二人だけの撮影会

私、彩瀬ひまりは自分の迂闊な発言を後悔しつつあった。

「ごめん、もうちょっと腰を反らして、あともうちょっとひねってもらっていい?」

「う、うん」

資料のためだしと思って気軽にモデルになろうかと言っちゃったけど、やってみるとすごく恥ずかしい。


正直私にも邪な思いがなかったとは言えない、二人きりだし、こーくんがしてたポーズは結構えっちなポーズだったから誘惑?できるかなって思って。

私はこーくんが、才賀浩輔が好きだ。小さい頃からずっと好きだった。多分こーくんも憎からず思ってくれている……はず。そうだよね?


でも、私から思いを告げることはできない、したくない。私の罪がそれを許さない。

だからこーくんから来てくれるといいなと願いつつ、こーくんのそばにいる。

こーくんから来てもらうためにもたまには今日みたいに前のめりになってみたり……。

今日の撮影会、最初は結構いい感じだと思ったんだ。こーくんもドギマギして顔を赤くしてたし……。

でも、数枚写真を撮ったころにはすっかり真剣な顔になっていた。

「そうか、背骨がこのラインで骨盤がこの角度で……」

私をいろんな角度で眺めつつ、そうつぶやくこーくん。

写真を数枚撮ったあとはスケッチに移ったみたいで、ずーーーーっと見つめられてる。


正直ここまでじっくり見られると思ってなかった私はドキドキが止まらなかった。

心臓の音がこーくんまで聴こえるんじゃないかってぐらい早くて、大きくて。

―しんじゃいそう……。


このままでは身体が持たないから、私はこーくんの顔をぼーっとみつめて思案にふける。

……こーくん、本当に真剣な顔してるなぁ。

たぶん、こーくんは絵を描くことが呼吸と一緒で、描いていないと生きていけない人になってしまったんだと思う。

私の記憶にある限り、中学までは絵は趣味の一つで楽しそうに描いていた気がする。

それが変わったのはやっぱりあの事故で、その時から何かを埋めるように絵に没頭し始めた。

3年もそんなことをしているうちに、こーくんは絵を描くことで息を吸うように進化しちゃったんだろうな。

となるとやっぱりこーくんがこうなった原因は私にあって、私の罪の一つというこt……

「ひまり、ちょっと触るぞ」

いつの間にか思考の海に潜ってしまっていた私の耳にそんな声が届く。


「ひゃんっ」

!?!?!?!?!?!?!?!!!??!?!?!?

背中から腰にかけて何かを確かめるように撫でられた。腰なんて撫でるどころじゃなく触られた。

「な、なななななな、なにするのこーくん!」

「あぁ、背骨と骨盤が気になって」

「き、きき気になってじゃなくて!!!びっくりしすぎて腰抜けるかと思ったよ!!!!セクハラ通り越してるからね!?」

「!!!!」

そう言われて顔を真っ赤にするこーくん。全く意識してなかったんだね……。

「もう……私以外に絶対やっちゃだめだからね?いや、私もできればたまにで……」

何言ってるんだ私。たまにもだめでしょ。

「すまん……」

しゅんとするこーくん、仕方ない、その顔に免じて許してあげようじゃないかっ。(こーくんかわいい)

ま、まぁ?願ってもないことではあるし?あるのかな???


「わ、私一旦うちに帰るからっ。ご飯作りにまた来るけど!それまで反省しておくこと!」

とにかくクールダウンする時間が欲しかった私はそう言い捨てると大急ぎで家へと退散するのだった。

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