第4話 生徒
武道場が許可制だったので2時間ほど時間がある。
レーネは
「アップしてきます」
と言い学院の外周を走りに行ったが……
「どうするもんかね」
他の教室でも覗きに行くか?
(……名案じゃね)
と言うわけで、色々な教室を見て回る。
魔法、
何が酷いって、大体人間相手の戦い方教えてんだよな……無駄にはならんだろうが、探索者を育てるならもっと人外相手の戦術教えないと使えんぞ。
全ての教室を見て回り、最後に足を向けたのは運動場だった。
「連携の実習か」
教師相手に、代わる代わる生徒のグループが挑んでいた。
恐らく、高学年なのだろう。
身体が出来上がっている者もちらほらいる。
連携の方は…どのパーティも、後衛はまぁ…良く見てる。
でも、前衛がなァ。
「あ、【剣帝】の先生だ」
頬杖をつき、段差に座り込んで見ていた刹那を指差して、駆け寄ってくる女子生徒。
「んァ?なんだ」
声を掛けられると思っていなかった刹那は意外そうに女子生徒を見た。
「先生もこの実習の先生なんですか?」
(……実習は担当だが…)
「いや、話は聞いてない。まぁ…見る限り教員が足りてないようだし、相手が欲しいなら付き合ってやるが」
恐らく、この実習は俺が担当する奴とは別だろう。なんも話聞いてないし。
「やった!ずっと待たされてて退屈だったんですよ。メンバー呼んで来ますね」
屈託なく笑い、女子生徒はメンバー達の方へ走って行った。
◆◆◆
「おーい、皆!」
退屈そうに待っているメンバー達に手を振りながら走り寄る。
「遅かったな、
リーダーの男子生徒、
「いやさぁ、さっきそこで【剣帝】先生と会ってね」
メンバー全員が少し眉を潜める。
あの先生、初日で生徒教師問わず盛大に喧嘩売ったから、結構嫌われ気味だったのだ。
「へぇ……それで?」
男装麗人と言う言葉のピッタリな女子生徒、
「私達の相手になってくれるって!」
その言葉で、全員が一瞬固まり、そして次の瞬間好戦的な雰囲気を放った。
「良いじゃないですか、面白そうだ」
楊がそう言うと、同意するように楽が頷く。
「だな。お手並み拝見と行こうじゃないか」
「じゃあ、日夏達も呼んでくる!」
そう言って、再び悠儺は走り去った。
◆◆◆
「それでフルメンか?」
自身の前に集まった男女7人の生徒を見て、全員いるのかを確認する。
「えぇ、宜しくお願いします、先生」
生徒達を代表するように、男子生徒一人が前に出る。
「おう、宜しく」
「スタートの合図、どうしますか?」
エルフの女子生徒が質問してきた。
「ご自由にどうぞ?」
「そうですか、ありがとうございます。みんな、位置に」
そうリーダーらしき生徒が言うと、粛々と定位置につき始める。
「一番手は任せたぞ、荻花」
(男装してるが……ありゃ女か?)
一瞬分からんかったが、多分女。
(にしても、荻花?…ちったぁ楽しめそうだ)
「───……徒命一刀流、鳳仙花」
静かに、けれど迅速に。
荻花楊の腰から刀が抜き放たれ、滑り込む様な三連撃が足、胴、首へと入る。
…が、
「技の練度は悪かねェ。が、俺の防御を抜けないならそれも意味はねェ」
助言しつつ、手から衝撃波を放ち荻花を飛ばす。
「いつもなら、お前らが後詰めか?定型がハマらなかったみたいだな、困惑が拳に出てる」
後ろから迫る最速の次手、悠儺の拳を受け止め、前方に投げ飛ばす。
「良い死角の使い方だ。引かなかったのは褒めてやる」
悠儺の身体で出来た死角に潜り込んでいた悠哉が鳩尾を目掛けて殴りかかる。
「
拳に付与された効果は、幻痛。
「悪いが、魔力差で効かねェよ」
真正面から受けた拳を、腹筋で跳ね返し、後衛を見る。
「「───
二人の声が重なった。
「若くて良いねぇ。復帰が早い……が、一つ勘違いを訂正しておこう」
刀を指で挟み、拳を指で受け止め、周囲を見渡す。
「元々、油断しまくりだ」
(後ろに2、前方2。左右に2……残り一人は……あぁ、エルフだったか、確か)
「じゃあ、そこか」
幻惑魔法の
ほぼ山勘で悠儺の拳を掴んで投げる。
「なっ!?」
斜め後ろ。
悲鳴が二つ。
どうやら当たったか。
「ほいよ」
荻花から刀を絡めとりつつ、荻花を楽の方へと投げた。
「即座にカバーする姿勢は良い。それと、味方がいる時に無闇に打たないのも」
だが
「場所が割れてることに気づけないのはマイナスだ。隠形は絶対じゃない。特に勘の良いモンスター相手じゃほぼ意味ないと思った方が良いぞ」
拾い上げた小石を四方向へ飛ばす。
「ぐっ」
「げっ」
「Why!?」
「ファック!?」
「おい、最後ォ」
取りあえず、全員のしたが……
「まだやるかい?後30分くらいなら付き合えるけどよ」
周囲を見渡す。
どうやら、全員休む気は無いようだ。
「根性だけは認めてやる。次からは、俺も積極的に行くぞ。十秒やる、体勢を立て直せ」
そう言うと、各々が位置に着く。
先程よりも広めに間隔をとって、前衛も先程よりもゆとりがある。
(成る程、持久戦に切り替えたか)
「良い判断だ。初手は譲ってやる」
言うまでもなく、矢が飛んでくる。
「幻惑魔法の使い方を変えたな。そう言う工夫はもっとしていけ」
矢──に姿を変えられた火玉を握りつぶし、殺到する魔法や投げ物の数々を見る。
「甘えんな。一度通じなかった手をそのまま使うんじゃねぇ」
幻惑魔法による投影。
俺個人に作用するわけではないので先程のように魔力差でごり押せない。
……そろそろ攻めるか。
「じゃあ、行くぞ」
一歩、踏み出した所で誰かが前に出る。
「幻惑魔法を煙幕代わりにしたかなるほど、良い連携だ」
次の瞬間、幻惑魔法から三人が飛び出した。
俺の足止めに振り切ったな。
「敵わないなら、自分達ごとか。覚悟はいいだが、探索者の鉄則は生存だ。それじゃあテメェら三人とも落第」
そう言いながら前の生徒の頭を手で抑えて上に飛ぶ。
「それと、狙いが丸分かりだ。殺気を抑えろよ、荻花」
露骨に刀へと視線が行っている荻花へ向けて刀を投げ渡す。
……まぁ、体勢的にまともに受け取りはしないだろうが。
「さて──……ん?お前、
後衛の……エルフだ。
「お覚悟!」
後ろから、がしりと俺にしがみついたのは、
「この距離でなら……!!」
至近距離で杖を構えるのは、後衛の三人。
「刺し違えてでも、ってやる気は買うが…探索者に重要なのは生きて情報を持ち帰る事だ。俺が攻撃すると言った時点で、お前らは何をしてでも逃げるべきだった」
後ろにしがみつく女子生徒の頭を掴み、軽くアイアンクロー。
「痛っ!いだだだだ!」
踠いてるので離してやる。
「─っ」
直ぐに向かってこようとするのは良いが、ちゃんと見た方が良いぜ?
「悠儺ちゃん!」
警告したのは後衛の女子生徒の内の一人。
「───だろうなァ、もう上がるだろ、魔法」
上級だな。そこそこ破壊力ある奴。
「それを使う判断をしたのは褒めてやる」
魔法陣がいっそう光を放ち、完成する。
「「「炎魔法、灼光閃」」」
三本の光の熱線が、刹那目掛けて放たれる。
(避け…ると被害が拡大する。受けるか)
「ご褒美だ、受けてやる」
(アッツ)
三本全てが俺に直撃する。
「な、何で」
後衛の一人が、動揺した様にそう言った。
「闘気で守っただけだ」
「──ッお願い!悠哉君!」
そう助けを求めるように見つめた先は、後方。
「なんかこそこそやってたのは知ってるが──そりゃどういうモンだ」
刹那の視線の先には、オレンジ色のオーラを漂わせる悠哉がいた。
「【
「憑依系……いや、召喚系か。……あんまりお勧めしないねェ……身体的な負担が馬鹿にならんよ?」
「ハハ、知ってます」
そう言うと、悠哉が消えた。
「先生、俺の事見えてました?」
一瞬で六人を回収し、離れたところに置く。
「当然だろ」
「……その強がり、いつまで持つか見物ですね」
再び、高速移動。
(いや、殴るの自体は簡単なんだが……)
それだと、こいつの身体がミンチになるんだよなぁ。
さっきも、まぁわざわざ止める必要ないってものあるが、下手に手を出すと身体がミンチになるから手を出すのを躊躇ったのだ。
速さと身体の耐久力が合ってない。
「仕方ねェな」
「何がです?」
「一つ、技を見せてやる」
裏剣────
「
ガクッ
悠哉は急速に失速し、転ぶ。
「な、にが」
何が起きたのか、困惑している様子だった。
「借り物の力だ。いつ失っても可笑しくないだろ」
「……」
信じられないと言った様子で沈黙するリーダー格。
まぁ、そう言うもんだ。
え?何したのかって?
魂に喚ばれていた過去の英雄の情報を『
まぁ、人格まで書き変わると使えない対処法ではあるが、あくまでも能力の情報を乗せただけだからまだ対処は簡単だ。
(だが……やはり【識者の遺産】は頭おかしいな)
刻印者くらいの速さはあったんじゃないか?
「だが、あまりそれを多用しない方が良いぞ。本来は過去の英雄を召喚するのもだろう?」
「……よく分かりますね」
「まぁ、【識者の遺産】はそこそこ見慣れてる。……で、話を戻すが、そんな無茶やってたら精神も身体も持たない。正規の使い方出来るようになるまで待つこった」
「……はい」
しゅんとした様子で頷く悠哉。
「……で、そこの。お前だけ、なんか余裕あるな。まだやる?」
問いの相手は、最初に声を掛けてきた生徒だ。
(名前……何だったか)
戦いの中で呼ばれていた気がするが、忘れた。
(名前覚えるの苦手なんだよな……覚えた奴も明日には死んでたし……覚える意味あんま無かったから)
正確には、レーネなどのある程度の強者なら覚えられる。
のだが……弱いと死ぬから弱い奴は覚えても意味が無かった。
「お前、ではなく
「黒上川悠儺?」
「黒上悠儺です。好きに呼んでどうぞ」
「おっけェ黒……川?」
「上です!」
「おう窪上」
「黒!上!」
「おう黒」
……
「まぁ、間違えられるよりは、マシ、です」
「で、やる?」
時計を見る。
「十分ならやれるが」
「……いいえ、止めておきます。まだ、貴方に勝てる気がしません」
まだね。勝つ気があるのは良いことだ。
「そうか。まぁ、懸命な判断ではあるな」
そう言うと、刹那は生徒達に背を向ける。
「一応、痛むなら保健室行けよ。……あ、そうだ。お前らさ」
思い出したかのように振り返る。
「この後暇だったら第一武道場に来いよ。良いもん見れるぜ」
7人の生徒は首を傾げる。
「先生、良いもんって……?」
黒上悠儺が聞いた。
「見てのお楽しみだァ…じゃあな」
そう言って去る刹那の後ろ姿に、生徒達は脱力する。
「はぁ……飛んでもない人だった。まさか、アレに対応されるなんてな」
悠哉が悔しそうに言う。
「まだまだ余裕ありありって感じでしたよねぇ、あの人」
後衛の魔法師の一人のメガネ女子がそう言った。
「ダメだね、多分一割も出せてないや。もっと精進しなきゃな」
己の刀を見つめて、荻花が言う。
「……そう、ですわね。私の魔法も、一瞬で看破されてしまいました」
エルフの女子生徒は、落ち込んだように耳を垂れ下げた。
「しっかし、どういう防御力だよ!他の教員でもあの距離で灼光閃食らって衣服に焦げすらないって、無理だろ!」
後衛の男子生徒が愚痴を言った。
「闘気……でしたか?お
メガネを着けた後衛の男子がそう言った。
「で、実際どうなんだ?悠儺」
悠哉は、悠儺の方を見て意見を求める。
「うーん……私が本気になっても無理だね。基礎能力が違いすぎるし」
沈黙が流れる。
「……まぁ、良いじゃないですか。もうこの学校の教諭達でも連携を取れば相手にならなかった。新たな壁として、実に良い」
メガネの男子生徒が言うと、悠儺が頷いて言った。
「……だね!」
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