第10話 対決

 翌日の朝、洞の幻術を解いていつもの通り近くの川で顔を洗うレスティを視ながら巨鳥の事を考える。

 巨鳥を避けて進むとしても、奴の縄張りが何処まで有るかも分からないし、隠れる所の多そうな崖沿いや川沿いは、もしもまだレスティを狙ってた奴らが網を張ってたらと思うと選べない。

 そうなると反対側の森の中を大きく迂回するか、覚悟を決めて突っ切るか……。


『ぷはぁ!』


 顔を洗うと言うよりも頭ごと川に突っ込み、思いっきりのけぞるように顔を上げて水しぶきを振き、気持ちよさそうな声を上げるレスティに、やれやれと思いながら、素早く顔を覆って水滴をすべて吸い取ってやる。


『うぷっ!あ、グラン!ありがとうございます!』


 恐怖体験は有ったが、先の不安の一つが解消した事も有ってか一晩たってずいぶん元気になってくれたようで良かった。


『うん、おはようレスティ!』


 俺も元気に挨拶をしたけども、これから色々話す事を考えると正直気が重くなる。

 とまれ、先ずは食事でも取って貰おうか、と言っても簡単な野草サラダのミンチ肉のフレークかけ。

 ミンチ肉のフレークはスープのアクセント用の作り置きの残りだ。

 すまん、マジ簡単な物だ。


『おいしそう、いつもありがとう!グラン!』


 そんな手抜きの食事でも嬉しそうに食べてくれるレスティには感謝。


『よし!それじゃ昨日の話の続きをしようか?』

『はい!』


 やっぱり厳しい話になる事は何となくわかって居るのだろう、それまでの楽しそうな顔から、打って変わってまじめな表情になる。


『まずは、昨晩話した通りヴィラと思しき生活の明りを見つける事は出来た。結構な距離なのにあれだけ見えるって事は、かなり大きな街だね』


『本当に見えたんですね!よかったです!これで少なくともヴィラに行く方角は分ったんですね!良かったです』


 嬉しそうな表情で左目に涙を浮かべる姿を見るに、本当に不安だったんだろうなって思う。

 だけど、その笑顔を曇らせるかもしれない事を言わないといけないのが辛い。


『そうだね……ただ問題が有って簡単には行かなそうなんだ……』


 それだけを聞いただけで、ゴクリの唾をのみ込んで緊張するレスティを見て申し訳なく思いながら話を続ける。


ヴィラの方角が、丁度巨鳥の居た森を突っ切った先になるんだ……』

『!!!』


 左手で口を覆い隠し恐怖に引き攣るレスティの顔を見ながら、それはそうだろうなと思った。

 俺でもあの巨体は恐怖を感じたのだから。


『だから、せっかく街の方向が分かったのに、どうやってあそこを超えるか?というのが問題になった』

『……回り込んでって言うのは難しそうなんですか?』


 俺がそれは難しいと判断している事をわかって居るのだろう、本当に聡明な子だと思う。

 先程一瞬怯えた表情をしたものの、もう既に落ち着いて深く思考を巡らせてるような表情で左人差し指を立てて唇に当てた状態で視点は右斜め下の何も無い空間を見ている。


『そうだな、崖側の道と川を直接下るなら、おそらく隠れながら街まで行く事は出来るだろう。対して反対側の森はどこまで迂回すれば奴の縄張りの外に出れるのか分からないから厳しいだろうな』

『グランは、その崖の道の川も厳しいと、そう思ってのですね?』


 レスティは正面に顔を上げて、まるでそこに俺が居るように見据えてそう言う。


『ああ、崖の道は例の馬車で事故った道だ。既に諦めて居ればよいが、レスティを襲った奴らがもう探して無いとは限らない』

『川はどうでしょうか?川って事は多分街に繋がってそうですし?』


 多分、この後の俺が言う言葉は分かってて、そう言ってるんだろうな。

 考えられる方法は全てお互いに認識共有してつぶして置きたいのだろう。


『俺の意識がまだ明確でない頃だから、正直な所ははっきりしてないが川縁を逃げてきたからな。レスティが川に流されたと考えて居ても可笑しくない。』

『私の事を遺体でも回収したいと思っているようでしたら、下流に見張り置きますね』


 二人で唸る。


『……一つ気になる事があるんだ』

『それってどんな事ですか?』


 俺の判断が当たってるかどうか分からない危険な賭けになる為、提案する事に躊躇する。


『上手く行けば、身体の偽装も解決するかもしれない……』



『すごい!私全然気が付きませんでした!それが本当なら色々解決ですね!』


 俺の短い説明に嬉しそうに破顔するレスティ。


『ああ、だけどまだそうだと決まった分けじゃないから気を抜かないでくれよ』

『ええ、そうですね。でもグランの事ですから、ほぼ確信されたから提案していただけたんですよね?』

『まぁ……そうだな、ほぼ間違いないと思う』


 そうと決まれば、先ずは確認するのが先決だろうと、俺達は昨日巨鳥に出会った森に向かって進んだ。


『そろそろ、昨日あいつを目撃した場所当たりだね。』

『うん』


 俺達は二人とも今度は、その瞬間を見逃さないように周囲に気を配りながら進む。


『レスティは正面だけ気にしててくれれば大丈夫だよ。後は俺が見ているから』

『ありがとう、私もできる限り見逃さないようにしますね!』


 周囲に油断なく視線を巡らせながら、話を続ける。


『グラン、もしこの賭け当たっていたら、街に行くための問題は全て解決するのですよね?』

『そうだね、まぁ正解だったとしても、それを俺が再現できるかは別問題だから直ぐにってわけには行かないだろうけどね』


 俺が右手に模した魔力体を左手で擦りながらレスティが微笑む。


『グランはこんな事も出来るんですから、きっと直ぐできるようになりますよ』


 うーん、っとその言葉には困ったが、ここで否定するのも何か違うと思ったので自分の意見は黙って置くことにした。


『そうだな、きっと俺がなんとかする。安心して待ってろ』


 右後ろだった。

 巨鳥と言うには遥かに小さな鳥だった。

 一本の木の太い幹の裏から飛び出すよに回り込んで来て、俺達を見る事が出来る枝に留まってこちらを見据えたかと思うと静かに口をあけて、何かを叫ような仕草をする。

 鳴き声は聞こえない。

 いや、先日は気が付かなかったが奴が叫ぼうとする仕草とほぼ同時に周囲の様々な生き物たちの喧騒が止む。

 彼らは長年の間に奴を良く知っている。

 そして恐怖している。


『出たぞ、右後ろだ』


 おれはレスティにそれだけを伝えると構える。

 レスティが振り向いた時にはそこには先日見たあの巨鳥が巨大な瞳でこちらを見据えていた。


『!』


 レスティが驚き恐怖で身を縮まらせたが、それを無視して言う。


『やはり距離が足りない!予定通りいくよ!』


 レスティは右目を強く瞑りながらも頷く。


『走る!』


 俺の魔力体で作った左足を前に出す。


『力を抜いて!』


 魔力体で囲んだ右足を前に出す。


 音を置き去りにして、あっと言う間に巨鳥の足元まで走り込む。

 ギョッとして巨鳥が俺達を見下ろすが、何も出来ないで固まる。


『見ていたよ!そこに居るね!』


 その場所から真上に向けて魔力体の右手を一気に伸ばすと、巨鳥の身体を貫いて進む。

 いや、そもそもそこには

 のはもっと先。


「ニャァァァァァッァアア!」


 甲高い声が変な声が響く。


『捕まえた!』


 巨鳥の姿が霧散し伸ばした魔力体の右手を引き戻すと、レスティの前腕程度の小さい鳥の首を掴んでいた。


「ニャーァァァ!!!ニャゥゥゥ」


『す、すごい!本当にいましたね』


 必死に右手に嚙みついて鳴き続ける鳥を不思議そうに見るレスティ。

 冷静なレスティに妙に笑いそうになるのを堪えながら巨鳥を見る。


『思ってたより小さかったな。』


 改めて観察すると、その姿は巨鳥の時と違い、くすんだ緑一色でかろうじて嘴が黄色な位か。

 鳴き声も鳥とは思えない変な鳴き方だ……ネコみたいな声だな。

 首を掴まれたままで必死に逃げようと羽ばたいて暴れているが、それ以上の事はさせる気は無い。

 鳥が何度もを使おうとして構成している術式に介入して乱す。

 接触している事で辛うじてそれが出来ているが、中々優秀な鳥だ。

 おかげで、少し魔力が俺にのは有難い。


『あ、あの……その子、大丈夫ですか?』


 暴れてた鳥が、段々と力が抜けてぐったりとしてしまったとは言え、レスティが心配そうにそう言ったので、鳥をよく見たらレスティの身体のままの左目だけにうるうるとした視線を向けていて、直接的な懇願してる。

 この鳥は、左目側に訴えたら助かる可能性をしっかりと気が付いてるのか。

 左右が別人だと判断出来てるとか、頭も感も良さそうだ……が、なんかむかつくな。


『たぶん、こいつ美味いと思うぞ?』

『えええええ~!』

「ニ゛ャーーーーー!?」


 勿論冗談である。

 ただの鳥なら晩飯に仕上げてるが、光系の魔法で幻を見せてきたのだ、それをしっかりと解析させて頂こうとおもってるから、少なくともそれまでは殺す気は無い。

 とはいえ、まぁレスティの言いたい事は違うんだろうな。

 鳥の反応に情でも湧いたのだろう……あざといだけだと思うが、まぁあざとい態度がとれると言う事は、それが出来る知能は有る分けだしな……


『冗談だよ……』

『よかった~!』

「ニャー!」


 ……おまえ聞こえてないか?

 …………これか!


 何も対抗できなくてぐったりしてるのかと思ってたが、掴んでる所から魔力を俺の中に限りなく細く伸ばして干渉してきていやがる!


『いつまでもさせるかよ!』


 そいつ魔力作った左手で掴んで引き摺り出す。


――――――――――

こんばんわ猫電話キャットテルです!

遅れました!ってもまだ読者さんが付いてくれて無いので、遅刻したとか余り関係ないですね。(⁠ ⁠;⁠∀⁠;⁠)


◇次回 名付

まぁ適当な名付ですわ、ネーミングセンス作者にないからね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る