(このマークって……)

入学式の翌日、HRにて席替えがあった。

入学後の席替えで俺は窓際最後尾の一つ前というかなりいい席を引き当て喜んでいると、なんと隣の席にひまりがやってきた。

隣の席を引き当てたひまりは驚いて口を開けている俺の顔をみるや「これが幼馴染の絆ってやつだよ」とドヤ顔をしていた。

そんなやり取り続けていた俺達の間を夜倉杏が通り抜ける。

その後、後ろの席で椅子を引く音がなり件の人物がその席についた時、俺は何かが起きる予感がした気がした……



のだが、気がしただけで実際にはそんなことはなく1ヶ月弱が平穏に過ぎ去っていた。

そんな運命的なものとか物語的なものが都合よく起こってたまるかって話だよな、うん。

幼馴染が隣を引き当てた直後に話題の人物が後ろの席に座ったことでなんか過剰に意識してしまった、恥ずかしい。

こんなこと単なる偶然でしかないのにな。


入学から1ヶ月近く経った4月末、今日はGW前最後の平日だ。

(もうすぐGW……楽しみだな。)

学校にも慣れてきたこともあり、GWを目前に控えた俺の集中力は完全に途絶えていた。

このHRが終わればGWが始まると思うとどうしてもそちらのほうに意識が向く。

まともに話が聞けるきがしない、となると今は割り切ってしまうことにしよう。

(GW中に描きたいイラストのラフをちょっと描いておこう……)

軽いラフとサイン代わりのマークを描いていたところで強い眠気に襲われる。

なんとか目を覚まそうと抵抗したが、抵抗も虚しく気がついたら机に突っ伏していた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「―――とは幼馴染なんだって?」

「そうだよ!―――一緒で―――の付き合いかな?」

「―――付き合いなんだね」


近くで話し声が聞こえる、ひまりの声か……?

顔を上げるとパサっという音と共に何かが落ちる。

「あ、こーくん起きた!」

「おはよう……?すまん、待たせちまったか?起こしてくれても構わなかったのに」

いつの間にかクラスに人がいなくなっていた。HRに寝てしまってそのまま起きなかったらしい。


「杏ちゃんが話し相手になってくれたから大丈夫だよ!」

杏ちゃん……?

その名前に該当する自分が一人いることを思い出し後ろを振り向くときれいな黒髪が目に入る。

そのまま目線を上にもっていくと夜倉杏が拾った紙をまじまじと見ていた。

「……っ。これ、落としましたよ。他事をしていた上に居眠りとは関心しませんね。」

そう言って紙が差し出される、HR中に描いていたラフを落としていたようだ。

「ありがとう、気をつけるよ……」

「どういたしまして。さて、幼馴染さんも起きたみたいだし、私は行くね。またね、ひまりさん」

「杏ちゃんまたね!!」

ひまりの話し相手になっていてくれていたらしい夜倉杏はひまりに挨拶すると教室をでていった。

「いつの間に仲良くなったんだ……?」

「さっきかな!」

「距離の詰め方エグいな……」

これがコミュ強の力か。

「近くの席になったしよろしくって声かけたんだ!こーくん待ってる間話し相手になってくれてね、色々お話しちゃった!」

「へぇ、例えばどんな?」

「秘密♪えへへ」

少し頬を染めながら今日一番の笑顔を見せるひまり。

そう言われると非常に気になるが、そう言われると聞くわけにもいかない。


「さて、俺達も帰るか」

「うん!GW中の食材とかも買っていきたいからスーパー寄っていいかな?」

「おう、そのつもりだ。エナドリとかお菓子とかも買いためておきたいしな」

「えーエナドリはやめなよ、身体に悪いよー」

「カフェインと糖分は必要なんだよ…」


そんな話をしながら二人で帰路につく。

結局「コーヒーを淹れに来てあげるから!」という言葉と共にエナドリは禁止されてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る