第2話 学園迷宮
「そうですね。色々、本当に色々な事がありましたから」
合成音声のようなそれは、部屋全体から響いているようだった。
「一応聞くが、レイで間違いないんだな?」
「はい。なんなら先生の黒歴史でもお話ししましょうか?」
「あぁ、いい。そのクソガキ感は間違いなくお前だ」
ルナアリア・ソレイユは緋城刹那の事を含め、元パーティメンバーを師として慕っているが、その中でも刹那とは特に気安い中だった。
それは、パーティ内で最も若かったのが彼ら二人と言う事もある程度関係しているが。
「で……依頼の話だ。深淵城塞の調査と攻略、それと……アイツらの調査。色々聞きたい事はあるが……そもそも、深淵城塞は、また出現したのか?」
かつての刹那が所属していたパーティ『白峰』も、そこの攻略を最終目標としていた。
しかし、十年前のある日、事件は起こる。
名前の通り、突然、何の前触れもなく、ダンジョンが消失した。
それは、中に探索に入っていた探索者達も含めて、である。
──無論、その中には当時攻略をしていた、『白峰』を含む上位パーティもいた。
(俺がその時、たまたま深淵城塞の外にいたのは、幸か不幸か、分からんな)
……だが、迷宮消失は、過去から現在まで、この一件のみしか確認例の報告がなされておらず、まだまだ未解明の現象であり、確かに再びダンジョンが出現したとしてもおかしくはない。
「えぇ。場所は学園迷宮の26階。そこが、深淵城塞の1階と繋がっているそうです。そして、当時探索に出ていた探索者のパーティと全く同じ武具を身につけたアンデッドの一団も確認されました」
探索者の情報は、厳正に管理されている。
それが10年前と言えども、その情報に誤りはないだろう。
(そもそも、装備をしてるアンデッド自体が稀な存在だ。ほぼ100%、元探索者確定だろう)
「なるほど……最悪の想定……上位パーティの奴ら全員がアンデッド化してる場合、まぁ確かに俺くらいしか対応出来んだろうな」
いや、仮に元パーティメンバーもアンデッド化しているなら、自分でも厳しいかも知れない。
「……はい、【墓標】にも新たな帝級の記述はありませんので、対応可能なのは現状貴方しかいないと判断しました」
【墓標】とは、【識者の遺産】と呼ばれる物の一つで、様々な情報を加味し、総合的な世界への脅威度で二つ名及び名を刻む巨大な石碑である。
俺の【剣帝】と言うのも、その【墓標】に刻まれたからそう呼ばれている。
今のところ、神話の時代を除き、個人武力のみで名が刻まれた者達の二つ名で最高位は【帝】とされている。
「一応聞くが、【聖級】は?」
【聖級】と言えどピンキリだ。
「貴方の案内を担当させたレーネがそうですね」
なるほどね
「強そうな訳だ」
だがまぁ、戦力になるかと言われれば……微妙だろうな。
俺達のパーティ含め、当時の深淵攻略勢って、リーダーは【帝級】、その他戦闘員は【聖級】、最低でも名が刻まれた刻印者だったし。
当時のフルメンバー10人中、三人は【帝級】、他7人にしても【聖級】だった。
【聖級】一人じゃ普通に死ぬ可能性が大いにある。
「他の【聖級】は?」
俺と……最低でも10人くらいは【聖級】が欲しい所だ。
「大国に一人づつ」
「たった五人か!?」
大国、そう呼ばれる国は、俺の知る限り四ヶ国しかない。
それにレーネを含めて、たった五人。
「言いたい事は分かります。……最悪、【識者の遺産】を動かす選択肢も評議会では出ています」
「いやにしても……う~ん、絶望的ィ」
最低、連携の取れる熟達した【聖級】10人。
それでやっと俺の庇護下から外れるレベル。
余計な人手はむしろ足手まといになりかねんぞ。
「それと、学園迷宮についても説明を」
「ん?廃墟になった元学園に出来た迷宮何じゃねぇのか?」
ダンジョンというのは何パターンか種類がある。
まずは既存の建物や洞窟などの地形が魔物により占拠されるパターン。
まぁ、これがメジャーで、殆どだ。
次に、別世界の異空間と繋がってしまうパターン。
深淵城塞などがこれで、通常、これの侵食は出現時から数分で止まるんだが、深淵城塞は年単位で侵食を続けて、聖典教や他の四大国が共同開発した結界でなんとか止まった。
そして最後は……まぁ特殊なので神話以前くらいしか記録にないが、強すぎる存在が放つオーラで時空が歪み
「いいえ。学園迷宮は、迷宮の上に学園を建てたが故にそう呼ばれています」
迷宮の上に学園を……?
「ちょっと待て、まさか、侵食型の迷宮の上に、それを止めるために建てた、とか言わねぇよな」
「良く分かりましたね。その通りです」
(……平和になった、と言えば良いのか、平和ボケだ、と言えば良いのか)
活火山の上に学校を建てるようなものだ、無茶、と言うか危険すぎる。
「……理解できない、と言った顔ですね」
「そりゃな。俺からしてみれば、ダンジョンなんざ……関わらん方が良い代物だ」
けれど、それが教育の一つになっている。
と言うことは一つの道として、
「先人としては、来るんじゃねぇよこんな道って言いたいけどな」
「深淵城塞出現から、長らく…二度とないと言いきれない脅威を前に、国策として各国が取り組んでいる事ですから。……学園迷宮は、ある種のモデルケースです」
その声音──と言って良いのか微妙な所だが──からは、少しばかり不安げな様子が感じれた。
まぁ、彼女もあの地獄を知る身だ。
色々と思う所はあるのだろう。
「それで…まぁ九割方読めてるが、なんでわざわざその話を?」
この依頼、戦力不足もそうだが単純な戦力以上に厄介そうだ。
「はい。学園迷宮には、その上にある都立ノアリア学院の関係者以外立ち入れません。ですので」
(やっぱりか)
「都立ノアリア学院の講師として、学園迷宮及び深淵城塞の調査を依頼します」
「えっと……生徒じゃダメ?」
【識者の遺産】
神話の時代を締めくくり、世界を人の手へと継いだ偉人、【識者】の遺産。
現在存在する四つの大国は、各々が識者から任された【遺産】の管理をしている。
また、評議会も識者がその母体を設立している。
【永遠の墓標】
通称【墓標】
曰く、それは遠き日の遺産。最も最古に近く、今もただ、後に続く者を待つ。
識者が作ったこの世界のバランスを取るための戦力可視化機
だったが、無駄に高性能だったので本来の目的である単純な武力の測定に留まらず、政治、経済、魅力、武力etc.の様々な項目で、「世界に影響を与えうる個人」の名が刻まれる。
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