第3話 生きる魔法

 獲った獲物を完全に分解し取り込みを終えて、それを身体に与え続けてさらに1週間程過ごした。

 分解した獲物の残りはまだ魔力体の中に保管している、身体の方も欠損部位の回復は無理としても肌艶は良くなって来ており、神経部分も直接的な痛みに繋がりそうな箇所は保護処理は終わらせたから痛みも出ないだろう。


 不安定だった俺自身の自我も、より明確になり自分の意思をもって自由に行動できるようになった。

 そんな中、改めて自分は誰なんだと考えていた。

 まだまだ難しい思考は出来ない程度に靄が掛っているが、少なくとも俺は魔力で体を構成しているが、その魔力体に組み込まれた魔法の術式は俺を維持して居ないらしいと言う事が、その魔法の術式から知識として流れ込んできた。


 この術式の起動は、生身の身体が命の危機に瀕すると自動で発動する様に構築されており、実際にその状況に陥った事で術式が起動し俺が目覚めた。


 改めて術式を見るが自分自身と認識したおかげなのか、記載された術式を読む事はできた。

 それによると、この基幹の術式を中心として複数の魔術が複雑に絡み合って起動しており、このの制御により魔術が正常に動いているようだ。

 だからと言って術式を完全に理解したと言うことでは無いが……。


 要するに自分とこの生命維持の基幹術式に関係性が無いと言う事と、何故か基幹術式により作り上げられた魔力体を俺は自由に動かせる事はわかった。


『そもそもなんで、俺に自我があるん?』


 最大の疑問はそこ、基幹術式はあくまでも生命維持と回復を起動時に取り込んだ魔力が尽きるまで自動で発動し続けると言う物。

 確実の死より、少しでも生存確率を上げる為だけの魔法。

 本当に俺に自我が目覚めたのは運が良かったとしか言えなかった。


 あえて言うならば、起動した瞬間に周囲の魔力を属性や位相を無視して広範囲を取り込むように記述されている所が影響したか……

 死にかけたら自動で起動する魔法……、どんな事を思って自分自身に施したのだろうな。


『って~い!わからんものはわからん!わからん事は後まわし!』


 問題はこの後どうするかって事だが、取り敢えず停止していた欠損部位との境界部分の修復を再開させた。

 この修復作業は以前起動していた時には材料になる物が足りずになかなか進まないのかと思っていたが、十分な材料を用意してもその速度はそれほど変わらず遅かった。

 基幹術式には欠損部位を魔力で合成してそれを境界部分に接続していくように記述されているが、それが上手くいかないのだ。

 魔力合成の体組織を接触させてもけっして繋がらないからだ。

 ゆえに再開した修復方法は境界細胞に直接必要な材料を投与し境界細胞が自ら修復していくのを手助けする方法で対応している。

 幸いなのは、魔力の情報伝達は魔力体で作った疑似損失部位とやり取り可能な為に命を繋ぐ事は出来ている。


『それにしても、この調子じゃ補助なしで生きれるようになるまで修復するのは何ヶ月もかかりそうだな……』


 欠損再生にはその身体自身の力が必要で、魔力で力尽くなんとかなるものじゃないらしい。

 現在は身体の意識は眠ってるような状態にしている。

 理由は頭部の半分程をを失ってしまっている為、魔力での思考補助を行わないと、まともな思考ができない為に危険を避ける為、睡眠薬効の成分を魔力合成で作成し、それを頭に直接流して眠らせている。

 この薬や使用する量等の微妙な調整は基幹術式に記載されており、その術式をそのまま実行で問題無くて良かった。


『意識との魔力情報伝達の接続……これで大丈夫な筈……』


 魔力情報伝達がしっかりと繋がれば魔力体で思考の補助出来る筈。実際魔力体のみの俺がこうやって思考できてるんだから大丈夫な筈だ。

 そもそも俺は知らなかったが事故直後に、まだ俺の自我がはっきりとして無い時に、きちんと魔力体が思考補助が出来たことで無事に逃げ隠れる事が出来ていた。


『睡眠効果薬の停止……』


 流し込んでいた睡眠効果の薬を止めて、薬効が徐々に薄くなっていくのをそのまま注意しなが診続ける事5分。

 まぶたがぴくりと動いたのが見えた。

 続いて口元にも反応があって、やがてそれらの小さな反応が大きくなっていく。

 あるタイミングで突然、止めていた息を思い出したように強く空気を求めて口を大きく開けて、そして左目も強く見開いた。


『!!!』

 ちょっとび・・・びびってないよ!


 ギョロギョロと左目で何かを探すように周囲を見渡す。

 

『だ、大丈夫?』


 俺は不安な気持ちを抑えつつ、直接頭の内へ魔力情報伝達で伝える。

 動かしていた左目を止め、何も無い空間を見つめている。

 声がした場所が分からなくて諦めたのだろうか?


『意識はある?自分の事わかる?』


 ドキドキしながら声をかけるが反応がすごく鈍い……思考補助が上手く行っていないのだろうか?それともまた何か別の原因で意識の覚醒が出来ないのだろうか……。


「………………」


 ゆっくりと何かを喋るように口を動かすが、魔力体を肺の中まで満たしている為、声にならない。


『あ、そうか!、今は魔力体で肺を満たしてるから声は出せないよね!ごめん』


 そう言うと、俺は自分の意識と思考補助を行ってるお互いの意識を強く結びつける。

 

『心のなかで強く言葉を届けるように喋ってみて!』


 それでも喋るように口を動かしながら、小さな意思が聞こえてくる。


『……あ、あなたは……だれ……ですか?』


 なんとか伝える事が出来るようになったようでほっとする。


『俺は……良く分からないとは思うけど君を包んで護っている魔力で出来た存在だよ』


 おれは、質問に出来るだけ優しい声色で答えて自分が今、身体全体を囲んでる魔力体である事、そしてそれで君を護っているんだと端的に伝えた。


『……まりょく……ですか?』


 状況を理解しようと俺の言葉を反芻する。

 まだ、意識がはっきりしていないのかもしれない。

 不意に、身体を必死に捩ろうとして殆ど動かない事で、焦ったような声で思いを伝えてくる。


『嫌!来ないで!死にたくない!!!』


 びっくりしたけど、死にかけて追い詰められ恐怖に怯えながら、必死に逃げ隠れしている時に意識を失ったんだから当然の反応だった。

 何せ今、目が覚める迄は気を失ってたわけだから、状況が変わってるなんて分かる筈もない。


『落ち着いて、大丈夫。君の命を狙う者は近くには居ないから、もう安全だよ。』


 そう意識を流し込みながら、背中を擦る様な優しい刺激を与えてやり、出来る限り静かに安全になってる事を伝えてあげる。


『いやー!離して!!』


 それでも簡単に落ち着いてくれるのなら苦労はないのは当然、それだけの事が有ったんだから。

 とは言え、俺もその時に意識はまだはっきりとは無く、この場所まで殆ど無意識に逃げて来た。

 だから正直な所、詳細を説明できるほどの記憶が無い。

 それでも今は俺しか居ないのだから俺が声をかけ続けるしか無いだろう。

 また、睡眠薬を投与して眠らせるても、先延ばしになるだけで解決にはならない。


『大丈夫、大丈夫だよ。』


 何度も、何度も。


『大丈夫、大丈夫。』


 気持ちの上では、できるだけ優しく包み込むように(実際に包み込んでるが)安心させる気持ちを込めて、ゆっくりしたテンポで肩を叩き(ような刺激を与え)ながら。

 やがて落ち着いてくれたのか、荒れた息も静かになり安定した呼吸になったので様子を伺いながら本題を切り出す事にした。


『落ち着いた?』

『はい……すみません、取り乱していました。えっと……あなたは?、ここは何処ですか?、それにあなたの姿が見えないのですが……どこに居られるのでしょうか?、からだが上手く動かせなくて……』


 先程とは別人のようにおっとりした口調で質問を投げてきたので、どう答えた物かと考えるが……なかなか難しい。

 場所は兎も角としても俺の事をどう伝えたら理解してくれるか……まぁ一旦はそのまま答えるしかないか。

 その反応で続きは考えよう。


『そうだね、先ずはここが何処かだけど、俺も良く分からないが森の中だ』


胡乱な目をされた。左目だけでも結構表情は出るもんだな……


『あ、いやわかってる!、ちゃんと説明するよ!』


『ご、ごめんなさい!責めるつもりが有ったわけじゃないの、さっきまで何かすごく怖い感じだけがいっぱいで……気が付いたら変な所に居るし……、私の事を落ち着かせてくれたんですよね?、ありがとうございます』


 ちょっと焦って続けようとすると、何か謝らせる結果になって逆にこっちが申し訳無く思ってしまう。


『だ、大丈夫、先ずはわかる範囲で説明すね。ここはさっきも言ったけど深い森の中の大きな木の洞の中だよ。実際の所はこの森が何処でその森の中のどの当たりなのかは俺も分からない。何故そんな森の中にいるかも正直殆どわからない。』


俺は理解が追いつくようにと、息継ぎをするような間を空けて続ける。


『大雑把に説明すると先ほど君が受けた恐怖。君の命を狙ってた人達から逃げ隠れてこの場所に来た。それで既に相手は諦めてここには居ないから安心してくれ。』


『え?私、殺されかけていたんですか?!、どうして!』


 先程の必死の命乞いもまるで無かったように忘れたのか、命が狙われて居た事も覚えていないようだった。

 なんとなくそんな気がしては居た、頭の半分以上を失ってるんだし。


一応の所、本人は分ってないだろうけれでも思考できてる事も俺の魔力体での補助が有るからだし……。


『そうみたいだね、なぜ命を狙われていたのかは俺も知らない、言える事は完全に撒けたので今は安全だよ』


 まずは安全な状況なんだと言う事はしっかりと伝える。


『……そう……それは良かったです……』


 命を狙われてた事を忘れてても、怖い思いをした感覚はちゃんと有るのだろう。

 でなければ、意識を戻した直後の混乱ぶりは説明できない。

 それでも、やっと心から安心できたのだろうか、小さな笑みが口元に浮かんだ。


『で!それはわかりました!、場所も良く分からない森の中のなのも、今は置いておきます!、そしてその話し振りから私を助けてくれたのだろうなってのも推測できました!、でもさっきからなぜ顔を見せて頂けないのでしょうか?、私、振り返りたいのに体が上手く動かなくて出来ないんですよ?、私の前にまわって出てきて顔を見せて頂けませんか?』


 気持ちを切り替えたのか元気に言葉を続ける。


あ~、ですよね、そう思ってますよね。

声が聞こえてて姿見えないんじゃ、死角になってる背中の辺りに居るのだろうとか、そんな感じに……


説明どうしようかな……


――――――――――

こんばんわ!

猫電話キャットテルです!

3話目もお付き合いありがとうございます!


平日ですが、遅れが有りますので今日・明日共に公開致します!

やっと、主役双方の初会話です!

まだまだ本格的に話しが動くのは先ですがこれからもお付き合い宜しくお願い致します<(_ _)>


◇次回 自己紹介

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