第一話 罪の羽

誰かの目覚ましで目を覚ました。

今日で調査12日目だ。

また椅子の上で寝てしまった。お風呂に入った記憶もあまりない。他の人もそのようで、部屋にかろうじて椅子に座れている人がたくさんいる。


「おい、起きろ佐藤仕事だぞ」

「もうむりだあ、帰りたいよ」

「何寝ぼけたこといってんだ、先行ってるぞ」

勉強の為に僕についてきた、佐藤と戸塚だ。

流石に、娯楽の一切ない2週間は流石に二人共精神的に来ているようだ。


今僕達は、あの物体を採取するために、壊す方法を考えている。

近づくことのできるチャンスも多くないので、電ノコで傷つける以外を模索中だ。

今は溶解することを考えている。他の研究者とともに、塊を残しながら溶かす方法を思いつき、模型でそれを試しているときだった。

モニタリングルームから佐藤の叫び声が聞こえてきた。


「文字が変わったぞ!」


聞いた途端にほとんど全員が作業を止め、部屋へ走った。

モニターに写っていたのは代わり映えのないただの箱だったが、日本語固定モニターでようやく違うところに気がついた。


ー変化を求めるものへ、羽を渡す。

 衝撃に備えろ


たった2文であったが、全員の背筋が凍ったのが分かった。急に殺害予告をされたようなものだったからだ。独断で判断するしかないと悟り

「準備でき次第、横浜へ帰還する。」

何も分からない、太刀打ちできそうにもない、

できることはこれだけだ。

帰るまでは研究を中断し、周辺、黒い箱の偵察をすることにした。

ただ、心配とは裏腹に夜が来た。

交代制をとって、観察は続けようという総意になったので、僕は3時まで起きていた。


翌朝、昨日聞いたばかりの佐藤の叫び声で起きた。

僕は寝坊をしたらしい、佐藤は完全に目が覚めきって、正装をしている。


「どうした、そんなに血相を変えて」

「どうもこうもないですよ、先生へ電話です」

「誰から」

「それが、警察庁からなんですよ」


その瞬間、大きな後悔をした。僕は知りすぎた。おそらく日本政府はもみ消したいのだと思い、恐る恐る電話を出た。


話を聞くに、そうではないらしい。

インドネシアで殺人事件が起き、どうもそれを解析してほしいらしいのだ。

「なんでまた、僕達が行くんですか」

「口では全く説明がいかない事が起こったからだ」

「探偵にでも頼めばいいじゃないですか」

「そんな次元の話じゃないんだ。超常現象だよ、超常現象。心当たりがないか?」

そう言われると心当たりしかない、そんなものは昨日夜中まで嫌ほど見せられた。

「誰もこの事件に関わろうとするやつなんていないんだ。今ちょうど近いだろ、行ってくれないか」

「そこまで言われると断れませんよ」


航路はインドネシアへむかった。

その間、現場の写真・情報をもらい、専門家たちと話し合った。

内容はこうだ

・場所はジャカルタの屋台が立ち並ぶ場所

・老若男女問わず無差別に亡くなっていること

・合わせて17人の犠牲であること

そして何より不可解なのは

・昨日までなかったはずの木が急に生えていて、捜査             

を困難にしていること

である。

そんな簡単には木は生えることはできないし、ましてやそこに死体があるなんて、当たり前だが事例は聞いたことがない。


写真をもとにその場にいる研究員で、話し合いをした。

木の種類はフィルカタであることが分かった、成長が早く木材として注目されている植物である。とは言っても成長に10年は最低でもかかる。

そして気になるのは、亡くなったことによって生えてきたか、それとも生えてきたことによって亡くなったかだ。

聴取では、一瞬虫が湧いたと思うほどの速さだったという。定かかは知らないが相当早いことがわかる。


僕達がおかしくなったのか、なぞなぞのようで、久しぶりに皆でワイワイ事件を考えられた。

少しずつ現場に近づきながら。

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