第9話 確認
『あ……、あ……、あれは……何ですか!』
レスティは恐怖で引き攣った表情を浮かべて声を絞り出す。
『ああ』
それが俺の感想だ。
俺も恐怖で、まともな返しが出来ずにそう言うのが精一杯だった。
二人とも一言も喋らずに暫く休んでからの会話がこれである。
更に10分程無言が続くが、気を取り直す様にグランが話し出す。
『はぁ、この森はあんなのが居るのかよ。そりゃ帰らずの森と呼ばれるわな』
『うん……』
レスティもかなり不安なようで口数が少ない。
『よし!こうなったら早く森を出よう!』
俺は自分に言い聞かせるように気合を入れる。
『そうですね!私もそれが良いと思います!』
レスティがそれに同意を示してくれる。
だが、そうなると色々と解決しないといけない問題がある。
『実は成功してから伝えようと思ってレスティが寝てる時に試してたんだが……もう時間かけてる場合じゃないから一つ協力してくれ』
そう言って、溜め込んでいた色素素材で魔力体の先端に色付けした小さなレスティを作って見せる。
『すごい!かわいいです!これ私ですか?』
軽くステップを取って躍らせるて見る。
『おう!、でどう?』
『え?どう……ですか?』
いや、どうやら分かってくれてないようだ。
流石に楽しませる為だけにこんなも作ったりはしな……い事も無いが、まぁ少し元気でたみたいだからそれはそれでいいか。
『色……付けてみたんだけど、肌色とか結構苦労したよ。結構いい感じだに出来てない?』
『え?……あっ!本当だ!すごい!』
言われてあらためて確認してからだが、それでも素直に驚いてくれたのは嬉しかった。
『ありがとう。まぁそれは良くて、そうだろう?この色付けでレスティの右顔と右手足の偽装は出来そうにおもう?』
そう言うと、レスティは目を瞬かせて驚き、レスティ人形をマジマジと見つめる。
『……そう……ですね。確かにすごいなぁとは思いますが、この色付けでって事でしたら、問題が有るかと。』
つんつんと左手の指でつつきながらそう言う。
『例えばですけど、洋服とかはまだましですが、肌色は確かに一色ってわけじゃ無いみたいですが、のっぺりとしてる感じで作り物の肌なのが分かってしまうと思います。色も少し青っぽいので不健康に見えてしまうかもしれません。』
うーん、だよなぁ俺も上手くできてるとは思っては居るが、同じ所は気になってた。
そもそも色の元になる素材が少なすぎる。
こんな肌表現する才能なんて俺には無い様だ。
それにたぶん、もっと重大な欠点が。
『なによりも、大きな問題があります……。多分これ透けてますよね?』
『だよなぁ……』
俺もだけどレスティも魔力を視る事が出来るから一見すると透けて見えないが、逆に言えば魔力が見えない者には透けて見えるだろうな。いや、魔力見えてても俺の黒い魔力が透けて見える肌ってヤバすぎる、それが光の加減で肌を青白く見せてる。
『すみません、私の身体が欠けてしまってるせいで……』
『いやいやいや!そもそも俺の存在意義がそれを何とかする事だから!』
申し訳無さそうにしょんぼりするレスティを励ましながら考える。
街まで行くには、問題点は二つ。
一つは今話してたレスティの欠損をどう隠すか。
もう一つは、街の方角がどっちなのかだ。
『レスティ』
『はい?』
『少しここから離れた所でやりたい事が有る、今から行っていいか?』
戻ってきて、流石に先ほどの巨鳥のせいで疲れ切ってしまって先ほどまで二人で無言で洞で暫く休んでいた事も有って既に日は落ちかけている。
いつもならレスティの目で生活に慣れる為も有り、危険な暗い夜は洞から動かないようにしていたが、もたもたしていられる状況でない事を嫌と言う程知った以上は、急いで動いた方が良いだろうと思ったのだ。
『え?はい、でも私じゃ足元も良く見えなくなりそうですが……』
レスティは暗くなりつつある森の姿を捉えながらそう返してくる。
『分かっている。大丈夫だ、今回は俺に任せて欲しい。俺なら暗くても視えてるからな』
俺の魔力眼は光での視界以外に微量の魔力の波も視る事が出来る。
レスティも魔力が見えるが、それは日の光の元で相手も見えて初めて見える物だ。
魔力だけで周囲の状況を把握は普通は無理、どうやら魔力視も光の中にある魔力波の反射で見る物らしい。
まぁその気になれば俺が作ったレスティの右目は魔力眼として同じ世界を視る事は可能だろうけど。
『わかったわ、それで何をしに行くのですか?』
『うん、ちょっと危険だけど一度周囲を確認しておくべきだと思ってね』
『え?そうなんですか?でもどうやって?』
『体を空に伸ばしてくいっと』
『え?』
『体を空に伸ばしてくいっと』
大事な事なので2度言いました。
■
『この辺にしようか』
俺達は寝床の洞から1時間程度は歩いて離れた場所まで来た。
レスティに近くの木の根元に座って身体を安定させるよう促してから、今からやろうとしてる事を伝える。
『周囲に危険な奴は居ない事は確認してるから安心してほしい、今からレスティを守ってる魔力をギリギリ絞って上に伸ばして、上から周りの地形を確認しようと思う』
レフィは、なるほどと言う納得の表情をして頷いた。
態々寝床から離れた場所に来たのは、木々の上に出るということで何か危険な生物に見つかる可能性が有るからだ。
巨鳥とか。
そうなった場合に寝床にしている場所へ急襲される可能性も有るわけで、それは避ける為に離れた場所にしたのだ。
『よし!レスティ、悪いけど左手足だけで大丈夫なようにしっかり身体を木の幹に固定しておいてくれ、何か有ったら直ぐに俺の身体の何処でもいいから引っ張って』
不安そうに俺が念を押すと、小さく笑みを浮かべて『大丈夫!気を付けてね!』と激励して見送ってくれた。
俺はレスティが身体を預けている幹に沿ってスルスルと上に向かって身体を伸ばして行く。
ここの森の木は背が高い為、長さが足りるか心配だったが天辺が見えてきた事で安心した。
もう少し余裕はありそうだ。
天辺に出て周囲を見渡したが一面の木の葉の絨毯で先がはっきり見通せなかったので、慎重に魔力体を風に負けないように力を入れて固定しながら、さらに上へ上へと伸ばして行く。
やがて周囲の木々の天辺が見下ろし気味まで来た所で改めて周囲を見渡すと、森の広さがとんでもない事を改めて認識させられた。
『まずは方角が分かる目印を……』
そう呟きながら視界を少しづつ横にずらして行くと、最初に気が付いたのは蛇の這いずったような隙間が木々の絨毯に見えた
『下まで見えないけど、寝床の側の川だな……そうなるとあの先が巨鳥の縄張りか……』
ゴクリと無い喉を鳴らしたような緊張を感じてそちらの様子を暫く伺うが、特に巨鳥の姿が見えるような事は無い。
眼下に広がるそこには、川の蛇行の隙間があるだけで満面の木々の絨毯だけが広く敷かれていた。
軽い違和感を感じながらも、絨毯の蛇行の溝を追って視線を左へずらしていく。
やがて荒涼とした不自然は程、草木の生えていない岩山が見えてくる。
『あれは……馬車が落下した岩山か……そもそも何故あんなところに道があるんだ?、森の中は殆ど人は入らないって話なのに』
崖の中腹を走る段差、例の崖の道をそのまま左へ向かって視線を進める。
方向的に言えば馬車が墜落しなければ進んでいっただろう方角を見て行くと、まるで岩山を上るように道が進み、やがて回り込むように崖の向こうに続いてそれより先は見えなくなった。
仕方なく反対に視線を変えると、そちらは少しずつ奥に向かって下がって行き、木々のなかに消えて見えなくなる。
改めて岩山全体を視ると、確かに大きいが思ったよりも小さくも見えた。
森が巨大すぎるのも有るだろう、森全体に比べると本当に小さな物だ。
岩山の頂上をみると、崖の道と並行になるような角度で斜めに切れた平面のようだ。
『巨鳥の奴の巣とか、ああ言う所にありそうだが……ここからはそれらしいのは見えないな』
巨鳥の姿が見えない事に少し安心しながらさらに左に向け視線を移していくと、そちら側は何処までも続く森の絨毯が続いた。
はるか奥には高い峰々が見える。
『まさかこの森、あそこまでずーっと続いてるのか?。だとしたらすげー森だな……流石、
視線はそのまま右に進め、やがて一周して最初に見た巨鳥の縄張り周辺に戻って来た。
先程は巨鳥の事が気になりすぎて、その奥に目線を向けて居なかった事を思い出して奥の方へ視線を送る。
『こちらは森が途切れてるな……、はっきりは見えないが、この先に海が有りそうだし、森の川の先に沿うような位置に僅かな光が見えるから、あれが
あらためて違和感を感じながらも、無事周囲の確認を終えると魔力体を一気に下ろして行きレスティの元へ戻った。
レスティは、無事に何もなかったようで元の体制のままで待っていてくれた。
まぁ、こっちもちゃんと神経を張って気にしていたから何もない事は分かっていたがそれでも無事を確認して、ふぅと気持ちの上で安心した溜息を付いた。
『グラン!お帰りなさい!どうでした?』
レスティも不安だったようで俺が戻って安全を確保すると、嬉しそうに迎えてくれた。
『一応、
『本当ですか!』
喜んでくれてるのは嬉しいのだけど、色々問題が山積みなんだよね。
『なんにしても、必要な情報は集まったから一旦寝床へ帰ろうか』
『そうですね、そろそろ私も眠くなってきました』
不安の原因の一つで、街の方角が分からない事が一応解決したことが大きいんだろうが、レスティの顔が元気になってるように見えた。
なので、今はちょっと街の方向と巨鳥の居た方角が同じだった事は言い出せ無かった。
――――――――――
こんばんわ
自分の創作物に自分も出てみたいよねって思いませんか?
私はそう思います。
◇次回 対決
そろそろ見た目どうにしないとね。
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