◆3 公園と仲間たち

 次の日は土曜日だった。授業のある日でもないのに、めずらしく自分から早起きした大輝だいきを見て母は不思議そうにしていたが、友だちと遊びに行くとごまかして、さっさと家を出る。

「まずは仲間をさがしに行けばいいんだよな」

 今日は青空だった。キャップをかぶり自転車にまたがると、かがやく太陽の下を進む。Tシャツの上からむねのあたりをさわると、そこには首からさげたお守りがしっかりとある。

「とりあえず、公園に行ってみよう」

 今日は土曜日だし、広い公園だからいろんな人たちが遊びに来ているはずだ。大輝はペダルをふむ足に力をこめる。小さな商店街を通って住宅街じゅうたくがいに。それから大通りへと出て、しばらく進むと目的の公園が見えて来た。公園の中には広場のほか、図書館やテニスコートなどいろいろあって、たくさんの人でにぎわっていた。大輝は自転車をとめ、公園内をとりあえず歩いてみる。

(お守り、見えるようにしたほうがいいかな?)

 もし向こうも仲間をさがしているなら、そのほうが気づきやすいかもしれない。首にはかけたまま、お守りを服の中から外へと出し、ゆっくり歩いてみた。でも、みんな大輝やお守りのことを気にもしない。大輝のほうからジロジロと人の顔を見ていたら、イヤそうな顔をされてしまった。

「そんなカンタンにいくわけないかぁ」

 これなら本当に友だちと遊びに行けば良かったかもしれない。そんなことを考えながら遊歩道ゆうほどうを通り、アスレチック広場をすぎたあたりでだれかに見られている気がした。顔を向けると目が合う。の高い男子だった。年はたぶん、大輝と同じくらい。後ろにはぼさぼさ頭の男子が立っていて、二人の間には、メガネをかけた小さな男子がいた。もしかしたら、どっちかの弟なのかもしれない。

 少し様子を見ていたが、みんなもじもじして、こっちを見ながらひそひそと話し合うものの、なかなか動こうとしない。大輝は思いきって自分から声をかけてみることにした。

「えっと……こんちは」

 なんて言っていいのかわからず、とりあえずあいさつをすると、の高い男子が、おずおずと言った。

「こ、こんにちは。もしかして、そのお守りって……」

「ああ、ええっと……ネルの国のお守りだ」

 それを聞いて、三人の表情がぱっと明るくなった。

「ボクとジミーくんのと、おんなじお守りですぞ!」

 メガネの男子が、ポケットからお守りを取り出した。ジミーとばれたぼさぼさ頭の男子も、首にさげていたお守りを見せる。目のような模様もようの下には、それぞれ【い】、【ふ】と書いてあった。

「やったな、あおば! 【所持者しょじしゃ】が見つかったぞ!」

「やりましたぞ、兄上!」

「ウン、よかった……」

 さすがにもり上がる三人にまじってハイタッチすることはできなかったが、大輝も一気に見つかった仲間にほっとして、自然と笑顔になる。

「あっ、ごめん。自己紹介じこしょうかいがまだだった。ぼくは鷹宮たかみやあさひ、こっちは弟のあおばです」

「オレは、富士野大輝ふじのだいき東小ひがししょうの五年だ」

「ぼくは南小みなみしょうの三年生ですぞ!兄上は五年生なんですぞ!」

「おれ、ジミー……」

 ジミーはそれだけを言ってペコリとおじぎする。大輝もつられて頭を下げた。

「ええと、ジミーくんは、あんまり自分のことを話したくないみたいで……無理に聞くのも悪いかなって」

「だから、とりあえずボクが名前を決めたんですぞ! 読んでた本に出てきたキャラの名前ですぞ!」

「ジミー、おれ、すき。いいなまえ……」

 ジミーはそう言いながら、照れくさそうにもじもじしている。

「とにかく、これで仲間がそろったってことなんだよな? オレたちはこれからどうすればいいんだ?」

「そのことなんだけど……あおば、お守りはなんて言ってたんだっけ?」

「なかまを見つけたら、まずはみんなでネルの国にいかないといけないらしいですぞ!」

 あおばが答えると、ジミーもうなずく。

「みんな、向こうだと、バラバラ、だから……」

 そこで大輝はあることに気づき、あさひにたずねた。

「そういや、あさひのお守りは?」

「ぼくは【所持者】じゃないんだ。あおばの話を聞いて、手伝ってるだけというか」

「へぇ、よくこんな話、信じる気になったなぁ」

 自分で体験している大輝ですら、まだ信じられないところがある。あさひは首のうしろをかきながら言った。

「ぼくも最初は信じられなかったんだけど……あおばはウソついたりしないし、どっちかというとこういう不思議な話は、いつもならあおばのほうが信じないから」

「兄上が信じてくれたから、こうやってジミーくんとダイキくんにも出会えましたぞ!」

「なるほどー。いいな、兄弟仲良くて。オレ一人っ子だからさ」

「おれも、ひとり、の子……」

 大輝の言葉にうなずき、ジミーがぽつりと言った。それから急に、遠くの方を見る。

「あ……」

「ジミー、どうしたんだ?」

「仲間、もうひとりくらい、いる、かも……?」

「お守りが教えてくれたのか?」

「そう、かも……?」

「えー、どっちなんだよ?」

「でもジミーくんはスゴいんですぞ! ダイキくんのことも、ジミーくんが見つけてくれたんですぞ!」

「そうそう。ここで待ってたら会えそうってジミーくんが」

 自信がないのか、自分の言葉に首をかしげているジミーを、あおばとあさひがはげます。

「そうなんだ、すごいなジミー!」

「でも大輝くんだって、一人でこの公園まで来たよね」

「そういえば、そっか。ジミー、そのもう一人っていうのはどこにいるんだ?」

「えっと……あっちのほう、かな……?」

 ジミーはまた首をかしげながら公園の外を指差す。みんなは顔を見合わせてうなずき、とりあえず行ってみることにした。

「もう一人の仲間って、どんな人なんだろ」

 静かな住宅街じゅうたくがいを四人は歩く。公園ではしゃぐ子どもたちの声がうしろに遠ざかり、小さくなっていく。

「やっぱり、ぼくたちみたいな子どもなのかも」

「なんでそう思うんだ? 今度は大人かもしれないじゃんか」

 大輝に聞かれ、あさひは少し考えてから答える。

「……もしジミーくんが大人だったら、ぼくもあおばも、いっしょににここまで来なかったと思う。逆にぼくたちが大人にこういう話をしても、信じてもらえないんじゃないかな?」

「兄上の言うとおりですぞ! 子ども同士だからこそ、こうやって仲良くなれたと思うんですぞ!」

「そっかぁ、たしかに。けど、子どもだけで神様助けられるのかなぁ」

「それは……お守りの力で、きっとダイジョウブなんですぞ!」

 そんなことを話していると、先頭を歩いていたジミーが立ち止まった。

「ジミーどうした? 見つかったのか?」

「うーん、こっちの、気がした、んだけど……」

 ジミーはきょろきょろとあたりを見回す。このあたりは大きな家が多く、高くて長いへいが見えるばかりだ。

「家の中にいたら、声かけられないね」

「ピンポン鳴らしてみるか?」

 大輝がそう言うと、ジミーはこまった顔をする。

「でも、おれ、どの家か、わからない……」

「ジミーくん、このへんなのは、まちがいないってことなんですぞ?」

「そう、かも……?」

「ジミーはたよりになるのかならないのかわかんないなぁ」

 ただ、手がかりになりそうなものが他にないのも確かだった。それからしばらくうろうろと歩き回ってみるが、時間ばかりがすぎていく。

「ハラ減った……」

 大輝がつぶやくと、あおばがカバンから水筒すいとうを出し、中身をごくごくと飲んでから答える。

「それに、暑いですぞ……」

 日は高くなり、もう昼だった。このあたりは公園の中とはちがって休めそうな場所もない。

「……あの、ぼくたち、そろそろ帰ろうと思う」

「ええ? 兄上、まだなかまさがし、始まったばかりですぞ?」

「でも今日、お母さんが早く帰ってくるから、いっしょにご飯食べようって言ってただろ?」

「そうだったですぞ! やっぱり帰るですぞ!」

「そういうわけなんで、明日また集まってさがさない? 今度は昼ごはん食べたあと……一時くらいとか」

「ああ、オレはいいぜ」

「おれも、だいじょうぶ……」

「じゃあ、さっきの公園で、また! あおば、行こう」

「リョウカイですぞ! ダイキくんとジミーくんもまた明日ですぞ!」

「オッケー! またな!」

「また、あした、ね……」

 大輝とジミーは、手をつないで帰っていく兄弟に手をふる。

「ジミー、せっかく仲間になれたんだし、オレたちだけでもどっか遊びに……あれ?」

 それから大輝がふり返ると、いつの間に帰ってしまったのか、ジミーのすがたはもうなかった。

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