憧れ 後編

 慌てて飛び出した帰り道。

 焦るわたしとは裏腹に、どこまでも静かな道だった。

 そもそも歩いて登下校している人達が少ないのもある。大多数は親の送り迎えで通学しているし。

 電車を乗り換えてまで通っているのはわたしの知る限り、わたしと沖野さんともう一人、運動部の女の子の三人だけ。

 後は普通に電車一本で通える子達が十人と少し。

 そもそもこの地域自体何もなくって、人がいたとしてもおじいさんやおばあさん、それぐらいだ。


 学校から駅までは歩いて十五分ぐらい。前述の通り道中もほとんど何もない。

 畑すら見当たらなくて、視界が寂しい。

 耳を傾ければ川のせせらぎが辛うじて聞こえてくる。

 畑がないとは言ったけれど、駅前にだけは畑がある。確か豆畑だって誰かが言ってた。

 震災前は畑が多かったらしいけれど、被災の影響で土壌がやられてしまい今ではかなり小規模になってしまっている。


 早足で歩くうち、高速道路の橋の下を歩く、最近見慣れた小さな背中をようやく見つける。

 ゆっくりゆっくり歩いていて、早足じゃなくても追いつきそうだ。

 思い出せる沖野さんはいつも千鳥足だから、どのぐらいのペースで歩いているのか分からない。

 だからわたしもゆっくり後ろを追っていた。


 声をどうかけようか、悩んでいる暇もなくあっという間に駅に着く。

 結局彼女に話しかけることは出来なかった。

 どう話しかければ、何を話せばいいか、わからなくって。

 そもそもわたしは彼女と何を話したいんだろう。

 友達になりたい、もっと知りたい。

 それだけが暫定的に前に出ていて、そこから先のイメージが全く見えない。

 そもそもどうしてわたしは彼女と友達になりたいのだろう。


 ……ダメだなぁ、なんか。

 妙におセンチでノスタルジックな気分だった。

 考えすぎかな。

 一度何かを考えてしまうと止まらない質なのは昔から自覚している。

 夜、眠れない時とかさ、哲学的な事について考えてしまって、余計眠れなくなる、みたいな経験が誰しもあると思う。あの感覚に近い。

 ドツボにハマって抜け出せなくなってしまう。

 どうして、こうだから、じゃあそれはどうして。

 これの無限ループ。


 お母さんは『あきは集中力が凄いのよぉ』と自慢げだったけれど、その集中力が結果に繋がったことがあっただろうか。

 小学校の通信簿には『注意力が散漫な子です』と記載されていたのを覚えている。


 どちらも正しくてどちらも間違っている。

 わたしは一つしかない、簡単で唯一の答えを求めている。決して相反しない、そんなものが。

 二つ答えがある事が受け入れられないのだ。

 そんな事柄がこの世界には多すぎる。

 誰かにとっては正しくて、誰かにとっては間違っている。

 わたしはそのどちらにも属せずに、真ん中でどっちに行けば良いのか立ち往生している。

 結局何者にもなれないのだけど。

 わたしが進む道が欲しい。

 たった一つ。わたしにピッタリな進むべき道。

 運命的な出会いを、誰かの特別になれるその日をわたしはずっと待っている。


 ……ごちゃごちゃ色々考えてはみたけれど、要するにわたしはアイデンティティが確立できていない、そういうお話。

 自分らしさがわからないから。

 どんなにクラスから浮いていても、他人に影響されずに真っ直ぐな人。みんなにとって特別な人。

 例えそれが白雪姫なんて蔑称だとしても。

 あぁ、そっか。

 きっとわたしは沖野かえでに憧れている。



後書き


あんまり文字数長くなると読みづらいかなあ、と思って前後に分割しているのですけれど、かえって読みづらくなっていたりしないでしょうか。

今ぐらいの方が読みやすいとか、もっと文字数あっても平気だとか。地の文が多すぎるとちょっと疲れてしまうかなと。

何か意見等ありましたら、教えて下さると嬉しいです。

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