第26話 剣道

 土曜日、夕方から家族で川崎の道場へ行った。

峻は、剣道やらないけど、一緒に行って本を読んで待ってるって。

俺が行かない時も、いつもそうしているみたい。

本が好きなところも柚希似なんだな。

顔も似てるし。

穏やかな性格も似ている。

学校の成績も申し分ない。

逆に、俺に似たところがあるのかな?ってくらいだ。


 

この道場の、道場長の先生は、松井田先輩の大学時代の先輩だという、坂城先生。

7段の先生だ。

剣道の段位は8段が最高段位。

45歳で7段ってゆうのは、だいぶ驚異的だ。

俺も、松井田先輩も今も剣道を続けているけれど、5段だ。

県警の先輩でも、俺の知る限り6段の人がいるくらいかな。

7段、8段なんて、もう雲の上の存在。


剣道の昇段審査は、毎年受けられるものではない。

ちょっとしっかりと覚えてないけど、5段を取ったら、6段を受けられるのは5年後だったか。

その5年間しっかりと修行し鍛錬し、やっと受けることができる。

実技試験、日本剣道型、筆記試験で審査される。

6段以上になると、それより上段の方からの推薦状とかも必要になるんじゃなかったかな?

とにかく、上の段位になるのは、剣道人口の中でも、1%未満の割合いの話になってくる。


坂城先生と対すると、なんてゆうか、まさしく文字通り、手も足も出ないって感じ。

よく有段者の先生は、心がよめると言うが、ほんと それ!って思う。

どう攻めようと、どう崩そうと、絶対に有効打にはならない。

どっしりとした構えに隙はまったくない。

だからと言って、ただ構えて相対しているだけでは何の意味もない。

俺はやっぱり、動いて手数を多く打っていくしかないな。

ガチャガチャしているって言われても。

そのガチャガチャから、チャンスの1本を狙っていくしかない。

先に俺が動き、先生か出小手を打ってくるのを抜いての、抜き面。 

の、つもりが、突きをくらった。

一瞬、息もできないくらい のど元を突かれた。

いや、マジか!!

強えーーーー!!

先生のタイミングで、俺の稽古は終わった。

蹲踞そんきょし、竹刀を収め、礼をした。

そして、走って先生のところへ行き、正座した。


「ありがとうございました」


「倉田くんは、さすがだよね。

神奈川県警の道場で もまれているだけあって」


いや、イヤミなのか?

俺 今、手も足も出なかったけど……


「いえ、全然です!!

最後の突きは思いっきりくらいました。

突きをくらったのは、久しぶりです」


突きってゆうのは、やる方も、なかなか勇気がいる。

のど元の10✕12センチくらいの的に正面から真っすぐ突くのは、とても難しい。

練習ではやるけれど、だいたい外して相手の首にアザをつくることになる。


「いや、倉田くんの剣道は、素直な剣道だからね。

突きは、打ちやすいよ」


素直な剣道?

言われたことないけど。


「それより、奥さん すごいね?

前に松井田くんとやってるの見たけど。

秋に2段受けるんだって聞いたよ」


「あ、はい。

中高とやっていた人ですが、ブランクがあって、初段でとまってましたが、また本人ヤル気になったようなので」


「段位は、まぁ取る気なら取れるだろうね。

あれだけ見本みたいな剣道だからね」


「ありがとうございます」


「奥さんと試合稽古させてもらってもいいかな?」


「えっ?坂城先生とですか?

いくらなんでも力量が違いますよ!!」


「力量は、まぁ、そうだけど、心してかからないと、案外うまく流されてしまいそうだなって」


流れ!!って!!


「見えますか?」


「そりゃーね。もちろん」


わっ!!

先生と対戦する柚希の剣道を見てみたい。

柚希は、やるって言うだろうな。









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