第6話 怖い記憶2

『それじゃ、やるよ?』


 レスティを倒れても良いように洞の中で身体をしっかり固定して座らせる。


『はい、お願いします。』


 ゆっくりと目を閉じて深呼吸を一つ。


『いくよ……』


 レスティの頭の中に魔力との境目からゆっくりと俺の魔力を絡めて行き、少しづつ頭の中を満たしていく。


『……んっ!』


『だ、大丈夫か?』


『大丈夫……』


 言葉を紡ぐのも大変そうに答えてくれる。

 結構きついのかもしれない。


『……少し眠っててくれ、大丈夫……目が覚めたら終わってるから』


『……え?』


 俺は魔力を通して合成した睡眠薬をゆっくりと送り込む。


『……グラン……』


 そう呟いてゆっくりとレスティは目を閉じた。



 レスティの頭の中をグランは進んで行く。

 グランのイメージなのだろうか、進路は幾つも瞬く星の道をひたすら奥へ進んで行く。

 やがて、目の前に木の洞の中で蹲るレスティの姿が浮かんできた。

 その姿は、服こそボロボロだけど傷一つない身体で右手も右足も、右半身全て健在だった。

 だけど、何かにおびえてその洞に閉じこもっている。

 閉じこもって、何かから見を守るように両手を前に突き出して魔力を注ぎ込み続けてている。

 そこには僅かに揺れるが、幹しっかりと洞を隠そう映し出されている。


『あの時の記憶か、でも俺同様はっきりとした記憶では無いのだな……でも、これではっきりした。間違いなくレスティ自身で魔法を使っている』


 そう呟いてその姿を横目に奥へすすんでいく。


 次に見えてきたのは、馬車の御者台で後ろを気にしながら必死の形相で馬を操作するレスティの姿が見えてきた。

 不意に飛んできた矢が左腕に突き刺さり、その痛みにレスティは手綱を強く引いてしまい馬が驚いて嘶き声を上げ前足を高く振り上げた。

 その瞬間、馬車はバランスを崩し崖に向かって落ちて行ってしまう。

 落ちていくレスティは気絶してしまって居るのか、表情が消えている目をつむって抵抗なく四肢を投げ出している。

 転がる馬車に巻き込まれて右半身が崖壁に押しつぶされる。

 その瞬間胸元にぶら下がっているペンダントが光ったと思ったら一瞬でつぶされた右半身ごと包込むが、魔力が足りないのか所々を完全に包み切れずに隙間を埋めるように全身を回っている。

 また、そのままこれ以上車体に巻き込まれないように、一緒に落ちる馬車から引き離すよう引っ張り少し離れた場所へ落ちていく。

 やがて地面に辿り着こうかと言う時、不幸な事に光の膜が頭の右側に僅かな隙間が回り込んだタイミングと重なり、地面に僅かに出っ張った石に衝突した。

 出っ張った石は苔むしており地面から出ている部分はこぶし大程で、地面から突き出した長さも親指にも満たない高さだが、自然の石と疑いたくなるようなキレイな四角柱をしており、グランの目には黒い靄がその石柱から染み出しているのが見て取れた。

 レスティの右頭部が石柱に衝突し破裂した瞬間にレスティを包む光の膜に吸い取られるように黒い靄が石柱から噴き出す。

 その結果、包み切れない隙間を光と黒い靄が協力するように埋め、飛び散る身体の破片の全てを押しとどめ、それ以上の傷が進まないように力強く繭のような形に包み込んで行った。


『これが……』


 この光景は何処まで現実かは分からないとは思ったが、何となくしっくり来る物を感じていた。


 さらに進むと、やがて次のイメージが見えてきた。

 イメージの中であのボロボロな服の本来の姿だろう、やはり高級なそうな仕立ての服で手紙を読んでいるレスティが居た。

 悲痛な面持ちで手紙に目を落とすレスティは、側の机の上に置いてあったベルを鳴らし、側使いを呼び出すと何事か話した後にすぐに部屋を飛び出していった。


 イメージは後方へ流れて行き、新しいイメージが見えてきた。

 そこには、レスティと思われる人物が立っているが顔の一部滲んでおり、その周りには数名の人間が立っており一緒に談笑しているが、全員同じように顔は滲んで判別できず、かろうじて服装から修道女のように見えた。


 次のイメージは、真っ暗な夜の街道を静かに走る馬車に数名の女性が顔を隠すようにフードを深く被って乗っている姿が見える。

 馬車はやがて城壁のある街の小さな通用門のような扉から、周囲を伺く数名の兵士に見守られて隠れるように入る。

 街は周囲を大きな川が街の中央を流れており近くに深い森が見える。

 ああ、この街は自分達の居る森に近い……そう何故かそう思った。

 この街に行ければ……。


 さらに次のイメージからブレがどんどん酷くなり、その全体像すら怪しいイメージが流れて行く。稀に何故かはっきりとしたイメージも現れる事はある。

 おそらくレスティにとって印象深い記憶なのだろう。

 だがそれ以上の特に何か重要な意味をもつイメージを見つけきれずに進む。


 次第にブレだけで無く、色も褪せ始めても目的の物が見つからないグランは焦った。

 あまり時間をかけるとレスティへの負担が心配でしかたないのだ。


 そろそろ最後かと思った頃、急にはっきりした色褪せも無いイメージが姿を現した。

 それは膨大な量の書庫で今よりももっと若い姿(おそらくは7~8才)のレスティが真剣な眼差しで机に座り本を読みふけっている姿だった。

 なぜこんな記憶が鮮明なのかは分らないが、グランはコレだ!と思った。


 素早くイメージの詳細を把握する為に自分の手を伸ばして取りこぼしが無いように情報すべて集めて行き、集め終わったと判断したと同時に意識は先ほど通ったイメージの道を数秒で遡って戻って行く。

 最後に、洞のなかで怯えるレスティの姿が見えた。

 記憶でしかないのはわかっている。レスティの負荷を考えると返って悪手なんだろうなとは思ったが、それでもそのままにする事が出来きないと思ってしまった。


『こっち!』


 レスティが蹲ったまま前に突き出している両手を掴んで、力強く引っ張り上げる。 

 顔を上げたレスティは俺の顔を見て一瞬驚いたかと思うと、満面の笑顔を浮かべて俺が掴んだ手を逆に力強く握り返した。

 俺はそのまま掴んだ手に力を入れてレスティを一緒にそこから引っ張り出した。


 

『レスティ、大丈夫?』


 俺はレスティから睡眠薬を抜きながら声をかける。

 やがて虚ろな顔に表情が戻ったレスティが目を覚ましてくれたてほっとした。


『……グラン?』

『大丈夫、ここに居るよ』


 空中を何かを探すように左手を彷徨わせるレスティに俺は声をかけると、安心したような笑顔になってくれたから大丈夫だろう。


『……夢をみていました』

『どんな夢を見たんだい?』


 眠らせて居ただけで思考補助はそのままだったから、俺がアクセスしていった記憶の一部が漏れ出して夢を見せていたのだろう。


『……グランって魔力のかたまりですよね……』

『ああ』

『私を包んで守ってくれてますけど、からだは無くて』

『そうだな』

『でも、間違いなくグランだってわかったんです』

『??何がだ?』

『とても暗い場所で怖くて怖くて怯えていた私のを取って笑顔でそこから連れ出してくれたんです!』

『……そうか』

『はい!だから有難うごさいます!』

『夢だろ……』

『はい、でもお礼を言いたかったんです』

『……そうか』


 俺は何も言えずに、ただレスティが笑顔であった事だけに安心するのだった。



『俺は潜って調べただけだけど、いくつか有用な記憶は残っていたと思う。例えばこの森の近くに大きな街が有る。まぁ近いって言ってもこの森を出る迄何日かかるかも分からないし、なによりもここが森の何処になるか分からないから簡単じゃないだろうけど』


 ほかにも、一般民の生活についてとかいろいろと覚えていた。

 それよりも、俺が持ち帰った情報なんかよりも重要な事がる。

 持ち帰った情報をレスティに伝えようとしたが……

 彼女は夢をみた。

 それも俺がみたイメージに重なる物だ。

 夢にみるだけでは無い筈だ、刺激になって記憶が戻ってくれるかもしれない。


『レスティ』

『はい?』

『どうだ?何か思い出せそう?』


 そういって、思い出す事を促してみる。


『例えば……先ほどの話しの近くにある街とか……』

『……街の名前……ですか?』

『そう、思い出せないか?大きな川を囲うような街だ』


 俺は、しきりに頭を捻るレスティの邪魔をしないように無言で待つ。


『ヴィラ!、ヴィア・イファ・ラガーフ!、みんな長いからヴィラって呼んでる!……みんな?……私、街に誰か待たせてる気がする……』


 不意に頭を抱えるように蹲る。


『大丈夫か?』


 レスティはその左目に小さな涙の粒を垂らした。


『だ、大丈夫です。……ですが何か大事な事が街にあったような気がします。大事な人を待たせてる。そんな気がします。』


 先程の覗いた時にはそのような記憶は見えなかったが、覗いた記憶がすべてではない。

 もう一回視る事が出来ればわかるかもしれないが……レスティへの負担を考えると何が有るか分からないから止めたほうがいいだろう。

 このまま自然に思い出したほうが負担が少ないと思う。


『そうだな、直ぐではないけれども、準備をして街に行こう!、今はまだ大きくここから動く事は出来ないけど……』

『はい……』


 喜ぶのでは無く、少し落ち込んだ声でレスティは返事をした。


『レスティ……』


 分かっている、直ぐにでも行きたいのが本音なのだろう。

 先程の話での大事な誰かを待たせていると言う事が罪悪感にでもなってるのかもしれない。


『わかっています……まだ私は一人では満足に動けるませんし、着ている服だってボロボロです……街に行って何かをするにも持ち合わせも無いので、何か売れる物も考えないといけませんし……』


 そんなレスティには悪いと思ったがもう一つの問題を告げる。


『もう一つ……実は大きな問題がある。』

『え?』

『さっき魔法の記憶を調べた時に分かった事だけど、普通の人間には魔力は見えないんだ。』


 そう、魔力は普通の人間には視る事が出来ない。

 一部の生まれ持った性質で稀に生まれながらに見る事が出来る者もいる。

 だが、そうした人は数万人一人とも言われており、大抵は貴族等のお金に余裕がある家の子が子供の頃に特別な目薬をさして手に入れる。

 ちなみにレスティはどうやら数万人に一人の方でも有るらしい。


『え?』


 良く分かってない顔でレスティ首を傾げる。


『今、レスティの右半身になってるのは俺であり、魔力の塊そのものだよ……』

『!』

『そう、今のレスティが街に行ったら、普通の人には右半身の無い存在だよ』

『え……なにそれ、怖い……』


 どう見えるか想像してか、恐怖に引き攣った表情で呟いた。


――――――――――

こんばんわ猫電話キャットテル

いやぁ……本当に読んでもらう難しさを痛感しています。

今もまだ、2話目以降が読んでもらえていません。


最初に公開した1話目があまりにも酷くて、書き直ししましたが書き直しは新作にならないので、目に留まらないってのも有るのかもしれません……


ある程度の話しが貯まったら色々やってみようかな。


◇次回 採取とお食事

 とりあえず食べ物が無いと生きていけませんしね……

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