始まりの日①'
今日は高校の入学式
私、彩瀬ひまりはそろそろ起きてなきゃいけない時間だというのに連絡しても反応がない幼馴染、才賀浩輔を起こしに才賀家へと向かう。
預かっている合鍵をつかって家に上がり、こーくんの部屋をノックする。やっぱり反応がない。
そっとドアを開けるとイラストを描きながら椅子で寝落ちていた。
「身体痛めるって言ってるのになぁ……」
嫌な夢を見ているのかな、眉間にシワが寄っている。
あ、でもしかめっ面してるが寝顔もちょっとかわいい……。
少し伸びてきた黒髪をそっと撫でる、絶対なにもケアしてないのにやたらさらさらだ。
(気持ちいいな……)
(気持ちいいなじゃなくて!起こさないと!遅刻しちゃう!)
アホみたいな問答を自分の心の中でしつつ起こしにかかる。
「こーくん!!」
身体を揺すりながら呼びかける
「こーくん!!起きて!遅刻するよ!入学式から遅刻とかありえないよ!!」
うめきながら目を開けるこーくん。漆黒の瞳をこちらに向けているが焦点があっていない。
まだちょっと寝ぼけてぼーっとしてるみたいだ、かわいい。好き。
「何度電話しても繋がらないから来てみたらまた椅子で寝てるし!身体壊すよって言ってるじゃん!」
ぼーっとしているのはかわいいけど、起きてもらわなきゃ困るし、心配だから軽くカミナリを落としておく。
身体痛めてからじゃ遅いんだから。
「はい…以後気をつけます…」
「それ前も聞いたからね?」
たぶん4回目ぐらい。
「とりあえず朝食の準備してくるから、学校行く準備してきてね」
そう言い残すとリビングへと向かった。
「ホント、身体には気をつけてよね。こーくんに何かあったらおじさんになんて詫びればいいか」
朝食を食べてるこーくんに釘をもう一刺し。何かあったら亡くなったおじさんや生活を任せてくれた叔父さんに本当に申し訳がたたないもん。
あ、この顔はわざとじゃないなーとか思ってる顔だ、わかるんだよもう。もう一刺ししとこ。
「……気をつけてもいつの間にか寝ちゃうんだよなーとか思ってるでしょ?」
すごくわかりやすく図星をつかれた顔するこーくん。ちょっとおもしろい。
いたずらごころが芽生えてきてついからかうようなことを言ってしまう。
「もう!しょうがないなぁ……あまりにひどかったら最終手段を取るからね?」
「ひまりさん?最終手段って何?初耳なんですが」
「…………こーくんが寝るまで一緒にいる……」
言い終わるぐらいですごく恥ずかしくなった、何いってんだ私。
でもこーくんの反応的に照れてるみたい、それがうれしい自分がいる。
「恥ずかしいなら言わなきゃいいのに」
うっさい。照れてたくせに。
「恥ずかしくないと脅しにならないでしょ……」
恥ずかしさからのテンパりが収まっていない私はよくわからない言い訳を口走る、もうっこの口どうにかしてっ!
そんなこんなで、こーくんも朝食を食べ終わり、準備を終えて戻ってきた。
後頭部がはねていた髪の毛も整髪料で整えられている、ちょっと髪の毛伸びたかなって思ってたけど流して整えるとかっこいい……。
新しい制服に袖を通したこーくん。中学ではバスケをやっていたから細身だけど引き締まった長身、ブレザーがよく似合う。
もっとゆっくり見ていたいなぁ……でも時間ぎりぎりだから急がなきゃ。
「準備できたらおじさんとおばさんに挨拶してさっさと学校いこ、本当に遅れちゃうよ」
「だな。……いつもありがとな」
突然の言葉にフリーズする私。いつも感謝の言葉をもらってるけど、改めて言われると照れてしまう。
「……おじさんからの頼みだし、なにより好きでやってるの」
照れ隠し。たぶん赤くなってるであろう顔を見られないようにさっと仏間へと向かう。
二人で仏壇に手を合わせる。
「おじさんとおばさんに高校生になりました、こーくんのことは任せてください」と報告する。
見守ってくれているといいな。
「さ、いくか」
「だね、遅刻しないように少し急がないと」
気がつくと遅刻ではないけどちょっと急がないと危ないぐらいの時間になってしまっていた。
「「いってきます」」
今日から新しい生活が始まる。でもこのまま二人で変わらない生活ができたらいいな……。
新生活を祝福するかのような晴天を見ながら、私はそう願ってしまうのだった。
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