第27話 剣道 2
「ゆき、坂城先生が相手してくれるって言ってるけど、どうする?」
と、柚希に聞いてみた。
「えっ?えっ?坂城先生が?
やるやるやる!!
恐れ多いけど、ぜひ、ぜひ、お願いします!!」
まぁ、そう言うだろうとは思っていたけど。
普段、坂城先生は指導はしてくれるけど、手合わせすることはめったにない。
まぁ、レベルが違いすぎるし。
他にも指導してくれる先生が大勢いるし。
坂城先生の相手をすることが出来るのは、そうゆう先生方がほとんどで、俺も声をかけられた時だけ。
今日で3回目だった。
柚希は、
「お願いします!!」
と、大きい声を出して、先生の前へ走って行った。
あっ!
がんばって!とかも、言えなかった。
広い道場、それぞれに稽古しているみんなも気づき、全員が動きを止め、その場に正座した。
わっ!注目度半端ねーー!!
俺だったら、こんなんキツいわ~~!!
柚希は、臆することなく、坂城先生と相対している。
ぐーーっと、一歩大きめに間合いを詰めた。
怖っ!!
これは、柚希の打突の間合いだけど、それ以上に先生の間合いに入っている。
先生は、一歩うしろへ下がった。
えっ?打たないのか?
先生が下がったところを、小手面と二段打ちして追いかけた。
どちらも浅く、有効打ではない。
先生が前に出て、胴を打ってきた。
パコーン!!と、完全なる1本を取られた。
これは、試合ではない。
だから、何本取られようと、先生が終わりにしない限り終わりではない。
胴を打たれた直後、クルッと振り返り、先生を追った。
先生が振り返ったところを面を打ち込んだ。
それを、先生は竹刀で払った。
柚希は、体当たりして引き面を打った。
パコーン!!と良い音がした。
今の引き面は、1本取れた面だった!!
引き面でうしろに下がった柚希を、今度は先生が追って連続打ちを繰り出した。
面、面、面!!
柚希は、ギリギリでかわしている。
うしろに下がっていた柚希が、パッ!と止まり、次の瞬間前へ出た。
面を打って向かってくる先生の胴へ飛び込み胴をした。
だが、その胴は、下に叩き落され、先生の面が決まった。
すごい!!
すご過ぎだろ!!
ここまで一度も立ち止まることはない。
ずっと動いている。
すごいスピードで!!
ずっと動いているけど、俺みたいにガチャガチャしている訳じゃない。
俺には見えないけど、そこにはすごい流れが、
すごい勢いで流れているのか。
お互いに一足一刀の間合いで、ピタッと止まった。
凍りつくような緊張感と静けさ。
フッと先生が息をはき、はい、と小さく言った。
かっこいい!!
めちゃめちゃ かっこよかった!!
俺の妻は、めちゃめちゃ かっこいい!!
大好きだーーーー!!!!って、叫びたいくらい。
柚希は、走って坂城先生のところへ行き、正座して話している。
手をつき礼をして、下手の壁ぎわへ行き、面をはずした。
俺は、飲み物を持って、柚希のところへ行った。
「おつかれ!はい、これ」
「あ、ありがとう。めちゃ のど渇いた!!」
俺は、柚希の隣りに座った。
「ねぇ、今言うことじゃないかもだけど」
「ん?なに?」
「ゆき、大好きだ!!」
「は?あははっ!今の稽古の感想じゃないの?」
「いや、すごかった!
俺は、やっぱり、剣道やってる ゆきのことが大好きだ!!って、そう思っちゃった」
「あははっ!ありがとうございます。
坂城先生、すごいね!!
まったく歯が立たないわ~!!
圧が、すごかった!!」
歯が立たなかったこともないし、圧がすごいと言いつつ、俺よりガンガン攻めていた。
そして、何よりキレイだった。
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