第2話 人工植物
チームは全部で92人だ。25人は船を運航する作業員、10人は大学生、残りがそれぞれを専門とする研究者だ。世界を救えと言われたにしては人数はあまりにも少ない。
何より船が小さい!臭い、狭い、暗いの三点拍子だ。誰も、期待なんかしてないのは丸見えで、誰もまだ愚痴を言っていないのが流石と感心する。
そろそろ酒も恋しい頃だ。残業とかそんな次元の話じゃない。
そんな船は、インドネシアについた。久しぶりの陸地であり、飲食店であり、娯楽施設であり、もう天国にしか見えなかった。
「リーダー、ここでどこかよることは許されますか?」
いつも真面目な加藤という解剖学をやっている者だ。この数週間仕事もなく、暇な時間を僕達の雑用に過ごしてくれた。とても許してやりたい気持ちがあったが、解剖学は今からが正念場だ。
「事件に関係のある昨日通達した役職以外の者はここで休憩をすることを許可する。インドネシア観光だ!」大声でみんなにそう伝えた。大きな歓声が聞こえ、ちりぢりに解散していった。
加藤は膝から崩れた。
15人と共に現場に到着した。そこには確かに立派な木がたくさん生えていた。根は剥き出しになっていて、その下には人間の手や足と思えるものが埋まっている。凄惨な状況だ。
遺体は根が体を貫通して引きずり出せない状況らしく、1本は切り倒して、一人の遺体が出せている。許可が下りたので、解剖班に送られた。
切り倒した木は植物学者に渡され、現場にいるのは、僕と佐藤、戸塚だ。
目撃者がいるらしく事情聴取をすることになった。
双方英語はできるので、言語の壁はなかった。
彼はガールフレンドが木によって亡くなってしまった人であった。手をつないでいるときになったらしく、木の成長に巻き込まれてもいる。だが、運良く絡まっただけだったので、体をつきぬけなかったので助かったのだ。
「さっきも話しましたが、私だって、何が何だかわからないんですよ、あれから落ち着く暇もないし、ずっと人から質問攻めなんですよ。頼むから、帰してください。」
帰してやりたい気持ちも山々だが、再発するのが怖い。
「具体的にどのように木が伸びてきましたか?」
「知りません、、、ただ、地中からという感じでなく、、、彼女からという感じでした。」
「人から?」
全く想像はしなかった。ただそうだと違和感に説明がつく。
根っこが丸見えであるはずのない植物であること。
ピンポイントで人が犠牲になっていること。
そして、その人以外は死者が出ていないこと。
「彼女だけがやっていて、あなたがやっていないこととかがあったら話してください。」
「そんなものはたくさんありますが、、、彼女だけシャワーを浴びて、化粧をして、違う朝食、昼食を食べただけですが。」
「ありがとうございます。」
聞きたいことはたくさんあったが、なるべく早く帰らせてあげたい。
しばらく周辺を探して一段落したので、帰ろうと思ったその矢先
ブーブー
携帯がなった。加藤からだ。少し嫌な予感がしたが、出ることにした。
「三笠さん!すごいことを見つけました!船に戻ってきてください!」
「おお、分かったすぐ向かう」
シンプルに喜べないが、朗報だ。
流石に佐藤と戸塚をホテルへ帰らせて
船へと向かった。
解剖室に入るとそこには木が完全に取り除かれた死体が有った。
「何が伝えたいことだ?」
「見てください、お腹のところが集中して傷ついてますよね?」
たしかにそうだ、腕や頭はほぼ無傷だが、腹部の損傷がすごい。
「そしてなんと、根と幹の境界線がちょうど腹部にある。」
「体の中で発芽したということか、、、」
「察しが良いですね、おそらくそうだと思います。」
「そしてもう一つ、これが切り取られた木なのですが」
そこには体液で大変なことになっている塊があった。
「成分を解析したところ、血液以外に多くの消化液が検出されました。ただ、一日は経っているのに木は溶けていません。最初は木が特別なのだと思って色々調べたのですが、消化液が酸性から中性に変わっていました。」
うーん、わからん、ただ少しわかってきたのは食べ物が原因な気がしてくる。場所は屋台、辻褄は合う。
「食べ物によって起こった可能性はとても高いと思います。ただ、大量の酸性を中性に変えるアルカリ性のものを体内に入れる方法も、胃の中で発芽させる方法だってわかりません。」
「もともとこの成長スピードといい、おかしいのは元からだ。ただなるべく科学的に解明しないと、犯人がいるとした時捕まえられない。頑張ろう」
そして僕達は2週間ぶりのベットで睡眠を取った。
朝、引き続き死体の検証をしていたところ、そこにいる全員の携帯がなった。
内容は
インドネシア各地で木に埋もれた人が発見されていて、その中に我ら調査チームの研究員も三人含まれていることとなった。
急な訃報に、誰も動くことができなかった。関わりが少なく、大きな悲しみがないとはいえ同じ屋根の下研究した人だ。
信じられない。何かの嘘だ。そう思ったが、電話越しに感じ取れる震えがその想いを否定した。
「今はこの事件を解いて、弔う事が今僕達に出来る一番のことだ。」
思ってもないことが口から漏れた。ただ立場上言っとかなければならない。
「そうですね、頑張りましょう。」
やっと一人の助手が口を開き時間が進み始めた。
「にしてもおかしいですね、以前の事件はその場であったのに、一度宿に帰る時間があるなんて」
流石法医学者の加藤だ、すぐに推理を始めることができる。
「ただ厄介なことになったな、時間差ができるようになると、どんどん情報がめちゃくちゃになってしまう。」
「つまり犯人が新たな実験に成功したってことじゃないですか?」
一瞬悲報にも聞こえるが、つまりは超越的な何かが人を殺しているわけではなく、実験段階の不完全な事件であり、解くことができるとも読める。
いや、読むしかない。
「おそらくですが次は、大量、確実、安価を目指してくると思います。これは、ただの悪意ではなくれっきとしたテロです。」
「それまでには止めよう」
とは言ったものの何か分かるだろうか。
前の事情聴取した男のガールフレンドが食べた物はバクソというものらしい。
そして研究員三人が食べたのはルンダンという食べ物らしい。
画像を見るとわかるが、片方は肉団子、片方は一見何かわからない。つまりそこに、鍵がある。
次も加工のしやすいものでくる。
店の店主はどちらも失踪したらしく、犯人と思われる人は見つかっていない。
直接会いに行くしかない。3日連続でやっているんだ。今日もやるはずである。
加藤、その助手、僕で屋台へ秘密裏に行くことにした。
つくとそこはとてもいい匂いがした。ずっと働き詰めの三人からするととてもゆっくり食べながら話したいところだ、だが、食欲はわかない。まだ死にたくはない。
色々見て回った。
ルンダン、バクソの屋台をやっているとこは店主の写真を撮り、警察に監視させるよう送った。
どちらも頼み、中の成分を確認したが、全く怪しくなく普通の食べ物であった。
歩き回っていると、見覚えのある写真があった。
ハンバーグ屋?
おかしい、場違いだ。何も言わずとも三人はその店のハンバーグを頼んだ。大きめの水の入ったカップとともに渡されたハンバーグは、美味しそうであった。しかし、メニューには辛口から激辛の選択肢しかなかった。怪しすぎる。
切り込みを入れた。すると中から少しの白い粉末が落ちてきた。
「水酸化ナトリウムだ」
何故か僕の思ってない事が口から漏れていた。白い粉をみただけで決めつけたやばいやつと思われてしまう。
「本当ですか!?一応検査もします。」
といって粉末を水に入れPhを測った。
Ph12、強アルカリだ。
つまりは、辛くして水を飲ませ体の中で効率よく強アルカリにするつもりだったのだ。
そこからというのは、あっという間であった。
警察は店主を捕まえた。正しくは店主を乗っ取っているやつだった。
あっさり自首したらしい。
熱帯雨林の伐採に怒りを覚え、人を気にすれば良いと10年前から一人で研究をしていたらしい。
三日前の午前1時急に方法を思いつき、実行に移したらしい。店主を人目につかないとこで木に変えて。
ただ、技術について語ることはほとんどなく、家も燃やしてしまっているらしい。
ただ一つ言ったことは
「雑草は抜いても次の日には生えてるよな。結局人間も植物も一緒さ。」
上手いことを言ったような言ってないような。
僕達で出来るだけハンバーグを解析したところ、ハンバーグ自体が種であることが分かった。肉が種のでんぷんに当たるところとなり、胚だけが入っていた。これを噛みちぎっていたら、木になることはなかった。ただアルカリによりなくなってはいたが。
そしてもう一つわかったことは、白い粉は水酸化ナトリウムだった。
木は大半が伐採され遺族の元へ死体が運ばれたが、
まだ木が生きていることから、伐採を反対した遺族も少なくなく、今もまだ生えてるらしい。
とても胸糞の悪い話である。
とりあえず事件は終わった。
ホテルでゆっくりすることができた。一生このままでも良いと思った。
携帯電話が鳴っていることに気がついた。
ショックで詳しい内容は聞こえなかった。
分かったことは、世界で3件似た不可解な事件が起こっていることである。
ほとんどの研究者は死者が出たこともあり、日本へ帰国した。佐藤や戸塚、加藤は帰らず、僕は問答無用で帰れなかった。
その代わりだが、とても高性能な船と凄腕の研究者が送られてくることになった。
とは言っても、3日の休養が取れた。
もう事件なんてまっぴらごめんだ。
ノアの調査録 とおあさ @shuiwa
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