輝が声をかけるとげるように家の中へと入っていく。四人が家の前に着いたときには、もうだれもいなくなっていた。

「にげられちゃったですぞ……」

「ぼくも少し顔を見たけど、たぶん知らない子だと思う」

「よし、とにかくショウメントッパだ!」

「え? 大輝くん、ちょっと待って――」

 止めようとしたあさひに構わず、大輝はインターフォンのボタンをす。

『……はい。どちら様でしょうか?』

 しばらくして聞こえてきたのは、やさしそうなおじさんの声。

「お、オレたちは……」

 でも返事を何も用意していなかったし、緊張きんちょうした大輝はうまくしゃべれなくなってしまう。

「ともだち……」

 するとジミーが横からそんなことを言い出した。少し静かになったあと、声が返ってくる。

『そうですか。――少々お待ちを』

 そうして通話が切れると、みんな大きく息をはいた。

「ジミーすごいぞ! たよりになる!」

「えへへ……ダイキが、なんにも、かんがえてない、から……」

「そ――それは悪かったよ」

「けど、友だちってウソついちゃったですぞ」

「ぼくたち名前も知らないのに、信じてもらえたのかな……?」

 そうやってこそこそ話していると、ドアが開く音がした。中から出てきたのは、高そうなスーツを着た白いかみとひげのおじいさんだ。おじいさんは大きな門のところまでやってくると、こちらをじっと見た。

「こんにちは、わたくしは久保田くぼたと申します。ぼっちゃんもすぐお部屋からもどってくるでしょうから、中でお待ちになりますか?」

 久保田さんは声もやさしくて、いい人そうではあったけれど、顔は少しこわい。みんながまた緊張きんちょうし始めると、家の方からドタドタと大きな音がして、あの男子が出てきた。

「久保田さん! なに勝手に家に入れようとしてるんだ!」

「ぼっちゃんのお友だちだそうですよ」

「ウソに決まってるだろ!」

「そうでしょうか? ぼっちゃんも素直すなおじゃないですから。お友だちが遊びに来るなんて初めてのことで、わたくしもうれしいです」

「なんでぼくより、この人たちの言うことを信じるんだよ!」

「ぼっちゃん、さっきから、仲間になりたそうに見てた……」

「きみがぼっちゃんとかぶな! と――とにかく、そんなつもりじゃないし、僕はなんの関係もない!」

 ジミーに大きな声でそう言うと、ぼっちゃんと呼ばれた男子は足をふみならしながら、また家の中へと入っていった。

「ははは。――もうわけありませんが、今日のところはお引き取りください」

「でも神――」

 つい本当のことを言いそうになった大輝のうでをあおばが無言で引っ張り、あさひが代わりに前へと出る。

「あの、ぼくたち、手伝ってもらいたいことがあるんです」

「ぼっちゃんにですか?」

「はい」

「うん、もらい、たい……!」

 あさひとジミーに見つめられ、久保田さんはにっこりと笑う。

「わかりました。お伝えしておきます。みなさんもまた遊びにいらしてください。暑いですから気をつけて、水分補給すいぶんほきゅうも大事です。こちらをどうぞ」

 そしてみんなに小さなペットボトルに入ったスポーツドリンクをわたす。それから静かにおじぎをし、家の中へともどっていった。

 ドアがぱたりとしまると、みんな大きくため息をつく。

「あー! キンチョーしたー!」

「ダイキくんがインターフォンしたときは、どうなるかと思いましたぞ」

「でも、なんとか、なっちゃった……」

「ジミーくんもさすがですぞ! やるときはやるんですぞ!」

「オレだってがんばっただろー!」

「また来ていいって言われたけど……いいのかな? ぼっちゃんって子とは話せてないし」

「クボタさんって人がそう言ったから大丈夫だいじょうぶだろ、きっと」

 暑い中走り回ったから、やけにつかれてしまった。もらったスポーツドリンクを飲みながら、みんなで公園の方角へともどり始める。

「そういえば【ひ】の守りに言われたんだけどさ、ネルの国での待ち合わせ場所を決めた方がいいんだって」

「おぉー! いよいよみんなで動き出すんですぞ!」

「オレは湖のとこがいいなって思うんだけど、行ったことあるか?」

「でっかい木が見えるとこですぞ!」

「そうそう!」

「しってる……きが、する」

「じゃあ、あとでそこに集まろうぜ!」

「湖の、大きな木が見えるところだね。一応メモしとく!」

 あさひは小さなノートに書き終わると、公園にある大きな時計を見た。

「あ、ぼくたち、今日はこのへんで……お母さんと約束があって」

「ジミーくん、ダイキくん、またよろしくですぞ!」

「うん、バイバイ……」

「そっか、じゃあな!」

 あさひたちと別れたあと、大輝も時計を見る。

「まだ時間あるな。ジミーはヒマだったら、オレたちだけでももうちょっと――あれ?」

 言いながらふり返ると、ジミーはもう、どこにもいない。

「もー! ジミーはすぐ帰っちゃうな!」

 大輝はそう言って、もう一口スポーツドリンクを飲んだ。

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