第5話 【聖騎士】vs【剣帝】

「あぁ、待たせた?」

武道場を覗くと、既にレーネは着いていた。

「いえ、時間通りです」

そう言うなら細剣レイピア手入れしながら待ってるの止めてくれない?怖いから。

「そうか。じゃあ、ルールは?」

なんでもありバーリトゥード…無論、貴方が嫌と言うなら変えても構いませんよ」

(う~ん……ぶっ込んでくるねェ)

「良いぜ。ただァ……一つだけ、要求……ってか、忠告だ」

「何かしら?」

「殺す気で来いよ。じゃないとただの飯事ままごとだ」

開始の合図ゴングは、その言葉だった。

ドンッと、鈍い音がして、レーネの姿が消える。

「言われずとも、最初から」

背後、溜め攻撃。

「そのつもりです」

突き。

「お見事」

手の甲で受け流す。

火花が散り、消える前に追撃が迫る。

「余裕ですね」

「そりゃね」

二連、三連と続く音速の突き。

けれど、意味がないと判断したレーネは一度後ろに大きく跳──

「逃がさんよ」

姿勢を低くし、レーネの左足を掴んだ刹那は、暇を置かず壁へと投げた。

「──へェそれが聖装サクラメントか」

壁から出てきたレーネの装いは、それまでと一風変わっていた。

魔力のような不定形なエネルギーで象られた光の鎧。

それは、まさしく恩寵サクラメントと言って相違なく──聖典教の勇者級……第一級戦闘員最強クラスにしか与えられないとされている、【識者の遺産】だ。

「聖剣抜剣────【純真メタトロン】」

おいおい、聖剣なのは知ってたが、【純真メタトロン】!?

前衛殺しじゃねェかよ!

ズルだろそれェ!?」

「言ったはずです、なんでもありバーリトゥード、と」

「……言ってみただけだ」

「そうですか」

光が、瞬く。

「なんだ聖装それ、身体能力も向上させるのか」

今度は真正面から、大した溜めもなく突きを放つ。

「ッ」

しかし、刹那はそれを避けざる終えなかった。

聖剣【純真メタトロン】の能力は、厄介この上ない。

昔、黒龍討伐時に貸し与えられた事があり、使った事があるが、何とも理不尽な権能だった。

その権能は【分解】……正確には、【純化】とでも言った方がいいか。

刀身に触れたエネルギーを純粋な状態へと強制的に回帰させる。

黒龍の身体は固い鱗と、それを上回る瘴気が覆っていて、魔法も剣も傷を付ける事が出来なかった。

それを解決したのがアレだ。

そしてアレ、前衛が使う闘気も分解、純化してくるから厄介この上ない。

前衛はアレを相手にする時点で、受け流すと防御するって択が封じられる訳だ。

「はっ!憐れだな、道具だよりの戦いかたしか出来ないとはねっ」

明らかに負け惜しみ。

いや、負けてないが。

「何ともでもどうぞ。最終的に勝てばよいと彼の【識者ルト】も言っております」

「──チッ!一旦引くっ!」

今度は刹那が大きく後ろに跳んだ。

「逃がしませんよ」

空中、身動きの取りづらい刹那へ、一閃。

光が迫る。

「──そうそうに、使わされるとはねェ」

刹那は、

「なっ」

「逃げさせてもらうぜ?」

転がりながら、竹刀を一本回収する。

「仕切り直しだ──さァ第二ラウンドと行こうか」

空いた距離は5m弱───双方とも、一息で詰められる距離……しかし、一息はかかる。

「来いよ、格下」

刹那は初手を譲るように、構えを解いた。

瞬間

「遠慮なく」

レーネが鼻先まで迫る。

「普通、躊躇うだろ」

「貴方はしないでしょう」

「さァ───どうだろうな」

、腹へ掌打を打つ。

「カッ」

レーネの腹が爆散しなかったのは、一重に聖装サクラメントによる加護が大きい。

しかし、それでも完全防御ノーダメージと言う訳にはいかない。

だから───

「ハァッ!」

───復帰の速さは、レーネ自身の強さの証明に他ならない。

「ぶねェ!」

レーネの足が頬を掠め、頬から血が流れた。

「…全身凶器かよ、聖装それ

ちょっとドン引きしつつ、息を整えているレーネを待つ……と言っても、2、3秒ほどだったが。

「お優しい事で」

「皮肉が言えるなら大丈夫だな」

「……心配していたのですか?」

「いんや?全然」

「よかった、もししていたなら貴方を刺し殺すところです」

「口だけなら何とでも言えるな」

「───少々、本気を出します」

そう言うと、彼女は身を屈める。

聖典騎装サクラメント──要求オーダー位階レベル 災浄ワールズ

(次元防御……?キャパを【聖典】に移して直で【聖典】の力を受け取ってる?)

だとすれば、貫くのは容易じゃない。

聖典教の【聖典】が何なのか、諸説あるが、最も有力なのは───

(【識者の遺産】…【世界の魔道書】)

もし、本当に【聖典】とやらがそれなら、厄介この上ないな。

(こっからじゃ、な。やはり【識者の遺産】系列は…隠蔽がされている、か)

「───こちらの準備は整いました。貴方は?」

「最初から準備万端だ。さっさと来いよ」

「では」

第三ラウンドのゴングが鳴って───

世界は音を忘れた。

音速を優に超越した両者は、無音の世界で剣を交わす。

「さっきから、何なんですその竹刀!?」

この戦闘にて壊れない程の竹刀とは、何なんだとばかりにレーネは文句を眼前の刹那へ言った。

「ただの竹刀だ。まぁ、良く闘気を練り込んだから、ちょっと定着仕掛かってるが」

「ハァ!?」

純真メタトロン】の純化の力は、消失ではない。

あくまでも分解であり、一瞬にして消し去る訳ではないのだ。

(効率悪ィ)

とは言え、練った先から分解霧散していくので中々に効率は悪い上、ここまでの超速戦闘だと、間に合うかはかなり怪しい。

純真メタトロン】との接触を最低限にするように立ち回ってはいるが、そのうち分解が勝るだろう。

「身体能力だけなら、【天帝】と同等──」

【識者の遺産】だから、まぁ無理すればこれ以上もあるだろう。

「──認めよう、レーネ。お前の称号は何だ?」

「【聖騎士】のを、刻まれました」

「そうか。【聖騎士】レーネ・グラウディア──お前の実力は、確かにそのに相応しい。だからこそ、見せてやろう───」

超速戦闘が止んだ。

両者、動かない。

──否、動けない。

「───人類最強の一撃を」

竹刀を上段に構える。

「魔剣・虚像からり」

瞬間、竹刀が世界から消えた。

(いや─────?)

視覚的には、存在しない。

そして多分、物理的にも存在していない。

だが、確かにレーネの第六感は、目に見えぬ剣を捉えていた。

「そうか、これを

その瞬間、刹那が満足そうに笑った──ように、視えた。

(回避───不可能。流す?受ける──)

──しか、ない。

「次を楽しみにしている」

その言葉で、視えない世界の剣が振り下ろされた。







【聖典騎装】

略称【聖装】

【識者の遺産】であり、通常はそれ自体が【聖典】の子機のような役割を果たす。

使用者の任意、あるいは緊急時に発動し、その時の申請レベルに応じた光の鎧のような物を召喚する。

位階

災浄ワールズ

【聖装】を【聖典】本体に直接繋ぎ、【聖典】そのものから加護を受けている状態。

この世界において最上位の防御性能を誇る。

聖典そのものが魔力消費を負担するため魔力消費量はゼロ。

汎用形態で可能な事は大体出来る上、代わりに魔法の行使も可能。

祓魔エクソシスト

使用者の意思で出力%を決められる汎用形態。

身体強化、自動回復、結界、浄化等々…多種多様な機能がある。




裏剣 魂咲き

精神世界で相手を斬る技であり、現実世界での挙動を必要としない。

幽霊系統の魔物相手にわざわざ高い付与ポーションを使うのを嫌がった刹那の姉が文句を言ったので出来た技。

人間相手に使うと気絶する。

最悪の場合は記憶障害が残るのであまり人相手には使わない。

なお、肉体を持つ生命体はこの技では絶命しない。


魔剣 虚像斬り

魔法を斬る為に刹那が自身で創った業。

闘気の超圧縮により、剣を一時的に魔法世界に移し、その状態で魔法的な構造を斬る事により魔法を霧散させる。

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人類最強、迷宮を征く あじたま @1ajn

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