第29話 忘れられない想い
道場を出て、帰り道、ファミレスに寄った。
もう、10時近い時間。
こんな時間に子どもを連れて夕食ってのもなんだけど、すごく腹が減っていた。
柚希と、子どもたちは、剣道に行く前に早めの夕食を済ませていたけど、俺は仕事から帰って、何も食べずに剣道に行ったから。
柚希も、子どもたちもお腹はすいていたみたいで、家族でハンバーグをガッツリ食べた。
う~~~~ん。
さっきの三崎さんとの話を柚希としたいけど、峻と奏がいるから、今 話はできないな。
三崎さんは、柚希のことを5年間も探していたのだと。
名前もわからない “”余韻の人“” を。
わかっていることは、長野出身で横浜在住だということ。
昔、剣道をやっていた人だということ。
花が好きな人で、昔、花屋さんでアルバイトをしていたということ。
10周年のRealのライブに柚希が行った時に、
マネージャーさんと話しているところを、隠し撮りしたってゆうスマホの写真。
それだけが手がかりだったのだと。
今も、花屋さんで働いているかもしれない、と、横浜中の花屋さんで聞き込みをした。
今も、剣道をやっているのかも、と、横浜中の剣道の道場を片っ端から聞いて回った。
情報は得られず、隣りの川崎市を聞いて回ることにした。
花屋さんと、剣道場。
そして今日、ついに見つけたのだと。
ちょうど坂城先生と試合稽古中だった。
面をつけている状態で顔が見えなかったけど、
この人じゃないか?って、直感的にそう思った、と。
「どうして私を探していたんですか?」
「keigoさんがあなたのことを、」
そこまで言って、あっ……と言い淀んだ。
「あ、大丈夫ですよ。
主人は、全部知っていることなので」
「そうなんですね。
keigoさんが、探してほしいとか言ったわけじゃないんです。
私が勝手に探してました。
keigoさんに会っていただけませんか?」
「私は、見ての通り、普通の一般人です。
桂吾、桂吾さんは、20年前の思い出を、だいぶ思い出補正してるんだと思うんですよ。
私は、なんの取り柄もない普通の女なんで」
「先ほど、師範の先生と稽古されてるところを拝見しましたが、目が離せなかった。
うしろに下がりながら、先生の面をかわすのが精いっぱいな状況なのに、あなたは前に出て胴を取りにいった。
すごいと思いました。
あの場面で前に出るって。
勇気があるなって。
あ、私も剣道経験者なので。
今は、もうやってませんけど。
keigoさんが、昔好きだった人が剣道やってた人だったんだよね~って笑ってて、私もあなたに会いたいって思いました」
「三崎さんが、私を探してくれたのは、私と話をしたかったからですか?
それとも、桂吾さんに会ってほしいってことですか?」
「どちらもですが……
keigoさんは、あなたのことをずっと、今も想っています。
それを近くで見ていると、時にキツそうで、切なくて、忘れさせて欲しいんです」
「忘れさせるってゆうのは、実際どうすればいいんですか?
忘れてね!って言ったところで、忘れられるものではないと思うんですが」
忘れる
忘れさせる
忘れられない想いを、忘れさせるって、どうすればいいんだろう?
会うことで、納得できれば忘れられるのか?
会うことで、火に油を注ぐことにならないか?
国元のように……
だけど、5年間も柚希を探していたという、この三崎さんの思いも無にしてはいけないと思った。
人探しは、本当に大変なことだ。
警察だって、苦労する。
まして、一般人だ。
仕事終わりや休みの日をつかって花屋と、道場に足を運ぶなんて、並大抵のことじゃない。
そりゃ、冗談抜きに5年はかかる。
「会いに行こうよ!
あ、妻だけ行かせるわけにはいかないので、俺も同席させてもらいますけど、それでもよければ」
と、俺は言った。
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