始まりの日②
「セーフ!」
隣からひまりの元気のいい言葉が聞こえる。
二人して走ったことにより初日から遅刻はなんとか避けられた。
寝不足の身体に鞭うったお陰で消耗が激しい。
(まずはクラスの確認だったな、俺は…12組か)
12組の生徒一覧をみていくとひまりの名前もあった。
特進科は3クラスあるので別のクラスということもあるかと思っていたが、どうやらひまりと同じクラスになれたようだ。
「こーくんやったよ、同じクラスだよ!」
ひまりが声を上げながらハイタッチの構えをとる。
はたから見てるとかわいい、ただ巻き込まれる側の気持ちをちょっとは考えて欲しい。
とはいえ、めちゃくちゃよろこんでるひまりに水を差すのも悪いので控えめにハイタッチした。
「いえーい!」
ひまりの声のお陰で全然控えめにはならなかったが。
ひまりと一緒にクラスへと移動するとクラス内がざわついている。
入学式だし浮ついてるのかと思ったらそういうわけではないっぽい。
よく見てみると一人の女生徒を中心に人だかりができており、周りからも注目が集まっていることに気がついた。
あれやこれやと質問を繰り広げる人々の隙間から青みがかって見える長い黒髪と瞳をもつ女生徒が見えた。
(とんでもない美人がいたもんだな……これは注目されるわけだ……
お近づきになりたいとは思わないが目の保養にはなりそうだな)
「うぐぉっ」
そんなことを考えていたところで、脇腹に衝撃が走りつい呻く。
衝撃のあったほうを見ると揺れるサイドテールが目に入った。
ひまりに肘を入れられたようだ。なにごと……
「こーくん見すぎ」
ドスの効いた声だ。
ひまりの向けるジト目に耐えられず顔を背けると、ふと視線を感じた。
(件の美人さんがこっち見ている……?)
そちらの方に顔を向けたときにはこっちを見てなかったはず。視線を感じたのは気の所為だったか……?
(まぁ入口でごちゃごちゃやってる男女がいたら見るか)
そう結論付けてひまりと共に自席へと向かうのだった。
SHRにて簡単な連絡があった後、体育館にて入学式が始まった。
入れ替わり立ち替わり繰り出されるありがたいお言葉を聞き流しながら、俺はあくびを抑える。
朝の消耗と平坦な声で行われるスピーチがどんどん眠気を増幅していく。
俺にも流石に初っ端から居眠りはまずいという常識はあるから必死耐える。
「次は新入生代表挨拶。
うつらうつらとしながら眠気に耐えていると「はい」というよく通る声と共に黒髪を揺らしながら壇上へ登る生徒が目に入った。
毎年入試での首席が抜擢されるという新入生代表は今朝人だかりを作っていた美人だ。
体育館の窓から差し込む光を受けるその女生徒はあまりに綺麗で、俺の眠気を吹き飛ばした。
(こういうイメージの絵が描きたくなったな…)
家に帰ったらじゃ遅い、一回クラスに戻った段階で描きたい光景をまとめておきたい。
(あそこまで飛び抜けてるとクラス内どころか学校レベルでの人気とそれに伴う嫉妬も飛び交いそうだな。俺には無縁な世界だ……。)
あの光景を胸に焼き付けると共にふと思う。
基本的に俺はオタク趣味の根暗だ。そんな自分がクラスメイト以上の関係になることはおそらくないだろう。
1時間後にはこの考えが揺らぎ、1ヶ月後には完全に間違いであったことを知ることになるのだが、このときの俺は知るよしもなかった。
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