これぐらいしか娯楽がない……というわけではないはず

無意識にひまりにセクハラまがいの行動をしてしまったあと、ひまりの母親である深雪さんから「今日はウチでご飯にしましょう」という連絡をもらったため俺はひまりの家に足を運んだ。


「ただいまー」

「こうくんおかえりなさい。ご飯もうちょっとで準備できるから待っててね。今日はお鍋よ」

「深雪さんありがとう、なにか手伝えることあるかな?」

「そうねぇ、ならこのお鍋にいれるお野菜を切ってくれるかしか?」

「了解」

ひまりの両親、父親の慎也さんと母親の深雪さんは父さんが死んでから俺を実の息子のように育ててくれた恩人だ。彩瀬家が自分の実家だと思って欲しいとのことで俺は「おじゃまします」ではなく「ただいま」と言うようになったし、敬語もやめた。慎也さんも深雪さんもおかえりと迎えてくれるため俺はこの家が帰る場所の一つであると感じている。


鍋だったこともあり準備はすぐ終わり、4人で鍋を囲む。

「そういえばこうくん、明日こうくんのお家を掃除するから見られたくないものとか仕舞っておいてね。あとは大きいゴミとかはまとめておいてくれると助かるかな。」

「了解。帰ったらやっておくよ、いつもありがとう深雪さん」

「いいのよ、息子の部屋を掃除するのは母親の役目だもの。いつも通り日中はお出かけしてもらえばいいからね、お洋服でも買いに行ったらどうかしら。確か入学前に買ったきりよね?」

 確かに入学前にいくつか新調したきり、夏物なんかもそろそろ出てたりするだろうしいいタイミングかもしれない。それならひまりが来てくれるとありがたいな、俺は服のセンスに自信はないんだ。

「確かに、新しい服は欲しいし見てこようかな。ひまりは明日予定空いてたりするか?できれば見繕ってほしいんだが。」

「んぐっ、ほへんあひたは…」

「すまん、食べてるとこ話しかけて。飲み込んでからでいい」

 お肉を口いっぱいに頬張っていたひまりが急に話を振られててんぱっていた。何言ってるか全くわからない。

「(ごくっ)ごめん明日は友だちと遊ぶ予定があって……」

「そうか……なら仕方ないな、俺一人で行くことにするよ」

「ふふ……相変わらず仲良しでお母さん嬉しいわ。どう、こうくんお小遣いいる?」

「い、いえ。小遣いは叔父さんから貰ってるから大丈夫!」

 完全に母親として接していてくれるのか度々お小遣いを渡そうとしてくれるのだけど、流石にそこまでは申し訳ない。叔父さんから生活費に加えて小遣いをもらっているとはいえ、高校生になったことだし、バイトでも始めるべきか……。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 日は変わって次の日、俺は一人でショッピングモールへと足を運んでいた。

「……GW舐めてたなこりゃ……」

あまりの人の多さに辟易する、連休舐めてた。

「あれ、君は才賀君じゃないか?」

「……?」

呆然としていても仕方がないので歩き出そうとしていたところで声を掛けられたが見覚えがない。

「ま、まさか顔も覚えられてなかったとは思わなかった……。才賀浩輔さいがこうすけ君だよね?同じクラスの小林龍太郎こばやしりゅうたろうだよ、よろしくね」

「よ、よろしく。すまんな小林君、クラスメイトの顔全然覚えてなくて……。にしてもよく俺の顔なんて覚えてたな?」


中性的な顔立ちに爽やかな笑顔をした彼は小林龍太郎君というらしい。

よくよく考えると1ヶ月間ほぼひまりとしか話していない気がする、クラスメイトの顔すらわからないはずだ。


「クラスメイト全員と話してみたいと思っててね、本当はもっと早く声を掛けたかったんだけど彩瀬さんとずっと一緒にいるだろ?だからタイミングを逃し続けちゃって……今日は才賀君一人かな?もし用事とかなかったら一緒に遊ばないか?」


小林君からしてもそういう認識だったらしい、これは学校生活に支障がでるレベルかもしれない。


「願ってもない、今日は服を買いにきたんだけど自信がなくてな。頼めるなら見繕ってもらってもいいか?服買ったあと遊ぼうぜ。にしても、まさかクラスメイトにナンパされるとは思わなかったわ」

「ナンパって(笑)僕もセンスに自信はないんだけどね……一緒に見てみようか。午前中に服をみてお昼食べながら午後なにするか決めちゃおう」

「了解、よろしく。小林君って呼べばいいかな?」

「龍太郎でいいよ。こっちも浩輔君って読んで良いかい?」

「もちろん、よろしく龍太郎」

その後俺達は服を見て回り、モール内のゲーセンで遊び夕方には解散となった。


龍太郎と別れたあと俺はモール内に画材屋があったことを思い出しマップをにらめっこしていた。

「才賀君……?」

呼ばれた気がして振り向くと、キレイな黒髪と青みがかった瞳を持つ少女、夜倉杏よくらあんずがそこにいた。

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